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オンラインマーダーミステリーの短評(第2回)

最近プレイした主なオンラインマーダーミステリーのショートレビューです。
オンライン作品に関して全体的にいえるのは、作品が丁寧なこととゲームの面白さに相関があるということです。
丁寧というのは、ハンドアウトが読みやすい、誤字脱字がない、ルールがきちんと整備されているといったアウトゲームの基本的な要素です。
これらがきちんと整備されているということは、作者以外の目に触れられている(テストプレイをきちんと行っている)ということで、ゲームの中身に関してもそれを踏まえて調整されているからでしょう。

椅子戦争

「キャラクターがかっこいい」という作品はマーダーミステリーにあまりないのですが、本作は個性的でビジュアルイメージが湧きやすいキャラが揃っています。個々のキャラクターの役割はひねりを加えた上で与えられていますし、脱出ゲーム的な要素も面白いです。
ただキャラクター性と脱出ゲーム的要素が犯人探しに直接つながっていません。2つの別々のことを同時にやらされているように感じます。
その場の体験としては面白いと感じますし、おすすめできる作品です。ただ要素のつながりが悪く、もう一息のところで名作になっていない惜しい作品です。これらが融合すれば名作の域に達するでしょう。

異説竹取物語 かぐや姫と月夜の殺人事件

もともと店舗で公演されていた作品だけに全体的なクオリティは高いです。
題材が身近なかぐや姫ですが史実や竹取物語に忠実というわけではなく、カジュアルに現代要素が含まれていて、なんちゃって平安時代を楽しめます。ただキャラクターによる体験の満足度にはかなり差があります。
またこの作者の作品に共通して言えることですが、要素が多くて「マーダーミステリー+脱出ゲーム」な作品です。このため不慣れな方だと物量に圧倒されて作品を楽しみきれずに終わってしまいそうです。

ブラックナイトスレイヴ

「社畜マーダーミステリー」という一見してウケ狙いの作品にみえますが、クローズ型マーダーミステリーとして、とてもよくできています。
日本ではオープン型が主流でクローズ型の良作はあまりなかったので、クローズ型マーダーミステリーのショーケースになります。
正確に推理を進めないと犯人にはたどり着けませんが、よくできた脱出ゲームと同じく犯人を見つけられなかったとしても、次へつながる納得感があります。

口裂け女の微笑み~怪異探偵百目鬼の日常~

少人数のマーダーミステリーはメインストーリー以外の要素を詰め込んで誤魔化すことかできないので、短編小説と同じく、メインプロットがしっかりしているかどうかがはっきり出ます。
本作は小品ながらも題材、キャラクター、シナリオ、推理がきっちりかみ合った良作です。
タイトルで怖い作品ではと思う方がいらっしゃるかもしれませんが、ホラー要素はほぼありません。怖いのが苦手という理由で避けられているともったいないです。

さがせ! 家のどうぶつ!

「4匹のペットが飼い主の無くしたユビワを探す」という題材だけで癒されます。犬、猫、ハムスター、フクロモモンガの4匹になりきることが重視されていて、ガチで推理するのは野暮な作品です。
そもそも本筋の推理の導線がかなり弱く、その意味でもロールプレイも推理も「両方を楽しみたい」人には向かない雰囲気だけ味わう作品です。
おまけで猫動画がついてくるといういままでになかった作品でもあります。

事件はボードゲームカフェで

マーダーミステリーとはこんな感じのゲームなのかという見本になる初心者向けの作品です。
1時間程度で終わる手軽さ、ハンドアウトの読み込み、情報カードによる情報の入手、全体会議とマーダーミステリーのプレイの基本要素をチュートリアル的に体験できます。
それでいてボードゲームカフェが舞台という面白さもありますし、ストーリーもきちんと考えられています。
まさに初心者向けのお試し作品ですが。マーダーミステリー経験者がプレイすると物足りないとは感じるでしょう。

LIVEミステリー! 史上最悪の舞台裏

オンライン推理番組の生放送中が舞台で、公開議論は配信中のステージというギミックは面白い仕掛けです。
推理はかなりイージーなので、軽いノリを楽しむ作品と割り切った方がいいでしょう。
これだけマーダーミステリーが出ているので、そろそろテンプレートキャラに対するアンチメタを考えるべきでしょう。
作品としてはまずまずでコンポーネントも質は高いのですが、得られる体験とのコストパフォーマンスを考えるとそこまでおススメはできません。

