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白殺し type-Kのレビュー:マーダーミステリーの新たなカタチを提示してくれる傑作

スタンダードなマーダーミステリーのプレイスタイルといえば、「キャラクター設定書を読む、全体議論や密談で会話する、追加の情報をカードで引く、投票で犯人を決める」という内容です。
しかしマーダーミステリーであるためにこのプレイスタイルしかないのかというと、もちろんそんなことはありません。マーダーミステリーの本質は「犯人探し」であり、ハンドアウトを読んだり、カードを引いたり、犯人に投票するといった行為は必須ではありません。
「白殺し type-K」はまさに既存のマーダーミステリーのプレイスタイルとは違った、新たなプレイを提示する作品です。
そしてその革新は没入感や推理といったマーダーミステリーの重要な要素と分かちがたく、新鮮な驚きをもたらしてくれる守破離を体現した傑作です。

プレイスタイルを打ち破ろうとする作品は、本作に限らずオンラインを中心に最近よく見かけます。そこにはイノベーションの萌芽はあるものの、プレイヤーの「思考の空き容量」を考慮していない、端的にいえば複雑すぎる作品がほとんどです。
マーダーミステリーはただでさえ推理に思考を使うゲームですが、差別化のためにプレイヤーが初めて遭遇する新たなルール、状況が追加される足し算の発想で、プレイヤーは作品を楽しむ以前に、作品を理解することで精いっぱいになりがちです。
それに対して「白殺し type-K」は置き換えの発想で、ルールの把握やプレイングを探るためにさほど労力をかけることなく、純粋にゲームプレイに集中できます。
既存のプレイスタイルは作品をゲームとして機能させるために抽象化、形式化させた行為、歌舞伎の型のようなものです。「白殺し type-K」ではそれを脱構築させ、それによってマーダーミステリーの重要な要素である没入感が強められています。

型破りと一言で表すのは簡単なことですが、型無しではなく型破りなシステムを実現するには不断の努力があったことでしょう。
実際、作者であるOffice KUMOKANAのこれまでの作品の系譜であることが感じられます。短いテキストの中で知的にリアリティを構築する手法もOffice KUMOKANAらしさが発揮されています。
この点はインテリ好きかどうかで評価は分かれるところです。

没入感は大事にされている要素です。マーダーミステリーはもともと両立主義的ですが、本作ではプレイヤーの自由意志がより尊重されていて、そのためのサンドボックスが提供されています。そこにはブリコルールの余地があります。
ゲームのエスカレーションも没入感と分かちがたく結びついていて、プレイヤーはこれまでのマーダーミステリーで経験したことがない新たな体験を味わうことになります。
こんな可能性があったのかという感嘆に出会うことでしょう。

マーダーミステリーの型を脱構築させた、新たな一歩を踏み出す作品ではありますが、不満がないわけではありません。
1つは調査のギミックで、演出は凝っているもののゲームのコンセプトとは特に結びついているようには感じられませんでした。これはマイナスになっているわけでもないのでゲーム体験を損なうようなものではありません。
もう1つはマーダーミステリーの経験者であればあるほど陥りやすい死に至る病です。克己できないわけではありませんが、超人ならぬ畜群の身では彼岸へ至ることはできないでしょう。そして一筋の光明はあるものの、そこはルールという形式を持ち出されて閉ざされてしまいます。
現実はそんなものだというニヒリスティックな態度もできるでしょうが、ゲームとしての可能性が(パンドラの箱であっても)残されていてもよかったのではないでしょうか。

「白殺し type-K」は明快なコンセプトで、マーダーミステリーの新しいカタチを見せてくれます。
そしてごちゃごちゃ言わなくても体験するだけで楽しいのは間違いないので、マーダーミステリーファンならず初心者であってもぜひプレイしてもらいたい作品です。

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