ラストマイル感想


 まず最初に、MIU404とアンナチュラルを一応履修してたから、おぉ……!みたいな気持ちで見れたけど、何も知らなかったらすごい俳優たちが端役でバンバン登場する事実に気を取られてたと思うので履修しておいて良かった。


 過去作品でも思うのは、野木亜紀子さんの脚本は線がすごく強い。過去と現在と未来の点が必ず繋がってる。それを意識している作品はもちろん沢山あるんだけど、野木さんの脚本は良い意味でも悪い意味でも起こした行動が血肉になるって描写が多い気がする。


 それこそラストマイルだとドライバーの亘さんについて、短いワンシーンで家電メーカーで働いていた、自社の商品に誇りがある、DAILY FASTのような安く売る会社に負けてしまってその影響をドライバーという今の職含めてもろにくらっているってところまでさらっと描写してる。
 爆弾かもしれないって緊迫した状況の中でパッと目に入った洗濯機から、これなら堪えてくれるかもしれないって思考に至れるくらい自社の製品を信頼していた亘さんの真面目さと、その真面目さに社会は応えてくれない厳しさの対比が本当に苦しい。普通に書きながら涙出てきた。
 でも結果としてその亘さんの知識と経験が幸せな家族を一つ救ったわけで。やっちゃんは死んじゃって、1つ20円値上げされたって焼け石に水で、これからドライバーとしてもっと苦しいことが待ち受けているかもしれないけど、羊のおじちゃんって女の子が呼び親しんでいたみたいにその誠実さを見ている人も確実にいるのは救いなんだろうなって思った。


 八木さんは中間管理職の極みみたいな立ち位置で苦しかったね~。阿部サダヲの演技が光りまくってた。ドライバーあがりなのがわかってるからストライキの辺りから生き生きしだしたの見て、こっちもニコニコになっちゃったわね。
 実際ドライバー不足って社会問題になってるし、現場の辛さって想像もできないけど利益が人の命より重い世界って多分変わることは無いんだろうな~。本社からの電話で啖呵切ったら実は社長だったシーン劇場でも笑いが起きてたし私も笑ったけど、あれくらいストレートな意見が社長に直接伝わることって無いだろうから、それが今回は部長以上のドライバー勤務って良い方向に進んだんだろうな。


 満島ひかりの真面目で直情的な部分を持ち合わせている役柄の演技が好きだから、大量に摂取できて良かった。下の名前呼び、握手を求めるって孔との初対面のときから海外帰りって伏線が張られてたのに、変わった人って印象が上回っていたの演技が本当に上手い。ずーっと仕事ができる人そのものみたいな立ち振る舞いをしていたのに、爆弾に触れてしまった後にギリギリのところで生きていたことを吐露してるシーンがすごく印象的だった。
 実際仕事ができるし、自分の意見を押し通せるだけの強さとバイタリティがあって、そんな人だからこそ全部背負って崩れてしまうことが伝わってくるシーンだった。孔もここでエレナさん呼びになってたし。


 山崎も弱かったんじゃなくて抱え込んでしまう人だったこと、五十嵐は山崎の死を正当化して飲み込んだ気になってどうにか自分の心を守っていたこと、そこに対してのエレナの分岐点がやめようと声をあげたことなのが過去作とも繋がってきている気がして良かった。
 実際に世間的には大きく何かが変わったわけでは無い(DAILY FASTは160億を失いましたが……)けど、水面に石を投げ入れるという行為自体を意味のあるものとして扱っている脚本だったと思うから、多分未来の何かは今回の出来事でがらりと変わるんだろうな。

 「好きでもない男と死にたくない!」「僕だって上司と死にたくない!」(うろ覚え)ここの掛け合いすごい良い。メタ的にもエレナの態度的にも付き合ってたのは別の人だろうなって思ってたんだけど、孔に詰められたときに「私がどんな気持ちでここまで!」って激昂する演技で、詳しい事情を説明する前にこの人は違うって観客側に訴えかけてくるのやっぱり演技が上手い……。


 「贖う」ってワードが耳に残った。基本的には法律で裁かれて、お金払ったり服役したりしてそれで法の下では罪を償ったという扱いになるけれど、その相手が会社とか社会だった場合どこまで行けば贖ったことになるのだろう。
 自分がまず最初に苦しんでから死ぬという筧さんの贖い方は社会的にも法的にも間違ったものだったと言い切れるけど、そのために大金を他人の戸籍と爆弾と犯行予告のために使って、土日もセンター内を把握するためだけに働き続けて、復讐のためだけに生きたような数年間を簡単に否定することは私はできないなって思った。
 でもそれをまっすぐ否定しに来てくれるのが多分MIU404の皆なんだよねきっと。だからやっぱり筧さんは死んじゃダメだったんだよ。エレナが気が付いた瞬間の「全部ロッカーにあったのに!」って叫びが悲痛で苦しかった。

 そう思うと三作品全部、苦しんで苦しんで生きてる人たちの物語だな~……。人間賛歌。


 そういえばだけど、DAILY FASTを騙った広告がDAILY FAUSTだったのってやっぱりゲーテのファウストかな。メフィストフェレスってMIU404でも出て来たし、錬金術って化学の前身だし、最後は恋人に救われてるし。書いてて恋人の下りに気付いたけど、だとしたらあまりにも救いがなくないか……?
 だって山崎佑は死んでいなくて植物状態だから祈りが天上に届くわけがないし、そもそも彼女が何をやっているのかも知らない。ファウストは死んで救われたけど、筧さんは証拠の存在を知ることもなく死んでいった。死んだら、救われると思ってたのかな。贖罪だけじゃなかったのかも。


 最後に五十嵐が山崎の落ちた場所で考え込んでいたシーンと、孔がロッカーのメッセージを見つめて追い詰められたような表情を浮かべていたシーン怖すぎる。

 そうなんだよね、辞めたら別の人がその枠に入ることになるんだよね。捨てた苦しみを拾う人がいて、全ての苦しみを捨てることなんてできないから自分の中で抱えられるだけの苦しみになるように選んで捨てなきゃいけない。苦しみの元凶ごとぶっ壊すって策もあるけど、今回のDAILY FASTみたいにドライバーは苦しんでも、人々は届いた荷物をワクワクしながら開けてそこで感じる幸福があるっていうのも事実だから、それが正解とも限らない。2人には上手く折り合いをつけてほしい。

 これに関してはがらくたの散々騒がれてる「例えばあなたがずっと壊れていても 二度と戻りはしなくても構わないから 僕のそばで生きていてよ」って歌詞が全てなのかもなぁ。ラストマイルのメインキャストたち身近な存在が全然出てこなかったよね。佐野親子と最後の方に八木が家族に言及してたくらい? そうなると佐野親子は失わなかった二人側として描かれているっぽいな。
 それくらい大きな社会の中で代替品のある存在として生きる人たちを描いていたけど、社会の中に生きる大勢の中の1人のあなたじゃなくて、自分の近くにいるたった1人のあなたをなくしたくないって願う物語だったのかな。それを思うのは恋人でも家族でも友達でも良いし、もしかしたら鏡に映る自分でも良かったのかもしれない。
 エレナが自分で自分に白い手帳を送ったのは、エレナにとってのあなたは自分だったんだろうな。

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