エラトステネース『カタステリズモイ』翻訳㉓プレイアス(プレアデス星団)
プレイアス
・プレイアス:普通は複数形である「プレイアデス」という名称で呼ばれます。つまりプレアデス星団のこと。ここでは単数形ですが、単数でも星の一つのことではなく、プレアデス星団全体を集合的に指します。
・牡牛の背中の切れ目:「牡牛」の回でも言いましたが、この「牡牛」の星座は上半身しか存在しません。ちょうど見切れているあたりにこの星団があるということです。
・アトラースの娘たちであると…:アトラースについては「竜」の回参照。この7姉妹は個別エピソードはあまりなく、一番有名なヘルメースの母マイアはじめ、基本的には誰々の母親というキャラ付けです。というわけでその子供たちのことも説明しておきます。ダルダノスはダルダニア(バルカン半島の中央あたり)の名前の由来になったとされる人物で、ヘッレースポントス(「牡羊」の回参照)の別名ダーダネルス海峡の名前の由来にもなっています。ラケダイモーンも地名の元ネタになった人。ラケダイモーンはスパルタがあった地方です。ヒュリエウスもボイオーティアー地方のヒュリアーという地名に名を与えた人です。オーリーオーンの父はこの人であるという説も。リュコスについては、死後に楽園である「幸福の島」(ギリシャ語でマカローン・ネーソイ、楽園エーリュシオンに似た場所)に行ったとだけ伝えられるくらいで、なんで行ったのかは書かれていない雑なキャラ付けです。オイノマーオスについては「馭者」の回参照。彼がアレースの馬を所持していたのは父がアレースだったからなんですね。
・死すべき者:不死の神々に対して、死すべき運命にある者たち、つまり人間のこと。immortalに対するmortalとしてファンタジー系作品好きの方にはおなじみの概念かと。mortalの訳としては「定命の者」というのもけっこう見かけるので、そっちでもよかったかな…とも思いました。
・シーシュポス:冥界で岩を永遠に転がし続けるという罰を受けることになったことで有名な人物。ギリシャ神話そのものよりも作家アルベール・カミュの『シーシュポスの神話』のおかげで有名な気がします。彼がなぜこんな罰を受けているかというと、ゼウスの浮気をチクったからとか諸説あるのですが、死神タナトスを捕らえて「死」の概念そのものをなくしてみたり、冥府の支配者ハーイデース(ハデス)を騙して生き返ってみたりといったデカいやらかしが原因説も。ここまで世界の法則を乱したとすれば、こんなエグい刑罰を受けるに納得な気がします、少なくとも浮気のチクりよりは。
・彼女は全く見えないのである:メロペーが輝きを失ったのは、姉妹のうち一人だけ人間の妻になったのを恥じたからと言われます。なお、日本でもプレアデス星団は「昴」の名で親しまれていますが、昴の別名に「六連星(むつらぼし)」というのがあるので、日本でも明るい星は6つという認識だったようですね。自動車メーカーのSUBARUのロゴも数えると星が6個描かれていますし。やはりここからも、メロペーにあたる星は視認が難しいレベルの明るさであることが見て取れます。でも実際はプレアデス星団を望遠鏡で観測すると、星は7個どころか100個とか200個とかあるらしいのですが。…そんなに!?
・彼女たちは季節を表すので…:そもそも星全般がその見え方によって季節を表すので、何もプレアデス星団に限った話ではないと思うのですが、目立つ星団であるため特に重宝されたのでしょう。ヘーシオドス『仕事と日々』をはじめ、プレアデス星団と季節の関連について述べている作品は多いそうです。
・ヒッパルコスによれば…:ヒッパルコスは古代ギリシャの天文学者なのですが、エラトステネースの没年は紀元前195あるいは194年で、ヒッパルコスの生年が紀元前190年ごろ。…ん?2人の年代、全然被ってない…!?ということは、この一文、エラトステネース自身が書いたものではないと考えるのが自然ですね。最初に言ったように、『カタステリズモイ』の原文を書いたのはエラトステネースだと考えられているのですが、その概要(本翻訳)の方は別人が書いたとされています。この一文は、その、概要を書いた別人が書き足したものなのでしょうか。
今回は星座ではなく、おうし座に含まれるプレアデス星団の話です。これまでも、その星座に含まれる天体に関する神話を星座本体とは別に記述することは何度かありましたが、単独項目となっているのは初めてです。
プレアデス星団もアンドロメダ座やペルセウス座と同じくそもそも名前自体が固有名詞なので、一般的な解釈との相違点とかそういう話にはならない素直な項目です。