内向的な。
昔、強く生きていた。
英雄と呼ばれていた。
輝かしい実績を打ち立てていた。
今ではもう、その輝かしい姿は、見る影も、ない。
ぼくは勇者だった。
魔王を討伐した救世主だった。ドラゴンの国との争いを和平に持っていった功労者だった。日でりに悩んでいた国に雨を降らせたこともあった。
あのころ。
人を助ければ助けるほど、みんな感謝してくれて。ぼくのことをもてはやして。メディアにはひっぱりだこだった。
翻って、現在。
ぼくは今、暗い地下室でこの記述をしている。今まで自分が行ってきた冒険、そしてその後なぜ引きこもったか、についての物語を書いている。
「なぜ表舞台から姿を消したか」という章まできて、ふとペンが止まる。
どこまで本音を書いていいのだろうか。
まだぼくに憧れを抱いている人々、特に子どもたち、がいるかもしれない。その顔を想像してみると、なかなかに筆が重くなる。ぼくは彼らの夢を壊してもよいのだろうか。
しばしの沈黙の時が流れ……。
ぼくはえいや、とペンを進める。覚悟を決めたのだ。
しょうがない。
ぼくに偶像を抱いている人たちには、思いっきり幻滅してもらおう。そして、次の理想のヒーローを見つけてもらおう。
ぼくはもともとヒーローの器でもなんでもなかったのだから。
恥ずかしい話?だが、
ぼくが引きこもった理由は、
メディアの取材に耐えきれなくなったからだ。
どこまでもぼくについてきて、英雄視するメディア。実際のぼく以上のぼく、を囃し立てる。英雄としての虚像をどんどん大きくしていく。
ぼくが日常生活で何を食べたかまで事細かに書き、日常で行った何気ない仕草まで、「さすが英雄」と書く。
最低だ……。
最低な日々だった……。
今思い出しても身の毛がよだつような。
気づくと、ぼくは隠れ家に(つまり今いる地下室)に身を潜めていた。本来は魔王軍から隠れるための場所だったのだが……。
しょうがない。
だって、やつら、魔王軍なんかよりはるかに怖いんだもん……。
彼らが繰り出してくるメンタル攻撃から逃げるため、あと10年はここにいよう、ぼくはそう、決めている。
だから、この暇つぶしに書いてる冒険記が世に出るのは、100年後ぐらいだろうね……。
ぼくは自嘲気味に笑って。
十数年前、みんながぼくに対して抱いていた英雄像を崩すために、ペンをカリカリカリカリと走らせるのだった。
(了)
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