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エラトステネース『カタステリズモイ』翻訳㊲エーリダノス(エリダヌス座)

エーリダノス

 この星座は、「オーリーオーン」の左足に始点を持つ。この星座はアラートスに従いエーリダノスと呼ばれるが、その根拠となるものは何もない。別の者たちは、この星座は正しくはナイル川であると言う。というのも、ナイル川だけが南にその始点を持つからである。そして、この星座は星々によってとりどりに飾られている。この星座の下にはカノーボスと呼ばれる星があり、この星は「アルゴー」の舵の近くにある。この星より下には、一つの星も見えない。こうした理由で、この星は「ペリゲイオス(大地に近いもの)」と呼ばれる。
 
 この星座が持つ星は以下。水源に1個、最初の曲がった部分のそばに3個、2つ目の曲がった部分のそばに3個、3つ目の曲がった部分から最後の曲がった部分にかけて7個。これらはナイルの河口であると言われている。星は全部で14個。

・エーリダノス:後述のようにナイル川ともされているので、単に「川」という項目名になっている写本も。なお、プトレマイオスもこの星座を単に「川」と呼び、本文で言及のあるアラートスさえも「川」と呼んでいる箇所があります。なお、エーリダノスは神話上の川で、そのモデルになった実在の川については色々言われているようですが、ギリシャ神話ではエーリダノス川は世界の果てにある川として出てきます。ヘーリオスの息子パエトーンが、父親に太陽の馬車の馭者を体験してみたいとおねだりしてた結果、案の定御しきれずに世界が大変なことになってしまったためやむなくゼウスが雷で彼を撃ち落としたのもこの川だとされています。なお、「エリダヌス座」という名称はこれがラテン語化されたものに由来します(ペーガソス→ペガスス座も同じですが、ギリシャ語の語尾-osはラテン語化されると-usとなるため)。
 
・ナイル川だけが南にその始点を持つ…:この星座が主に南の空に見えていたことと、ギリシャ人の知る川はほとんど北から流れてくることからこのような記述になったのでしょう。たしかに、ギリシャの川は地中海に流れ込むものが多いでしょうし、南から流れてくるナイル川は珍しかったのかもしれません。
 
・カノーボス:高度が低い、「アルゴー」のそばにあるという記述からもわかるように、りゅうこつ座α星のカノープスのこと。(前述のようにりゅうこつ座は「アルゴー」を分解した星座なので、じゃあ「アルゴー」のときに解説すればよかったのに…と思わないでもないですが…)なお、この名前はエジプトの言葉を音写したものらしく、それでカノー「ボ」ス、カノー「ポ」スと表記ゆれがあります。現在おなじみの「カノープス」という表記はカノーポスの方をラテン語化したもの。


 現在「エリダヌス座」として知られるこの星座は、前述のように単に「川」という呼ばれることも多々あります。ペガスス座が単に「馬」とされているのと似ていますね。でもだからといって、神話ではなく現実にあり、しかもギリシャではなくエジプトにあるナイル川とまで言われるのはどうなんでしょ…?まあ、さんかく座もナイル川デルタだとか言われちゃってるわけですが…。
 
 というかナイル川なんかの話をするんだったら、エーリダノス川に落ちたパエトーンの話をしてくれてもいいでしょ!と思うことしきりです。