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週刊レキデンス~第23回~ ESA から HIF-PH 阻害薬へ

前回 rHuEPO  の開発までの経緯を追ってみました
rHuEPO が開発されたものの、適切な貧血改善効果を得るためには、特に血液透析患者は、rhuEPO を透析ごとに最大週 3 回投与する必要があります。これを 1 回毎に静脈内投与することは患者、透析医療関係者の双方にとても負担のかかる事で、投与回数のを減らすことは出来ないものかと・・・。

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そこで、麒麟麦酒株式会社(現:協和キリン株式会社)および Amgen Inc.は 1996 年より新たな持続型 ESA 製剤である ESA ダルベポエチン アルファ(遺伝子組換え)の共同開発に着手、日本では 2007 年「透析施行中の腎性貧血」を効能・効果として発売されるようになりました。(1)

ここで1つ疑問が浮かびます。
rhuEPO をESA (ダルベポエチン) に変えて問題無いのでしょうか?
従来の rhuEPO と比較して効果は劣らないのでしょうか? 2 つの RCT の結果を見てみましょう。

ESAは安全なの?

rHuEPO を投与した群とダルベポエチンに切り替えた群で比較した試験では、Hb 変化は統計学的に有意な差はありませんでした。つまりダルベポエチンアルファで治療しても rHuEPO と同等の効果があると判断をして良いのかもしれません。(2)(3)

rHuEPO に効果が劣らなかったものの、 ESA にも少なからず課題はありました。それは、心血管死亡率の高さです。特に高用量の ESA を投与した時に報告されています。
ESA 投与に関する死亡率への影響を見たあるコホート研究では、高用量 ESAによる低ヘモグロビン値(反応低下)全死亡と心血管死亡率が共に2倍高くなる傾向があると示されました。(4)
全死亡率 HR:1.94(95%CI、1.82-2.07)、心血管死亡率 HR:2.02(95%CI、1.88-2.17)

腎性貧血4

この傾向は RCT でも確認されています。 2006年に行われた CHOIR(Correction of Hemoglobin and Outcomes in Renal Insufficiency)試験においても心血管死亡率が 1.34 倍高くなることが示されました。(5)


高用量 ESA により死亡率の高さについて、明らかな機序は解明されていませんが、ESA の用量漸増に対する反応不良が、予後不良の主な予防因子と考えられています。

では、ESA の代替薬 HIF-PH 阻害剤は、血液透析を受けている人にとって安全なのでしょうか?

有効性と安全性の検討

ダプロデュスタット、ロキサデュスタット、バダデュスタットの3剤の結果を見てましょう。
まず、血液透析を受けている人を対象にダプロデュスタットの心血管イベント発生率を1次アウトカムで結果を見た臨床試験は現時点では余りありません。
非盲検化の試験結果ですが ESA と比較した結果、心血管イベントの発生率は、 ESA と効果が劣ることはありませんでした。しかし、有効性の統計学的有意差は示されていません。安全性については、有害事象の発生率は同程度でありました。(6)

次に血液透析を受けている日本人を対象に、ロキサデュスタットと ESA を比較した試験では、Hb 変化が非劣性を示しました。しかし、1次アウトカムが Hb 変化です。
今試験は心血管イベントの発生率をみれていないので、今後の経過が気になるところです。安全性については、20.7% vs 14.5% と同程度で統計学的有意差はありませんでした。(7)

バダデュスタットはどうでしょうか?
透析導入前の NDD-CKD に対してバダデュスタットの使用はダルベポエチンアルファと比較すると非劣性マージン未達成、かつ心血管イベント発生率のリスクは増加傾向。HR:1.17(95%[CI]、1.01-1.36)
重篤な有害事象は ESA未治療群:65.3% vs 64.5% 、ESA 治療経験群:58.5% vs 56.6% とほぼ同程度の割合だった。(8)
しかし既に透析を導入している場合は、ダルベポエチンと比較すると、心血管イベントの発生率や死亡率は増加傾向ですが高まることはありませんでした。
MACEのHR:0.96 (95%[CI]、0.83-1.11)P=0.5、死亡率のHR:0.95(0.81-1.12)P=0.5  
安全性について重篤な有害事象は、55.0% vs 58.3% と同程度であった。
ただし、無作為化しているが非盲検の第三相臨床試験結果であるため、盲検化されている試験結果報告を待ちたいところです。(9)

ここまで各臨床試験結果を見てみて、現時点では有効性の結論を付けるには、まだ早い薬であるという印象があるように思えます。これはまだ伸びしろのある薬だと ポジティブであろうが、ネガティブであろうが今後の結果を待ちましょう。


参考:

1.ネプスインタビューフォーム
2.Kidney Int. 2002 Dec;62(6):2167-75. PMID: 12427142
3.Am J Kidney Dis. 2002 Jul;40(1):110-8.PMID: 12087568
4.Am J Kidney Dis. 2012 Jan;59(1):108-16. PMID: 21890255
5.N Engl J Med. 2006 Nov 16;355(20):2085-98.PMID: 17108343
6.N Engl J Med. 2021 Dec 16;385(25):2325-2335.PMID: 34739194.
7.J Am Soc Nephrol. 2020 Jul;31(7):1628-1639. PMID: 32493693
8.N Engl J Med. 2021 Apr 29;384(17):1589-1600.PMID: 33913637.
9.N Engl J Med. 2021 Apr 29;384(17):1601-1612. PMID: 33913638

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