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「勝手にDI室」第108回薬剤師国家試験と現場の架け橋②

実務実習生になにをお伝えしようかと日々頭を悩ませています。勿論、モデル・コアカリキュラムに準拠した内容ではありますが、日常業務の中に落とし込んだものを改めて「伝える」ことを意識するのは難しいものですね。
そのきっかけになるものが、国家試験かもしれません。 現場と教育を繋げてくれるものとして利用しない手はないと思っています。 

そんな現場ではどう取り扱うかということを中心に 問251 を考えてみました。 

問題

問250-251
60歳女性。市町村が実施する検診で骨密度の低下が指摘され、近隣の整形外科を受診した。脆弱性骨折は見られなかったが、骨密度低下(腰椎骨密度測定値:若年成人平均値(YAM)の65%)のため骨粗鬆症と診断された。本日、以下の処方箋を持って初めて薬局を訪れた。

(処方)
バゼドキシフェン錠20㎎ 1回1錠(1日1錠)
エルデカルシトールカプセル0.75μg 1回1カプセル(1日1カプセル)
1日1回 朝食後 14日分

問251
薬剤師が他の医療機関の受診の有無を確認したところ、今回の整形外科以外に内科に通院していることが分かった。お薬手帳を確認したところ、以下の薬剤が処方されていることが確認できた。なお、整形外科ではお薬手帳を提示していなかった。

(処方)
ニフェジピン徐放錠40㎎ 1回1錠(1日1錠)
リバーロキサバン錠15㎎ 1回1錠(1日1錠)
セルトラリン錠100mg 1回1錠(1日1錠)
ボノプラザンフマル酸塩錠20㎎ 1回1錠(1日1錠)
1日1回朝食後 14日分
ブロチゾラム口腔内崩壊錠0.25㎎1回1錠 (1日1回)
1日1回 就寝前 14日分

この患者のお薬手帳の内容から、今回整形外科で処方された薬剤が禁忌となる疾患を内科で治療中である可能性が考えられた。その疾患はどれか
1:高カルシウム血症
2:深部静脈血栓症
3:パニック障害
4:胃食道逆流証
5:ナルコレプシー

健康診断などをきっかけに、医療機関を受診するというのはとてもよく経験するケースですよね。今回は「骨密度」でした、これを「コレステロール」や「血圧」、「血糖値」に置き換えても問題が作成できそうです。

さて、整形外科で処方された骨粗鬆症の薬と組み合わせで禁忌であるものを選択していけば良いのですが、回答への導きは、各予備校の先生方にお任せすると致しまして、、、

エビデンスの積み重ね

これは、よくあるパターンだという事が改めて実感できる症例問題でした。私が学生の頃は(もちろん)経験がなく、症例問題としてあるのだなくらいにしか思っていませんでしたが、実際に現場に立ってみると

①検診がきっかけで医療機関を受診
②他科の受診のことはお話されていない
③お薬手帳は医師に見せていない
④お薬手帳は使い分けている
など様々なパターンを経験させていただきます。
それに対して、私たちは患者さんの理解度合わせて、どのように医薬品の適正使用へ繋げることが出来るかを考えていく必要があります。
つまり、 情報を必要に応じて専門家として引き出したり、取捨選択ができるかどうか意識すると良いのかもしれません。

実際、今回の症例問題のように患者から服薬指導前後において既往歴や現病歴、併用薬をインタビューすることが出来た場合、適切な医薬品使用を考慮した結果、医師への疑義照会などの行動に繋がることがあります。
これをいわば巷で言われている「対人業務」と呼ばれているものの 1 つになると思われます。 

聞き取りに基づく疑義照会は、処方変更の割合が多い傾向にあるという報告があります(P<0.001)(1)。このように場合によっては、専門性に基づいた情報を引き出すコミュニケーション力も必要になっていきます。

こういった仕事をした場合、その後のフォローも含めて薬物治療を伴走するのが大事ですよね。 

それに加えて、今回の事例のようなものは「プレアボイド事例」と判断し、調剤薬局であれば、「ヒヤリハット事例集・分析事業」(2)への報告が可能です。

実際に ヒヤリハット事例集・分析事業の 2020 年No.11 事例 2 (3)に似たような症例が報告され、公表されています。

この機関への報告は「地域体制加算」要件の 1 つに掲げられています(4)。そういった面での義務的な報告だけではなく、定期的に薬局内で起こっているヒヤリハットやプレアボイド事例を全国で報告しあっていくことで、エビデンスを積み重ねていく。
そういった行動と結果を基に「調剤薬局がどういった仕事をしているのか」評価される手段として使えるようになるといいですよね。

調剤薬局はエビデンスを生んでいない 仕事をしていない こういった批判に対してどうあなたは立ち向かいますか?

参考

1:薬局薬剤師による「患者への聞き取り」に基づいて実施された疑義照会の実態解明と医療安全への貢献度評価 薬局薬学 2021;13:68-78
2:ヒヤリハット事例集・分析事業
3:ヒヤリハット事例集・分析事業 2020 年No.11
4:薬局機能情報提供制度実施要領(平成19年3月26日付け薬食発第0326026号厚生労働省医薬食品局長通知別添)


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