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ウラノウラハ……

 裏の字が読みづらくなって、久しい。 
裏の字とは、瓶やら箱やらの裏に記された成分表示や使い方の説明文のこと。ある時期から、近づけても離してもピントの合わないものがでてくる。いやになるけれど、老化現象のひとつとして受け入れるしかなく、裏を読まねばならぬときは、躊躇わず他人(ひと)の目を借りてきた。

が、いまや仕方ないとあきらめる時代ではなくなった。 どんな小さな文字でもスマートフォンで写真を撮り、拡大すればいいのだ。液晶パネルに触れた人差し指と親指を広げて画面を拡大することを、ピンチアウトというらしいが、頻繁にこれをするものだから、ピンチアウト=見えると、脳が誤認している。液晶パネルの上でなければ機能しないこの動作であるが、脳が見えないと判断するや、対象物がなんであろうとわたしは指を広げてしまう。紙媒体の新聞の上でピンチアウトの動作をしているところを娘たちにみられた。笑われたのは最初の数回。以降はただただ冷たい視線にたえている。

 それはさておき、とつぜん拡大された裏の字たちは、ギョッとしているかもしれない。ほら、だって、裏にはそのものがそのものでたらしめることがあからさまに記されているのだから。
たとえば、食品の成分表示。フラッシュ(斜線)の後に記されるのは添加物。これが多いほどに字は小さくなる。おいしく感じさせるために。長持ちさせるために。見た目をよくするために。 

つい見てしまう裏には、化粧品もある。はり、たるみ改善、美白を謳う基礎化粧品の類には、ビタミンC、ヒアルロン、アルブチン、コラーゲン、プラセンタほか、なんとなく聞いたことがあるような有効成分が記されていると、購買意欲をくすぐられる。 が、これらの有効成分にも成分があり、その質や含有率なんぞが大事で、それによって値段もかわるのだろう。同じような文字が記されていたとて、値段によってその効果は異なるわけだ。 

そうか。 これは人にもたとえられる。真面目さひとつとっても、ひとによってどういうことにたいして真面目で、どのような真面目さなのかは異なるのかもしれない。 だれかに向かいピンチアウトしても、裏の裏まではわからない。裏の裏が表というような場合があるやもせず。そもそもだれかに向かってピンチアウトしても拡大現象はおこらない。 
……裏とか表とか考えていたら、なにがなんだかわからなくなってきた。 

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