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【表現研】「シュタインズゲート」 Infinityから科学ADVまでの歴史

※ゲームのネタバレが含まれてます。
※この記事はオリジナルのゲーム本編のみを考慮しています。

 シュタインズゲートは、色んな意味で思い入れの深い作品である。理由はいくつかあるが、最大の理由は、この作品がとある歴史の果てに打ち上げられた、最後の花火だったからだ。しかも、家庭用の恋愛ADVというジャンルでは考えられないほどの、超巨大な一発だった。おそらく今後、同規模の花火が打ち上げられることはないであろうという、一抹の寂寥感が、さらに思い入れを深いものにしている。
 
 以前の記事でも語ったように、カオスチャイルドはシュタインズゲートを超えた作品であるが、それは質的なレベルの話である。盛り上がりという点で、シュタインズゲートを超える作品は、やはり今後も想像できない。

 カオスチャイルドについては語り尽くしたので、今回はシュタインズゲートの歴史に焦点を当ててみたい。シュタインズゲートに至るまでの歴史、そして同作が存在する立ち位置に関してである。

 歴史というものは多分に主観的であり、この記事もそれを免れないが、一人の人間が見た歴史として語ってみたいと思う。


■1 シュタインズゲートの基本事項

 シュタインズゲートと言えばアニメを思い浮かべると思うが、元々はXBOX360で2009年に発売された恋愛ADVである。開発会社は5pb.(現・MAGES.)で、同社が開発していた科学ADVシリーズの2作目となっている(1作目はカオスヘッド)。科学ADVシリーズの中心人物は志倉千代丸氏で、企画からシナリオ、歌曲まで全般的に関わっている。
 ゲーム自体は恋愛ADV界隈では大ヒットしたわけであるが、より爆発的な広がりを見せたのは、2011年にアニメ化されてからだった。
 その後、様々な派生作品が生み出されているが、今回の記事の対象はXbox360で発売された、ゲーム本編のみとなる。

■2 シュタインズゲートに至るまでの歴史

 歴史を紐解くと、シュタインズゲートは突然現れて大人気になった作品ではない。つまり、何の下積みもなく生み出されたものではない。そこに至るまでには、おおよそ10年という歳月が積み重ねられている。

 私はゲーム会社の内実は知らない。スタッフと知り合いでもない。客観的な歴史とは呼べず、作品を外から見た個人的な意見でしかないが、シュタインズゲートは歴史の中で「5作目」に当たる作品だと考えている。

5作品を具体的に挙げると

1作目「Infinity」(2000年発売 KID)
2作目「Ever17」(2002年発売 KID)
3作目「Remember11」(2004年 KID)
4作目「CHAOS;HEAD」(2008年 5pb.)
5作目「STEINS;GATE」(2009年 5pb.)
※発売年の後ろの表記は開発会社

 である。このうち1~3作目は「Infinity」シリーズと喚ばれている。そして4~5作目は科学ADVシリーズとなっている。この後も科学ADVシリーズは続いているが、今回はここまでの歴史を扱っていく。
 上記の5作の流れに異論があること(他にも考慮すべき作品がある等々)は承知しているが、今回はこの前提で進めていく。

■3 KIDから5pb.へ

 シュタインズゲートを制作した5pb.には、前身となった会社が存在する。それはKIDという会社である。同社は、ゲーム業界では唯一と言っていいほど(実際にはFOGという会社がもうひとつあったのだが)、家庭用ゲーム機でオリジナルの恋愛ADVゲームを発売し続ける会社であった。KIDはメモリーズオフというシリーズを1999年に発売し、それがヒットしたことで有名になった(この作品もシリーズとして8作品出ている)。当時としてはゲームシステムが群を抜いて快適で、絵や音楽のクオリティが傑出していた。シナリオはトラウマをテーマとしていて、あまりベタベタと恋愛するゲームではなかったのが、逆にヒットした理由かもしれない。

 このメモリーズオフシリーズには科学ADVのスタッフが数多く関わっていた。例として、infinityシリーズの生みの親で、シュタインズゲートの派生作品に参加した打越鋼太郎氏、科学ADVの代表的人物である志倉千代丸氏、キャラデザであるささきむつみ氏、科学ADVのBGMを制作している阿保剛氏、科学ADVのシナリオ担当である林直孝氏などが挙げられる。

 KIDはメモリーズオフに続けて、2000年にinfinity(後に移植されNever7に改題)という作品を発売する。この作品がシュタインズゲートに至る歴史の萌芽である。

 KIDはシリーズ作品以外にも、単発でオリジナルの恋愛ADVを出したり、電車男のドラマにポスターを出したりと、プレイステーションからドリームキャスト、プレイステーション2の時代を駆け抜けていった。

 しかし、KIDは経営不振から2006年に倒産してしまう。その後、同社に在籍していたスタッフは5pb.に集結することになった。

■4 infinityシリーズ

 ここでシュタゲの萌芽とも言えるinfinityシリーズの内容に触れてみたいと思う。とはいえ、何を言っても全てがネタバレになるので、結局ネタバレしない程度に雰囲気を述べるだけになる。

