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誰でもカンタン らくらくアマチュアGM術(中編)

レベル0:現実主義とパレートの法則を念頭に

プラグマティックな本題に入る前に形而上的なことをお伝えします。
「ルールやキャラクターの設定を隅々まで把握してプレイヤーからの質問によどみなく答え、ナレーションやNPCの演技が役者顔負けで、作品に合った音楽や小道具の演出があり、感想戦ではプレイヤーの意見を引き出して、ゲームを通してさりげない気づかいができる。しかも出しゃばることなく裏方に徹する」------すぐれたプロGMの公演を体験した人は、自分の技量や費やせるコストと比較して、GMは難しくて自分にはできないと感じるかもしれません。

しかしそこまで気負う必要はありません。
アマチュアGMに求められているのはゲームを最後までプレイすること、あわよくばみんなが楽しめるように少しでも盛り上げることです。アマチュアGMはプレイヤーと同じ立場で作品を楽しむ側であり、費やすコストに関しても現実主義的であるべきです。
GMの準備時間にもパレートの法則は当てはまります。つまり1時間の準備で作品のポテンシャルの8割までは引き出せる。そして残りの2割には5時間(あるいはそれ以上)かかるということです。

もちろん作品愛にあふれた方が作品のポテンシャルを100%あるいはそれ以上まで引き上げようと、GMとして工夫するのは賞賛すべきことです。
しかしそれは善意と熱意でやっていることで、すべての作品、すべてのアマチュアGMに求められることではありません。

レベル1:ゲームを最後までプレイできる

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
このレベルで目標とするのは、ゲームを最後までプレイできるようにすることで、GMは進行役と裁定役の役割を果たします。

進行役としてのGM

進行役に必要なのは、盤面の準備、ルール説明、キャラクターシートの配布、時間の計測、ユドナリウムやココフォリアでゲーム中のギミックがある場合はギミック操作(追加情報の公開など)、投票の集計、エンディング読み上げ、ミッション確認と点数発表です。
列挙するとやるべきことが多いようにみえますが、マルチタスクではなくゲーム進行の時系列に沿って1つ1つシンプルなタスクをこなしていくだけです。マーダーミステリーをプレイしたことがある人であれば、なにをやるのかは容易に理解できるでしょう。

注意すべきはキャラクターシートを配役通りに配布すること、ゲーム中のギミック操作を正しく行うこと、エンディング分岐やミッション成否を正しく判定することです。
いずれもGMガイドに記載されている通りに、ゆっくり慎重に進めればたやすいことです。

進行役としてゲーム開始前に準備することは、GMガイドの通読、ユドナリウムやココフォリアの操作の事前確認(ギミックがある場合)です。GM必須の作品はゲーム中に特定の条件で追加情報を公開するものが多いので、どういう条件なのかはあらかじめ把握しておきます。
ゲーム中もGMガイドを読みながら進行すればいいので、内容をあらかじめ暗記しておく必要はありません。ただ、各フェーズで何を行うのか、プレイヤーに何を伝えなければいけないのかは事前に把握しておきます。

裁定役としてのGM

裁定役としてルールを順守させ、ルールで想定されていない状況や曖昧な箇所の判断を下します。
ここで心に留めておくべきことは、GMガイドにどう書いていようとも最終判断はGMたるあなたに委ねられているということです。
だからといってなにをやってもいい、ディクタートルになれということではありません。作品で定められたルールはなるべく遵守すべきですが、ルールが絶対ということではありません。
裁定役として重要なのは、公平性、首尾一貫性、毅然とした態度の3つです。

ある人にだけ甘く、ほかの人には厳しいというのは、公平であるべき審判として不適格なのは自明でしょう。
GMが公平かどうかをプレイヤーがもっとも実感しやすいのは時間の管理です。
たとえば推理の披露時間が1分間だとして、ある人は1分以内にまとめているのに、別の人が2分も3分もしゃべっているようでは公平性を欠いています。議論時間が30分であれば、30分の時点で誰かが話している最中であっても中断させます。
オーバータイムで犯人を決定づける話題や誰かの秘密を暴く証拠が出た場合、時間通りに終わっていれば逃げ切れたのに、不公平なGMのせいで負けたという禍根を残してしまいます。
DiscordであればI done itというGM支援botを利用すれば時間を守らせやすいでしょう。タイマー終了時に自動音声が流れるので、誰の目にも一目瞭然です。

