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書道教室と秋空

ちょうど今ぐらいの季節だったかなと思うのですが、
小学3年生の年、大阪に転校した頃の話です。

大阪に行って、学校に制服がないことや男子が長髪(昭和的言い方)だったり女子は見たこともないおしゃれな髪形(お団子スタイル))だったりして岡山の田んぼの世界から別世界に来た感じでした。
下校したらこどもだけでセルフうどんに行ったり、近所の私立高校に出入りしてお姉さん達と遊んだりしてすっかり大阪ライフを楽しんでいました。
キラキラして賑やかで活気に満ちた日常だったのですが、
急に。
書道が習いたくなりました。
岡山にいる時はあんなに仕方なく通っていた書道教室に行きたくなったのです。
たぶん一人になれる静かな時間が欲しかったのだと思います。

何とか母に探してもらって土曜日のお昼に通うことになりました。
ある日、教室の帰り道に稲刈りの終わった田んぼの側を歩いていたら
同じクラスのかおりちゃんだったか、さおりちゃんだったか名前は忘れてしまったけど、ニコニコと田んぼの中に立っていました。
転校してきてまだ一度も話をしたことがないかおりちゃん(さおりちゃん)、と言うより教室でかおりちゃんが誰かと話しているところを見たことがありません。そのかおりちゃんが話しかけてきたことにびっくりしていると、「うちに来る?」と言うのです。
しゃべらないかおりちゃんが話しかけてきたので、思わずうなずくと「あそこ」と田んぼの真ん中の倉庫みたいなところを指さします。

「あぁ、秘密基地か」とついて行き、戸を開けたら家だったんです。
どう見ても田んぼの中の倉庫だったのですが、戸を開けたら正面にキッチンがありました。その戸とキッチンの間の空間、おそらく6畳くらいはあったかなと思うのですが、そこは洗濯物で埋め尽くされていました。高さも20㎝くらいあったかもしれません。
(ここでどうやって暮らしているのだろう?)
「ここ家?」と聞くとかおりちゃんはニコニコしながら「うん」と答えます。
そしてかおりちゃんの妹(2.3歳)も出てきました。
妹はこんなにたくさん洗濯物が出てるのに(箪笥らしきものがない)パンツしかはいてません。「風邪をひくよ」とあわててそのあたりから小さな服を見つけて着せました。

それから私は書道教室に行ったらかおりちゃんの家に寄るようになりました。行かないとかおりちゃんの妹がパンツのままで過ごしてそうで、気になるからです。そして行けばやっぱりパンツで過ごしているのです。
「今日は行かなくてもいいかな?」と思う日もあったのですが、やはり足はかおりちゃんの家へ向くのです。

どれくらい通ったのか覚えていないのですが、何かきっかけがあったのかも忘れてしまったのですが、私はかおりちゃんの家に寄ることはなくなりました。もしかしたら書道教室をやめたのかもしれません。覚えていないけど、感覚的に言うならば、3年生なりに他人の暮らしには口出しをするまいと思ったのかもしれません。

実はかおりちゃんと私は教室では一度も話をしませんでしたが、一度だけかおりちゃんが「ニヤリ」と笑いかけてきたことを覚えています。
あごのラインがシャープで美人、でも笑う時はちょっとさみしそうになるかおりちゃん、たくさん遊んだのは他の子だけど、何十年経っても妙に記憶に残っています。


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