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新型肺炎の予防戦略

あらら、企業関連で新型肺炎患者が出現したらしい。

武漢には日本企業の工場もあるわけで、多くの日本人が日常的に日中間を行き来していたわけで、潜在的な感染リスクを持つ人はSARS騒動の時より沢山増えている。検疫期間が済むまでは戦々恐々の人もいるのかもしれない。

一部の人は国境封鎖だ!って主張していたけれど、そんなことができなくなっているのが現実である。かつて、「東アジア共同体」を唱えていた政治家もいたと思うが、関係を深めてゆくことには利益だけでなく、影の面が確かに存在するということであろう。世界中の国から人々が集まって来る米国では以前よりこの問題が議論されており、例えばアフリカからヒトと一緒に飛行機に乗って来た蚊が媒介するウエストナイル熱の対策が真面目に問題となったわけである。

シンプルに考える人は「鎖国」すればいいじゃん、なんて簡単に言うけれど、江戸期に鎖国したと言っても長崎の出島には清国人やオランダ人は来ていたし、将軍の代替わりには朝鮮通信使も来ていたので完全に鎖国するなどということは当時であっても困難であった。「伝染病の予防には飛行機を飛ばすのをやめろ」ってシンプルな思考の人は言うかもしれないけれど、鳥インフルエンザは渡り鳥が運んでくるわけである。野生の渡り鳥に「日本の来るな」って言っても鳥は理解しないであろう。今回の新型肺炎でも日本の患者で一番大きいグループはクルーズ船で来日した集団である。(わかっている分だけであるが)

人の往来を止めずに伝染病の拡大だけを防ぐなどと言うのはかなり難しい話である。感染予防の対策としては感染源の対策、感染経路の対策、感受性の対策と大きく3つに分けられるが、感染源については外国の場合は難しい。今回の新型肺炎でも、武漢は中華政府が封鎖しており、国際的な調査団は未だに入れないわけである。感染者についても症状を示す発症者は隔離できるが、無症候性キャリアや潜伏期間の患者を見つけることは困難である。PCRにかければ診断できるじゃないのって簡単に言う人も多いが、コンタミによる偽陽性や逆に偽陰性の可能性もある。

次に感染経路の問題であるが、鎖国はそう簡単にできないのでウィルスの移動を封じ込めることは難しい。そうなると感染者が他の人に感染を広げない方策が重要になる。一つの方法は感染者に適切にマスクを装着させてウィルスを含んだ飛沫を撒き散らさないようにすることであるが、すでにマスク不足であることは報道済みである。実際、ドラッグストアに行ってももうマスクは売っていない。原因の一つは価格優位性を求めて企業が生産拠点を中華大陸に移してしまっていることもあるだろう。これは公共の福祉の問題とも言えるが安全保障の問題とも言える。政治家は国民の安全のために企業に国内に必要なだけのマスク生産能力を保持するように言えるだろうか。こういう事態でなければ中華産マスクの方が利益は大きくなるのである。

最後は感受性の問題であるが、多くのウィルス感染症では一旦感染が成立して治癒すると身体にメモリー細胞ができて感染を起こしたウィルスに対する免疫情報を保持する仕組みがある。次に同じウィルスが侵入を試みたとき、メモリー細胞が反応して迅速に免疫系が賦活化され、感染が成立する前にウィルスを除去することができる。ご当人は免疫系が頑張っていることにも、そもそもウィルスが身体に侵入しようとしたことにすら気づかずにご機嫌で人生を送っていられるのである。この免疫反応を人工的に起こして病気にかからなくてもメモリー細胞を作ろうとするのがワクチン(予防接種)である。残念ながら今回の新型肺炎は新型である故に誰もメモリー細胞を持っていない。ワクチンも未だ作成されていない。いくら筋肉を鍛えていても感染は防げないのである。

こう書くと読んでいる人はビビりそうである。「おお神よ、私は感染でこの世を去らねばならないのですか」って嘆きそうである。多分そういうことにはならないだろうとは思うけれど。もうすでに1人お亡くなりになっているので絶対に死なないとは言えなくなっている。けれども企業でも通勤ラッシュ回避を指示するところも出てきたわけで、それに追随する企業が増えれば感染経路対策になってゆく。人から人への感染が防がれれば流行の規模は小さくなってゆく。

日本でも一定規模の感染者が出たので追跡調査は行われるであろう。その中で死亡率が出されることになる。2009年の新型インフルエンザ騒動でも結局日本の死亡率は他国に比べて低かったという実績もあるので日本での新型肺炎の死亡率が武漢のようになるとは限らない可能性がある。


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