 このシリーズの処女作であるinfinity(後にNever7)は、2000年に発売された。内容としてはSFや哲学やホラーやサスペンスをミックスさせたような作品であり、すでにシュタゲに繋がる片鱗が随所に見られている。infinityシリーズに連なる作品は、どの作品もこのエッセンスは保っている。恋愛ADVと名乗ってはいるが、恋愛要素は副次的なもので、複雑に絡み合ったストーリーを紐解いていくのがウリとなっていた。

 一番大ヒットしたのは、2002年に発売された2作目のEver17である。この作品は深海のテーマパークを舞台としたもので、特にオチの凄まじさで大勝利した作品だった。ただし、頻繁に指摘されるほど、中だるみする作品でもあった。
 
 3作目のRemember11は2004年に発売された。雪山を舞台にした内容で、前作で批判された中だるみを一気に解消した作品なのだが、今度はオチが前作ほどは強くない(前作が強烈すぎた)という欠点を抱えることになった。あちらを立てればこちらが立たずである。

 Infinityシリーズは歌曲に志倉千代丸氏が関わっており、BGMは阿保剛氏が制作している。シナリオは全般的に打越鋼太郎氏が、Remember11には林直孝氏が関わっていた。

■5 科学ADVシリーズ カオスヘッド 

 5pb.は、2008年にカオスヘッドを発売する。企画は志倉千代丸氏、シナリオに林直孝氏、キャラデザにささきむつみ氏、BGMに阿保剛氏と、KIDないしそれに関わっていた人間が参加している作品となっている。

 カオスヘッドはSF、科学、哲学、サスペンスといったinfinityシリーズのエッセンスを継承しつつ、ネット用語や都市伝説、オカルトの要素をふんだんに盛り込んだ内容に変化している。舞台も、今までは現実の地名を使っていなかったはずだが、渋谷が舞台となっている。この辺りは完全にシュタゲ前夜といった状況である。

 恋愛ゲームとしてはあっさり風味だったinfinityシリーズに比べると、いろいろな意味で若干オタクよりになって内容も濃くなっている。絵の見た目も、完全に萌え系と言った感じで、若干アダルティックな雰囲気もあり、おまけに過去シリーズと違い剣でドンパチするので、かなり異色な作品である。オタクくささは欠点でも長所でもあり、爆発的なヒットとまでは行かなかったが、その分カルト的人気を誇り、アニメ化もされた。

■6 シュタインズゲートの登場

 そして2009年、10年の歴史を経て全ての集大成として発売されたのがシュタインズゲートである。同作はこれまでのシリーズの欠点(中だるみ、オチの弱さ、萌え系)を全て解消し、長所(SF、ホラー、サスペンス、ネット用語、都市伝説、舞台設定)を全て高次元で融合させ、一連の歴史の中の集大成として盛大に打ち上げられた。

 発売当初はシリーズ(Infinityやカオスヘッド)のファンが購入し、局地的に盛り上がっていただけだったが、やがて口コミから火がつき、ゲームがヒットし、アニメが大ヒットし、5pb.の大出世作となった。今までの歴史と経験、そして時代と運が奇跡的にかみ合った作品だった。

 過去を超えることはシリーズ作品の宿命である。シュタインズゲートは知名度、質、人気、あらゆる面で過去を超えていった。シュタインズゲートへの思い入れが、とりわけ深いのは、それが一番大きいのかもしれない。歴史を追っていた自分にとって、この作品は思い出という過去を超えていった作品だった。

■7 終わりに

 今後シュタインズゲートのような作品は現れるのだろうか。おそらく、私が捉えている、Infinity~シュタインズゲートという、王道の歴史の延長線上には現れないだろう。この作品は上述のように、10年の歴史の総決算として生み出されたものだ。それを超える作品を、少なくとも同系統の作風で作ることは不可能に近い。仮に同じだけの時間をかけ、それに近い作品を作れたとしても、やはり超えることはできないだろう。時代、運、新鮮味、何もかも1回目とは訳が違う。シュタインズゲートは行き着いた歴史の果てだ。果ての先に道はない。ここで終わりである。それでいい。この作品は完成されているのだ。

 別系統の作品としてシュタインズゲートを超えていったカオスチャイルドは、同じ歴史の中にはいなかった。新たな道を作り、横から凄まじいスピードで追い抜いていった。それは十分すぎる驚きだったが、シュタインズゲートが辿った、王道の歴史の延長線上に、それを超えるような作品が現れたときは、カオスチャイルド以上に驚くだろう。

 しかし、実際のところ、その作品を望んでいるわけでもない。シュタインズゲートという作品は、10年に及ぶ歴史の、偉大なる到達点として、そのままにしておきたい。

 家庭用恋愛ADVゲームという界隈の中で、最も強烈な花火を打ち上げ、王道の終着点として鎮座し続ける。それが、私が見た、シュタインズゲートの歴史的な立ち位置である。

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