一度適用したルールは首尾一貫して最後までそれで通します。
GMガイドを読み返して自分の判断とガイドの記述が違っていたことに気づいたとしても、ゲームを壊すような致命的な誤りでなければ、訂正、変更は行う必要はありません。処理の巻き戻しも行いません。
プレイヤーはあなたの判定した基準で、目標を達成するための戦略をすでに組み立てているかもしれません。そうでなかったとしてもルールが途中で変わるようでは作品に集中することができません。
プレイヤーがGMの判断を軽んじてもよいと考えはじめたら、ゲームそのものが崩壊してしまいます。
多少ルールが作品の想定と違っていてもゲーム体験が大きく変わることはないので、心配することはありません。

ゲーム中にプレイヤーは自分の目標のために邁進し、時に暴走することもありますが、それを止めるのはGMです。
時間が来ているのに話し続けようとする、自分の目標にとって都合の良いように行動を解釈するといった行為は多かれ少なかれあります。
その時には「ダメなものはダメ」だとはっきり伝えます。
友人同士だからこそおまけしてほしいという甘えが出るかもしれませんが、妥協する必要はなく、毅然として判断します。
プレイヤーが勝手に判断して行動することは望ましくないので主導権を握ってください。たとえ結果的に同じ判断に至る場合でも、GMが裁可する形式を守ります。
ただし強圧的であれということではありません。

よくある突発的な事態

GMの裁定が必要とされるよく遭遇する場面は、キャラクターシートや調査カードに書かれていることの解釈、ルールの勘違いの訂正でしょう。
解釈に関してプレイヤーからよく出る質問は「同じ事象に関して別々の箇所で矛盾する記述がある」、「キャラクターシートや調査カードの意味がわからない」の2つです。
GMガイドを読んですぐに回答できるようであれば説明し、そうでない場合はいったん「念のため確認します」と答えた上でキャラクターシートや情報カードの該当箇所を確認します。ただしそれらを読んでも確実なことが説明できないようなら「GMからはお答えできません」と返します。

GMの回答はそのゲームのオフィシャルな解釈になります。誤った応答はミスリードになりかねないので、責任を持てないなら無回答が無難です。
レベル1 GMとしては答えられなくても気にすることはありません。誤記や誤解釈、わかりづらい記述がある作品にこそ責任があるくらいに考えてください。
ただし公平性は常に意識します。誤記やわかりづらい表記の説明は行うべきですが、質問した人にだけ推理のヒントを与えるのは望ましくありません。

意図的にルールを守らないプレイヤーは滅多にいないでしょうが、ルールを忘れてしまったり勘違いからくるルール違反はままあります。まったくの初心者よりも、ある程度マーダーミステリーに慣れ親しんでいる人ほど勘違いを犯しやすいものです。
というのも、どのマーダーミステリーもおおむね似たようなルールではあるものの、作品ごとに少しずつ違っているからです。特に情報カードの取り扱いは作品ごとに千差万別で間違いが起きやすい要素です。

たとえばカードの交換・譲渡ができるタイミング(いつでもできるのか、密談中など特定の場合だけか)、カードを全体公開できるタイミングや枚数(いつでもできるのか、何枚までできるのか)、カード調査に関する制限(同じ場所から1枚しか取得できないのか、自由なのか)などです。
またオンラインであればユドナリウムやココフォリアの誤操作もあるでしょう。
プレイ状況を注視していて間違いが起きる前に注意するか、誤りが発生した瞬間に対処するのがベストですが、複数のプレイヤーが同時に行動する一方でGMは1人しかいませんから、いつの間にか誤りが起きることはあります。
たいていの場合、起きてしまったことは仕方がないですし、見たものを見なかったことにするのはできないので、そのまま続行します。カードの情報が1枚や2枚誤って伝わったからといって台無しになることはありません。

過ちがあってもそのまま進めるのであれば、わざわざGMの役割として挙げる必要がないのではと感じるかもしれませんが、起きた後に指摘することが重要です。
GMからの注意がなければ認められた行為としてまかり通ってしまい、本来のゲーム体験から乖離していきます。

裁定自体はゲームのプレイ中に起きるので事前準備はほぼないのですが、ルールは把握しておきます。
またルールが網羅されているかを確かめるため、ルールの形式チェックと照らし合わせて足りていない項目は事前に考えておくとスムーズです。

レベル1で必要なことをまとめると、GMガイドを読むことに尽きます。
各キャラクターのキャラクターシートを読まなくてよいのかと疑問に思う方もいるでしょうが、ゲームを最初から最後まで進行させることに終始するレベル1 GMには必要ありません。

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