見出し画像

佐渡裕指揮 新日本フィルwith角野隼斗@熊本県立劇場 2024.5.22


はじめに

熊本県立芸術劇場で2024年5月22日に行われた、表題のコンサートに行きました。これはその備忘を兼ねたとりとめのない感想です。



劇場入口


ロビー


ロビーにある大型スクリーンに表示された公演予定表示
(実際は21:10頃終演でした)


コンサートホール入口向かって左側にある掲示




プログラム

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番
チャイコフスキー:交響曲第5番

プレトーク

佐渡裕です。みなさま、本日はお越しくださいましてありがとうございます。私は今年新日本フィルの音楽監督に就任して2年目になります。今日もチケットは完売ということで、ありがとうございます。満員のお客様の前で演奏するのは、新日本フィルにとっても大きなものになると思います。

僕はこの熊本県立劇場のホールは思い出深いところなんです。僕が総監督を務めていたシエナ交響楽団とも来たことがありますし。その日僕の誕生日だったんですね、それでアンコールでポルカを弾く予定だったのに、僕全然知らなかったのですが、突然楽団員がハッピーバースデーを弾き始めて、で、劇場のスタッフの方が素晴らしい方で、鏡割りをここに用意してくださったという。それから●●にも行ったんですよ(家族旅行でという話だったような気がしますが聴きそびれました)
そして震災があって、●●に行って演奏して。キッズオーケストラもして。

はい、分かっています、みなさんのお目当ては角野くんでしょう?
そうですよね、なんてったって東大出ですから。そりゃ気になりますよね
東大ですから。東大出のピアニスト、今まで聞いたことない(ぶつぶつとつぶやく)

それで、ユーモアのセンスもある、「あの顔」で。

僕と同じ人間とは思えない。

角野くん、何がすごいって、完璧なテクニック、音色(おんしょく)もそうですけど、センスが素晴らしい。(このチャイコフスキーも)暗がりに浮かび上がる銀の光というか、そうかと思うとダイナミックな音も出す。本当に素晴らしいピアニストが出てきたなと。

このチャイコフスキーのピアノ協奏曲も、すごいですよね。ピアノというオーケストラにはない楽器を使って曲を作るという、チャレンジングな曲。オーケストラとピアノが溶け合ったり、対決したりという曲で。


後半は、交響曲5番を演奏します。僕は幼いころ、クラシックのレコードを聴くのが好きだったんですね。はじめはドイツ音楽、モーツァルトやベートーヴェン、それからロシア音楽のチャイコフスキーやラフマニノフにはまり、今日演奏するチャイコフスキーのピアノ協奏曲1番と交響曲5番は、僕が最初にはまったきっかけになった曲です。

交響曲の5番には、名曲が多いんですよね。ショスタコーヴィチ、マーラー、ベートーヴェンの運命。マーラーの交響曲5番は、ベートーヴェンの運命のダダダダーンのパロディーみたいなモティーフが出てくる。これは僕の推測ですけど、ベートーヴェンの5番が、のちの作曲家にプレッシャーを与えたんじゃないかと。

チャイコフスキーの5番、最初は暗いモティーフで始まりますが、2楽章はオケの中に突然クラリネットが襲い掛かってきたりして、3楽章はワルツ、チャイコフスキーお得意のワルツというんですかね。4楽章は歓喜へという、苦悩から歓喜へという展開になっています。

では最後までお楽しみください。

ピアノ協奏曲後のカーテンコールとアンコール前のMC

ブラボーの声と盛大な拍手。佐渡さんは、Bravoの声に指揮台の上で小さくうなずいているようでした。角野さんと並んで客席に向かってお辞儀をし、角野さんの手をがっちり握って高く掲げ、2人でお辞儀をし、舞台袖に戻りました。もう1度、2人でカーテンコールに出てきて、佐渡さんは各パートのメンバーを立たせて拍手。最後に再び角野さんと2人でピアノの横に並んで、手をつかみ、高く掲げてお辞儀をして、盛大な拍手の中、舞台袖に戻りました。

次に角野さんだけステージに戻ってきてお辞儀。アンコールを弾くのかと思ったら、再び舞台袖へ。なにやら舞台裏であちこち探しています。少しして、手にマイクを持ってステージに戻ってきて、拍手するお客さんに向かってお辞儀をし、

