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【小説】高校時代の彼女

 僕はたぶんリア充だった。今更、リア充という言葉を使うことは恥ずかしさを感じるが、リア充だったと思う。
 高校1年生の秋くらいから高校を卒業して数ヶ月、実質3年ほど同じ女性と付き合っていた。毎日学校であい、休み時間も一緒に過ごし、バスの時刻まで話し、休日の多くも一緒にいたと思う。

 しかしながら一切思い出せない。なぜ付き合い始めたのか?なぜ別れたのか?

 付き合い始めた理由、いわゆる馴れ初め。おそらく僕が声をかけ、告白し、彼女が承諾するという手順を踏んだのだろう。奥手だった彼女はすんなり承諾することはおそらく無い、僕が何度も口説き、彼女が渋々承諾したのでは無いだろうか?
 いや、渋々の承諾であれば、濃密でなくとも、あの長い時間を一緒に過ごすことは難しいだろう。それでもすんなりではなく、三顧の礼がごとく通い承諾と得たのだろう。

 一切思い出せないのは、なぜ僕はそこまで頑張れたんだろう?ということだ。地味で、スタイルも決して良くない、顔も可愛くはあるが好みではない彼女になぜ一生懸命だったのだろう。

 なぜ別れたのかが分からないことについては、分からない理由が分かっている。いささかおかしな表現ではあるが、全くその通りである。

 ある週末、彼女に予定通り会う前日。
 彼女の友達と名乗る女性から連絡が入った。

 「直子は明日、会わないって言ってるよ。」
 「何か用事が入ったってこと?なぜ直子からじゃなく、君から連絡があるんだ?」
 「それは、直子が別れたいと言っているから。」
 「分かった。でも別れたいと伝えるのは直子であるべきじゃないのかな?」
 「分かってる。けど直子じゃ絶対に別れるという結論にたどり着かせないでしょう?」
 「ん?どういう意味?」
 「別れることを認めないでしょう?だから私が結論だけ伝えているの。直子は別れたがっていて、今日あなたたち二人は別れるの。」

 このやりとりで突然の別れが決まった。なぜ別れたか分からないが、分からない理由は分かっている。

 彼女と別れたのち、僕は彼女の顔思い出すことはなかった。いや、それは正しくない。正しくは忘れてしまった。ぼんやりと、視力0.1以下の人がコンタクトやメガネなしでいるように人と認識はするが誰か分からない程度の記憶だった。

 それからも普通に新しい彼女ができ、別れ、でき、別れと一般的なリア充男子として過ごしてきた。まだ結婚はしていない。

 いつだったか、ふと彼女と一緒に寝ている部屋の壁に女の顔が見えた。気のせいだと思い気にせずにいると消えた。
 またあるとき、ふと部屋の壁に女の顔が見え、消えた。
 それは特定の部屋、特定の女性という条件のもと現れるのではなく、どこでも、誰とでも気が向くと現れ、気が向くと消えるというように。

 誰かにこの話をすると決まって、取り憑かれているという話になり、知り合いが霊媒師を知っているかという話になる。そして決まって、御祓は終わりましたと言われる。それでもふと現れる女の顔は、御祓なんか気にしないと言った風に、気が向くと現れ、気が向くと消える。

 僕は特に気にすることもなく、それから10年程度、その女と付き合いながら普通にリア充男子として女性と付き合った。親からは「あんた、そろそろ結婚しないと。」と言われる回数が増えたが、それも特に気にならなかった。

 ある日、高校の時の同級生で作られているFacebookから招待が着た。そういえば定期的に招待が来るなと思って放置していたが、その日はなんとなく招待を受けた。
 招待はそもそもFacebookでつながっている友人から着たのだが、その後、これまでつながっていなかった友人からメッセージが届いた。

 お久しぶり、恵理です。覚えていますか?1つ聞きたかったんだけど、直子が正当防衛の事故とは言え、同級生の響子を殺してしまったこと聞いてますか?

 恵理の話では、理由は良く分からないが、卒業後に同じ大学へ進学した直子と響子は部屋をシェアして大学へ通っていたそうだ。そこで何かが起こり、直子の持っていた包丁が響子に刺さり響子が死亡した。警察発表では正当防衛の事故死ということだ。

 僕は本当に良く分からなかった。正直、なんの話を聞かされているんだ?という感想しか持てなかった。

 恵理に二人の写真を送ってくれないか?とお願いをした。しばらく経って恵理から「真ん中が私で、右が響子。覚えてるでしょうね?」と写真を送ってくれなんていうおかしなお願いをした僕に文句の1つでも言ってやりたいというメッセージ付きで3人で写っている写真が送られてきた。

 響子がいつもの女なんだろうという先入観を持って写真をみた。いつもの女は真ん中に写っていて、左右の女の子の顔は見たことがなかった。


 う〜ん、疲れた。記憶をバックアップして大容量の記憶装置にコピーした後、不要な記憶を削除して元の脳に上書きするなんてまだまだ課題がたくさんあるよなぁ。なんでバックアップ後、もう一度上書きする技術だけでも発表しないんだか、お偉方は。

いただいたサポートだけが僕のお小遣いです。ジリ貧(死語)