Brave Mystery~操られた姫~

マーダーミステリーを「犯人探し」と定義付けると、Brave Mysteryは正直なところマーダーミステリーではありません。ジャンルでいえば脱出ゲームが近いでしょうか。
「マーダーミステリーをプレイする」というマインドセットで臨むと、プレイヤーにとっても作品にとっても不幸な出会いが待ち受けています。マーダーミステリーをプレイしたいのであれば、本作はプレイしてはいけません。
脱出ゲームとしてみた場合はまあまあの出来ですが、脱出ゲームのたくさんの良作と競合すると考えると、数多くの脱出ゲームを遊んでいるファンであればプレイしても良いというくらいの評価です。

老神湖殺人事件

推理を主体にした作品で、複数の可能性を重ね合わせていくことで犯人を絞り込むという、一見すると正統派ミステリーなスタイルです。ただ奇抜な要素を入れようとして、かえって矛盾を生んでしまっています。「オッカムの剃刀」について考えた方がよいでしょう。
犯人投票といっても既存の作品は名前を指名するだけで当てずっぽうや消去法でたどり着けてしまうので、そのアンチテーゼとしてきちんと理由を提示させるというのは良い解決策です。ただ肝心の推理に飛躍があって、着眼点はよいけれどそもそも推理を構築する力が足りていない作品です。

悪役令嬢(おすすめしない)

ライトノベルの悪役令嬢モノのシチュエーションをマーダーミステリーにしたいという意気込みはわかりますが、バランス調整が大味ですし、配役による満足度が大きく異なります。
一般的に小説(やマンガ、アニメ)では主人公の心情さえきちんと描けていれば、わき役たちの行動原理や生い立ちがいい加減でも大きな支障は出ません。せいぜいお当番回があればよくて、それ以外の回で各キャラクターが都度どういう動機で行動するのかまでは掘り下げなくても作品の評価にはさほど影響しません。
しかしマーダーミステリーでは、プレイヤーキャラクターは担当するプレイヤーにとって各々が主人公です。ゲームコンセプト的に主人公の立ち位置でなかったとしても、脇役と感じさせるようでは良いマーダーミステリーとはいえません。同じ対価を供出しているのに同等のサービスを受けられていないということになります。
もともと悪役令嬢モノがヴィランを主人公に据えたジャンルであるという出自を考えると、アイロニカルな作品です。

勇者は殺されてしまった!(おすすめしない)

凡作です。没入感、個人戦、推理のどの要素ともに見るべきところはありません。
ゲームというのは失敗するかもしれないからやりがいがありますし、失敗しても悔しいと思えるから楽しいのであって、犯人が簡単に見つかるのであれば、せめて推理以外で楽しめる要素(感動がある、脱出しなければいけないなど)が必要です。
またゲーム性とは直接関係はありませんが、ユドナリウムのカードの字が非常に小さくて拡大しないと読めません。ユーザーインターフェースは過去最低レベルで悪く、プレイアビリティの点でも薦められません。

濃霧の仮面(おすすめしない)

「心情推理型マーダーミステリー」だそうですが、机上の空論に終わっています。キャラクターの心情がそもそも十分に形作られておらず、「設定」でとどまっています。
作者が想定している展開まで持っていくには、プレイヤーの推理や心情を動かすために相応の準備が必要です。
推理も本線が整理されておらず、個人目標のつながりもありません。
またゲーム性とは直接関係はありませんが、ハンドアウトの色使いがよくなくて色覚異常の方は字が読めませんし、画像の解像度も足りていません。

キングを殺すには(無料版):おすすめしない

デスゲームという題材はとても良いのですが、全体的に練り込み不足です。無料版の時点での評価はかなり低いです。
配役によって満足度が大きく左右されてしまいますし、キャラクターの心情が理解できるほどハンドアウトが描けていません。デスゲームという題材なので死亡というのが当然あり得るのですが、途中でプレイヤーが退場する(可能性がある)というのはよほど慎重に扱わないと禍根を残します。
素材は面白いので、これらをクリアしているであろう完全版に期待です。

幻実(おすすめしない)

マーダーミステリーでは、できるだけ犯行を隠したい犯人といえども情報をみんなに開示する必要があります。これは信義則に頼るだけでなく、個人の目標というルール的な縛りでも強制されます。
ではその縛りがなくなったらどうなるのかというと、単純にゲームが崩壊します。それを身をもって知ることができる作品です。
二度と一緒に遊びたくない相手、マーダーミステリーを辞めさせたい相手とプレイするのがおすすめです。
また犯人像についても、作者に差別意識があるのか単に安直なのかはわかりませんが、作品を自己否定するようなキャラクター像です。

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