人魚の歌
おとぎ話の漁師の網は
アザラシの化けた人魚を捉えた
人魚は歌う
アザラシの歌を
美しい人魚のため
漁師は少し盗みをした
漁師は娘におとぎ話を聞かせる
秘密をそっと誇らしげに
人魚は歌う
許されぬ恋の歌を
海岸を魚のように泳ぎながら
足の動かない娘は
足のある人魚におぶさって
毛皮の秘密を尋ねた
白い灯台に北の太陽が映え
緑の深い海際の山を背に
黒いドレスの人魚が歌う
惑いの誘いは靡く長い髪
滑る波の上を小さな船は行く
雲は淡く青く透き
丘の上に小さな紫の花が揺れる
人魚は歌う
沈まぬ太陽の歌を
白夜に輝くオーロラの風を
黄金の苔花の潮の香りを
ある夜
小さな漁村に流れ着いた
アザラシは真実を語った
樫の木は黙ったが
幻想は破られた
そして
静かな風が白いベールに
静かな波が白いドレスに
小さな娘は明るく駆けて
人魚は遂に歌を無くして
三人はいつまでも
幸せに暮らした
『オンディーヌ 海辺の恋人 2010』インスパイア