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非常時こそ活きる文化資本力

文化資本のうち身体化された形態として「慣習行動を生み出す諸性向」という概念があります。端的な解説としては以下のようなものです。

□生活の諸条件を共有する人々の間に形成され、その集団の中で持続的かつ臨機応変に知覚・思考・行為を生み出す原理としてはたらく、心的諸傾向の体系。

□人々の日常経験において蓄積されていくが、個人にそれと自覚されない知覚・思考・行為を生み出す性向。

今次の国難に当てはめますと、日本人はまさにこの文化資本の力により、世界でも有数の低い死亡率に抑え込んでいると言えるのではないでしょうか。多くの人が、判断材料の少ない中で臨機応変に思考して行動した、その原理として中核を成しているのは「人に迷惑をかけたくない」という気持ちであったようです。自分が原因となって他人に被害が及ぶのは避けたいという意見を、とても多く見聞きしました。

もちろん自分が罹患するのは困りますが、それと同じくらい他人の快適な状態にも気を配っているその姿は、単に「お行儀が良い」とか「空気を読んでいる」という評価を超えた、文明人としてのレベルの高さが伺えます。

同じく国難である関東大震災の際にも、決して必要以上の物資を受け取らず他の地域へ行きわたるように配慮し、給水時に列を乱すようなこともなく、自分と家族を守りながらも誇り高く行動して究極のホスピタリティ精神を発揮していました。

追い詰められた時にこそ人間性が出る、とはよく言われることですが、もし日本人に自立と思いやりの行動が慣習として深く根付いていなければ、もっと違った事態になっていたことでしょう。諸外国の状況を見れば明らかです。

とはいえ、多くの人はこういった振る舞いについて強く意識しているというよりは、当たり前だと思って行動しているのではないでしょうか。どんな時も自分のことばかりを考えず調和を重んじる。他国からすれば特筆すべきことであっても、我々にとっては割と普通のことです。

そうした長所に鼻高々になれ、ということではありませんが、特徴として自覚し、更に磨いてみるのはいかがでしょうか。ほとんど無意識であっても他に類を見ないほど住みやすい社会を実現し、危難を克服する力にさえなっているのですから、意識的にレベルを上げれば個としても全体としても、様々なシーンで更に強力な武器に成長するはずです。

また、残念ながら無自覚のままではこの素晴らしい特徴も「主張がない」「軟弱」などの欠点として的外れな評価をされかねません。しかし、自覚して冷静に客観視できてさえいれば、芯の強さと知恵の結晶であるという本質を伝えることもできるでしょう。

我々に根付いたこのホスピタリティ精神を適切な形で大切に育て続ければ、この先に起こる困難もきっと乗り越えられます。更に、世界中から不思議がられ称賛されているのですから、正しく理解されるように輸出すれば快適さを広げることもできるでしょうね。

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