1-24 木星の影響
・断片4:前述のように断片4は断片3からの続きと思われます。なお、冒頭部分(2行目)に若干の欠落があるようですが、それはとりあえず無視して訳しておきました。
・「牡牛」の角に…:いきなりおうし座から始まっているように見えますが、おそらくは最初の部分がおひつじ座の話に相当すると思われます。前述した欠落箇所にはおひつじ座と書いてあった可能性が高いです。
・太陽の炎から逃げるとき…:太陽光の影響から逃れて木星が見えるようになっているタイミングのことだと思われますが、具体的にそれがどのタイミングかというと、おそらくは夜明け前に太陽が昇る直前(天文学用語でいうheliacal rising)かと思われます。というかこの作品以外にも、これこれの天体が昇るとき…という言い方がされた場合、大体はこのheliacal risingを指しているので、ここもそうだと考えるのが妥当かと思われます。
・ディオニューソスよ…:ディオニューソスの与えてくれる贈り物とは収穫された葡萄から作られたワインのこと。
・カルターゴーの「獅子」:しし座のモデルになったのはネメアーという地域を荒らし回っていた獅子であり、ネメアーはギリシャなのでこの書き方は変なのですが、そうではなくここではライオンという動物自体がカルターゴーに生息するものである、という意味でしょうか。ネメアーの獅子にしても、ギリシャにライオンがいること自体珍しく、場違い感というか怪物感があるのでああいう神話ができたのでしょうし。
25-48 火星の影響
・ポイボスの火から逃げおおせたとき…:太陽光の影響がなく火星が見えるとき、の意。詳しくは木星のところで前述。
・重さが量られ均等にされた「鋏」:てんびん座のこと。過去の名称である「鋏」と、天秤の特徴がミックスされたような言い方です。
・弓の手練れ:いて座のこと。
・実りもたらす「女神」:おとめ座のこと。たしかにおとめ座のモデルは豊穣神であるデーメーテールであるとも言われるのですが、この作品では正義の女神ディケー説しか今まで出さなかったのでやや唐突な印象は受けます。
・死をもたらすセイリオス:セイリオス(シリウス)が昇るころは真夏なのでそのこと。もちろん暑くなるのはシリウスのせいではなく真夏の太陽のせいなのですが。
・餌食を探し回る「蠍」:単に餌を探し回っているという文字通りの意味かもしれませんが、オーリーオーンを刺すために彼を探し回っているという含みもあるかもしれません。
49-109 金星の影響
・かの家畜:輝く羊毛とも言われていることから分かるようにおひつじ座のこと。
・弓矢を引き絞る者:いて座のこと。
・キュテレイアー:アプロディーテーの異称。前述。
・ポースポロス:「光をもたらす者」の意味で、明けの明星としての金星のこと。下記のヘスペロスも参照。
・エーオースとともに…:エーオースとは暁を擬人化した女神(前述)。なお、この箇所には原文の欠損がありますが、残った部分のみで訳しておきました。
・ヘスペロス:「宵の者」の意味で、前述のポースポロスに対して宵の明星のこと。ちなみに、他の惑星については例のheliacal risingの際の話なのですが、この金星と後述する水星だけは沈むときの影響についても述べられています。金星と水星は公転周期が地球よりも短い(1年未満)ので観測データがたくさんあるためでしょうか…?
・プリクソスの家畜:これもおひつじ座のこと。プリクソスが乗っていたため。
・「牡牛」の星座が煌めくとき…:この箇所にも原文の欠損あり。残っている部分だけ訳す形にしました。
・「蟹」よりも星の密集した…:急に星座の星の密度の話がされましたが、たしかに言われてみればかに座は他の黄道星座よりもスカスカな気がします。にしても唐突な観点ですが。
・素早い矢がつがえられたケンタウロスの曲がった弓:いて座の言い換え。ゲルマーニクスはケンタウルス座のことは今までケンタウロスと何度も呼んできましたが、いて座をケンタウロスと呼ぶのは何気に珍しいです。
110-163 水星の影響
・キュッレーニオス:「キュッレーネー山の神」の意で、ヘルメースの別名。ヘルメースはキュッレーネー山で生まれたため。
・黄金の毛皮持つかの家畜:これもやはりおひつじ座のこと。
・「蟹」においては…:この箇所にも原文の欠損あり。
・アストライアーの聖所:おとめ座の領域のこと。おとめ座がアストライアー(星の女)とも呼ばれることは前述。
・ケンタウロスの「弓」:もちろんこのケンタウロスとはケンタウルス座のほうではなくいて座のこと。この箇所でも珍しくいて座はケンタウロスと呼ばれています。
・二つの動物の姿持つ:やぎ座が半山羊半魚の奇妙な姿をしている星座だということは前述。
・オリュンポスたる天:オリュンポス山は実在の山ではありますが、ここでは神々の住む場所ということで天の言い換えとして用いられています。
・水を注ぐかのプリュギアー人:みずがめ座のこと。みずがめ座のモデルであるガニュメーデースは実際はトロイアーの出身なのですが、トロイアーはプリュギアーに近いため以前にもプリュギアー人と呼ばれていました。
・今度はポイボスが沈む際に…:明け方と夕方の影響を個別に述べるのは金星と同じ。土星はめちゃくちゃ短くて、木星と火星はそこそこで、金星と水星はこんなに長々と語られているのは公転周期のせいで観測データの量に差があるのが如実に反映されてるみたいで面白いですね。ただ、火星の公転周期は約2年なので、そこはもうちょっと頑張ってもいいんじゃないかと思わないでもないです。
・アゲーノールの「牡牛」:アゲーノールとはエウローペーの父のこと。おうし座はゼウスがエウローペーを拐った際に化けた牛がモデルなので、アゲーノールと関係なくはないんですが、「アゲーノールの」とまで言われると、えっ…!?とはなります。
・手に穂を持つ正しき「女神」:おとめ座のこと。穂とはα星のスピカのことで、スピカの語源がラテン語の「穂」であることは前述。「正しき」とはディケーのことを示唆しているのでしょう。
・「天秤」は、自分を手にしている女神に…:てんびん座は元々さそり座の鋏部分であったわけで、そのため古来より伝わる神話はないのですが、この記述からするとゲルマーニクスはこの天秤をディケーの天秤と考えているようです。こうした考え方がローマでは一般的なものだったかどうかまでは調べきれてないのですが、本書『アラーテーア』の影響力を考えると、現在の星座解説書などでも書かれている「てんびん座=ディケーの天秤説」の元ネタの一つはこの箇所の記述であると考えられるかもしれません。