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洗濯機

Kとは小学校に入学してすぐ友人となり、お互いの家を行き来するような仲になった。幼くして母親を病気で亡くし、父親が仕事で留守にしているKの戸建ての家は、秘密基地のような場所だった。
中学に上がる前、父親の再婚を機に、Kは生まれ育った街を離れた。

今朝、私はKの家で洗濯機を回していた。私がぜひ欲しいと思っていた最新型のドラム式洗濯機だった。この洗濯機を運転させたら、どのような回転をするのか知りたかったのだ。

Kに何の断りもなく、勝手に洗濯機を使用したことに今更ながら焦りを覚えた。私はKに非を責められる前に、自ら罪を告白した。Kは「へんなの」と笑った。
私たちは横に並んで座り、洗濯機を眺めることにした。洗濯機の側面は透けて中が見えるようなデザインになっており、ぬいぐるみがこちらに向かって勢いよく飛んできたかと思えば形状を変えて向こう側に跳ねて飛んでいく。
私はKに怒られなかったことに安心した。

学生の時分のことだ。何年も会っていなかったKから、「飲み会があるから、そのあとに泊めて欲しい」と連絡が来た。取ってつけたように「久しぶりに会って話したいし」と言われ、断った。未成年で酒とタバコをやるKを、祖父母と一緒に暮らす家に呼べないと思った。本心では、人の家をホテル代わりにする厚かましさに腹が立っていたのだった。
断りのメールに返信はなく、それきりKとは音信不通となった。

今となりに座るKは、怒るどころか、楽しそうに洗濯機の回転を見守っていた。きっと穏やかな生活をしているのだろうと思った。そうでなければ、人は洗濯機の回転を眺めて時間を見送ることなんてできない。

私はただ祈るような気持ちで、跳ねるぬいぐるみを見つめつづけた。

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