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【小説】30年後のラブレター 最終話

1話 38年前の記憶

2話 30年後の後悔

 会社の代表として従業員の上に立つようになって4年。45歳になった。相変わらず記憶力は高く、子供の頃の言い訳をよく覚えている。勉強をしてこなかったこと、強く感じた疎外感から人の輪に入ろうとしなかったこと。今なら分かる、一歩踏み出すことを相手に求める前に自分が踏み出せば良かったということ。

 2020年は希望に満ちた未来を感じる年になるはずだった。東京五輪に向け開発された新技術が散りばめられた東京に多くの人が国内外から訪れ、自動運転で動くシャトルバスやAIが判断し犯罪予備軍を監視するセキュリティなどを体感し、わくわくしながら、ドキドキしながら未来国日本を感じるはずだった。

 新型コロナウイルスは2019年年末から世界を侵食し始め、2020年4月にはハリウッドで描かれた終末世界へ人類を招待したかのような状況を作り出した。比較的日本は新型コロナウイルスの侵食による被害が少なかったが、国民全体の精神を相当に追い詰めた。

 このような状況でも僕はとても冷静に生活ができた。どこか他人事というわけではなく、新型コロナウイルスを出来る限り正しく理解し、正しく対処しようとした結果だったと思う。もちろん、ここが日本であり、僕が日本人だからそう考えることができたというだけだと思う。

 春から始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミック、国レベルのパニックは夏が過ぎ、秋になる頃には少し落ち着きを取り戻していた。僕はその頃、今更ながら会社のビジネスモデルを変えようとしていた。
 SNSから始めよう。
 ビジネスモデルというにはまるで「おままごと」のようなスタート。それでも従業員は頑張ってついてきてくれた。Facebook、Twitter、Instagram、Podcast。登録のみとなっていたものも含め、新しいツールを手に入れた。少しずつ、少しずつSNSの輪が広がった時、そのコメントがついた。

 代表の方とは同郷のものです。

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当時、お互い恋心を持ちながら何の進展もなかった二人が30年後にSNSを通じて出会い、当時の気持ちを告白したお話です。

いただいたサポートだけが僕のお小遣いです。ジリ貧(死語)