「ありがとうございます。僕は今日、初めての熊本ということで、はしゃぎすぎて今もくまモンのTシャツを着ているんですが」(笑いが起きる)
さっとピアノの椅子に腰掛け

「アンコールを1曲弾かせて下さい。実家で飼っている猫のために作った曲で大猫のワルツという曲です、熊ではなくて申し訳ないんですが」と言いながら、胸元にプリントされているくまモンのあたりを右手でクシャっとつかみ、

「それでは聴いてください」

と言ってマイクのスイッチを切ってピアノの中に置いて、大猫のワルツを弾き始めました。

アンコールを弾き終わると、お客さんの拍手の中お辞儀をして、にこやかに笑いながら颯爽と舞台袖に戻りました。


感想など

ピアノ協奏曲第1番

ピアノ協奏曲1番は、荘厳かつ高らかに響き渡るホルンに導かれ、ピアノの厚みのある豪快な和音を畳みかける演奏で始まりました。福岡に比べ、最初からピアノは重厚かつ力強い響きの和音で果敢に攻めていき、とてもパンチ力がありました。オケとピアノの掛け合いも、ピアノが挑発するように突き進み、それにオケも迫力ある演奏で応じる展開で、圧倒されました。ただ、ピアノがチェロとバスと駆け引きする場面、ピアノは勢いよく攻めるのですが、重い足取りのバスがあまり聞こえないというか、それは私がいた座席がバスから遠い席だったせいもあるかもしれません、もっと、ピアノの挑発に対して、多少ゆっくりめになってもいいのではっきりしっかりと重低音を響かせたら、この掛け合いはさらに迫力があったのではないかと個人的には思いました。

1楽章の最後は、福岡の時に比べ、旋律を丁寧に歌いながら進みました。盛り上がりはしたものの、福岡の時に比べると若干大人しいクライマックスだった気がしました。もっとピアノもオケも、前のめりに突き進み、勢いよく盛り上がってもよかったのではないかと思ったりしました。

2楽章は弦楽器の柔らかなピッツィカートでロマンティックに始まり、そこに美しいピアノの旋律が夢見るように乗ってきます。初めの主題部分はうっとりとするような美しい旋律を、オケやピアノが歌い合い、溶け合っていく演奏でした。中間部分のノリと切れの良いピアノが踊るようにオケを鼓舞するところも楽しげで素敵でした。この中間部に入る少し前、フルートとオーボエが旋律を歌い、次にクラリネットとバスーンが旋律を歌って、ピアノが寄り添うところ、ピアノがややせっかちにというか、せかしているように聞こえた気がしました。もう少し、フルートやクラリネットなど各パートが、ゆったり歌うのを待ってもいいのではないかしらん、と思ったりしました。その後の中間部の、踊るような軽やかなノリやキレの良さがさらに引き立つのではないかとも考えたりしました。これはあくまで私の個人的な感想です。

2楽章では、オケパートが歌っているときのピアノの高音部のきらめくトリルが、非常に美しかった。星の降る夜空を眺めているようでした。

3楽章は、空間を切り裂くようなオケの迫力あるフレーズに乗って、ピアノが鋭く力強く疾走していきます。随所に轟くティンパニ、勢い良く突き進むピアノに重低音を響かせ食らいつくチェロやバス。迫力満点の展開で、圧倒されました。最後のオケとピアノが競り合いながら激しく盛り上がっていき、激情が炸裂して豪快に終わる、本当にダイナミックで素晴らしかった。Bravoでした。

佐渡さんは滴る汗を手で拭いつつ、時に歌い、時に唸り声をあげながら、情熱的にタクトを振っていました。最後は大きく振りかぶって客席の方を向いてフィニッシュ。

2楽章は甘美に夢見るように、かと思うと3楽章は豪快に、ダイナミックに盛り上がって、そのコントラストも素晴らしかった。燃え盛る烈火のごとくパワフルで情熱的な演奏でした。

大猫のワルツ

ソリストアンコールの大猫のワルツは何度かホールで聴いたことがあるのですが、この日の演奏が一番安定感があって指も軽やかによく回り、優雅で素敵でした。太った猫が機敏に走り回り、時にじゃれて遊んでいる様子が目に浮かぶようでした。

交響曲第5番

次の交響曲は、福岡の時とあまり変わらぬ印象でした。繊細なところは繊細に歌い、ダイナミックなところは盛大に盛り上がり、これも素晴らしかった。

アンコールも軽やかで美しかったです。


おわりに

全体として、豪快かつ迫力満点の演奏でした。福岡公演に比べ、ピアノの響きが格段にグレードアップし、これぞチャイコフスキー、と思わせるような、盛大かつ情熱的な世界でした、しびれました。

以上、とりとめのない感想でした。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?