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エラトステネース『カタステリズモイ』翻訳㉚鷲(わし座)

 この星座は、ガニュメーデースを酌人にするよう、ゼウスのために彼を天に連れて行った鷲である。鷲が星々のうちにあるのはこうした理由によるが、以前、神々が鳥たちを分けたとき、ゼウスが鷲を得たことにもよる。生き物のうちで鷲のみが、その光に屈することなく太陽に向かって飛ぶ。そして鷲はすべての鳥に対する王権を持つ。この星座は翼を広げ、降り立つような姿をしている。アグラオステネースは『ナクソス島について』においてこう述べている。ゼウスはクレーテー島で生まれたが、容赦なく探し出され、そこからナクソス島へと拐われ連れて行かれた。彼は成長して成人すると、神々の王の座に着いた。彼がナクソス島からティーターンのもとへ出発したとき、鷲が彼とともにいるために現れた。鷲は吉兆と捉えられ、神聖なるものとされて星座になった。こうした理由で、鷲は天にあるという名誉に値するのである。
 
 この星座は4つの星を持ち、そのうち中央にあるものは明るい。

・ガニュメーデース:ガニュメーデースと彼が連れて行かれた話については「水を注ぐ者」参照。
 
・神々が鳥たちを分けたとき…:ギリシャの神々はそれぞれ聖鳥を持っていて、それがその神のシンボルになったりもしていました。ここで言われているゼウスの鷲も有名ですが、アテーナーは梟を聖鳥としていることで有名ですね。あとは、後の「鴉」の回で語られますがアポッローンの聖鳥は鴉だったりも。ヘーラーの聖鳥は孔雀とされることがありますが、これは牛に変えられたイーオー(「牡牛」の回参照)を見張らせていた百の目を持つ巨人アルゴスが殺されると、孔雀の羽にその目を飾った(あるいはアルゴスそのものを孔雀に変えた)からであると言われています。
 
・太陽に向かって飛ぶ:鷲の生態に詳しくないので本当にそうなのかはちょっとわかりませんが、その次にある鷲が鳥たちの王様云々って話と同じく、なんかイメージだけでそう言われてるような気がしないでもないです。
 
・アグラオステネース:歴史学者。「小熊」参照。
 
・ナクソス島へと拐われ連れて行かれた:ゼウスを探して拐ったのは誰なの?とか(おそらく敵対していたティーターン一派だとは思いますが)、拐われてなんで無事で済んだの?とか色々気になる点は多いのですが、どういう話が伝わっていたのでしょうか…?『ナクソス島について』が現存していないのが悔やまれます。おそらくは、ゼウスが幼少期を過ごしたのはナクソス島だという話のために後付けで作られた話の一つなんでしょうけど。
 
・中央にあるものは明るい:わし座α星アルタイルと見て間違いないでしょう。


 わし座についての解釈も別に変なところはありませんね。ガニュメーデースをさらった鷲です。
 
 ですが、そんな話は最初だけで、鷲がゼウスの聖鳥とされた話に持っていかれてます。まあ、なんで鷲がガニュメーデースを拐ったのかというとゼウスの聖鳥だったから、ということで付随する話ではあるんですけど。