見出し画像

【小説】38年前の記憶 1話

 僕の住んでいた場所はとても田舎で、自然に恵まれたという表現よりも開発が遅れているとか、何も無いと表現する方が自然な場所だったと思う。けれど、子供たちは元気で朝から夜までよく遊び、よく食べ、よく寝ていたと思う。僕もそんな子供だったはずである。

人に自慢できること、それは記憶力。もちろん、瞬間記憶のような特異体質的なものではなく、ごく普通の人よりも昔の記憶が多い。そんな記憶力が良いというのが人に自慢できること、僕はそう思っている。ただ、僕にはとても曖昧で薄い記憶しか無い時期がある。


 新学期の席替え、運動会、体育大会、スキー教室など行事ごとの思い出は歳をとっても記憶にあり、確かに小学2年生の記憶なのか3年生の記憶なのか自信の無いものも多くある。が、僕には小学1年生の時の記憶が2つしかない。正確には3つ。ただし1つは高校生の頃に母親から教えられた記憶であり、思い出すと映像が出てくるがそれは僕のイメージが作り出したものだと思う。

 1つ目の記憶は僕は忘れ物がとても多く、忘れんぼ大賞という賞をとっていたということだ。
 もう1つの記憶はなんとかして学校に行かないで済む理由を考えていたという日があったこと。そしてその日は運よく(よく無いのかも知れないが)子供の腰程度の深さがある溝に落ち、右足の太ももを擦りむいた。生活に全く支障のない怪我ではあったが、次の日、学校を休むことにした。
 祖母に休みたい、脚が痛いと伝え、学校に連絡をしてもらい休むことにした。が、当時の担任は怪我の具合を聞き、登校させるように祖母に指示をした。
 当時の学校教師はある種の権力者であり、祖母にとって担任教師の言葉は絶対であり、当然、僕にとっても絶対だった。僕は1人学校へ遅刻して登校することになった。
 登校後、クラス全員の前で悪い見本として怒られ、嘘つきとして1日過ごすことになった。そういう記憶。
 この2つしか記憶がないのだが、ふと、なぜ僕はそんなにしてまで学校に行きたくなかったのかという疑問が湧く時期があった。それが高校生の頃で、母にその理由を聞いたのが3つ目の記憶だ。

ここから先は

1,287字

当時、お互い恋心を持ちながら何の進展もなかった二人が30年後にSNSを通じて出会い、当時の気持ちを告白したお話です。

いただいたサポートだけが僕のお小遣いです。ジリ貧(死語)