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北海道一周のゴール直前の大噴火 その1

21年前の今日、北海道の洞爺湖温泉の近くに居ました。北海道一周のツーリング中。苫小牧について、ゴールをむかえようとするとき、とある理由から足止めされたのでした。その日のメモを公開します。
※寅さん=スーパーカブ #日本一周   #有珠山噴火

3/30木 晴れ(砂原・長万部)・曇り(虻田)・雨~雪(八雲~長万部)

通行止め

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夜は暗くてよくわからなかったが、横には町の物産センター、道を隔てて警察、消防やら役場があっていかにも町の中心。だから消防車は目の前から出てきたのだ。良い天気。

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普段着込んでいる雨具上下に綿入りビニールズボンも着ず、春のぬくもりを感じながら発進。がやはり無理があった。いざ走ると冷たい風が全身に突き刺さってきてすぐに寒くなってきた。
合羽まで着込む完全防備で再出発。森、八雲、長万部。長万部の手前で天気が急変。雨そして雪と荒れ模様。これじゃやっぱ完全防備でないとだめだったな。


その後、天気は回復。長万部の手前で電光掲示の道路標識になんと「国道の37号線230号線は有珠山噴火の恐れのため虻田~伊達間通行止め」などと書いてあるのを発見。

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カニメシを道路沿いの市場で食い、ガソリンスタンドでガソリンを入れたあと店員のおじさんに事情を聞きながら考える。
「洞爺湖の北側に行きたいんですがどうやっていけばいいですか?」
「洞爺湖沿いは今道路封鎖でどこも行けないよ」
まあ、いいや。このまま5号線へと北に迂回して苫小牧を目指すのもなんだし、洞爺湖の北側のライダーハウスには行けるか行けないかはわからないが、行けるところまでいってみようか。

検問の先へ

長万部の国道5号線と37号線の分岐点にはこの先、虻田から通行止めを示すため警備員とボードと車が置かれていて、なんだか関所を通るみたいでどきどきする。

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37号線。一路東を目指すがやはり閑散としている。長万部方向に向かってくる車はときどきいる。逆に現場へ向かっていく車は皆無なのかと思ったらたまにトラックが勢いよく寅さんと俺を追い抜かしていく。
トラックに追い抜かされるときってあんまり気持ちの良いものじゃない。どっちかというと腹が立つ方だ。しかしこのときは「ああ、俺だけじゃないんだ」と安心させてくれた。
天気は良かった。がこの虻田までの行程はきつい道。峠越えた。下った。また峠越えた。そんな感じの勾配の急なハードな道。ギアはマックスの3速。アクセルもマックスまで吹かしているが、30km/hぐらいしか出ないところもしばしばだった。


38km走り豊浦着。モコハウスへ向かうには普段なら、虻田で230号線に入るのだが通行止めなのでそれは無理。ここから北へ道道97号線に入るしかない。その97号線との交差点前にはパトカーが2台停まり、警官が一台一台停めて行き先を聞いている。

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多くは道道の方へ向かっているが37号線をさらに奥に入っていく車も中にはある。だんだんと現場に近づいているんだという緊迫感が肌を刺す。
寅さんも停められた。


「旅行者なの?どこ行くの?」
「洞爺湖畔の北側に出たいんですが、ちょっと今地図で指し示します」

俺が地図を手にしようとしていたのに警官は俺の申し出を遮り、
「いやいいよ。今地図持ってくるから」
とパトカーに一度戻った。なんだか意固地だな。この警官。
戻ってきて、「この赤い線の道路は今通行止めなんだよ」と指し示す。なるほどこの方が話し早いやと納得。

「洞爺湖畔の北側の洞爺村に行きたいんですよ」
「だめだめ。洞爺湖畔は今どこも行けないよ」

そうなのか。俺は行く手をはばまれて考えに詰まった。
路肩に寅さんをエンジンかけっぱなしで停め、愛用の20万分の1の北海道地図の32ページ「洞爺湖・室蘭」を開き再び考え込んだ。

もう1週間以上分の日記がたまっているのだ。これ以上日記を書くことを先延ばしすると忘れてしまって書けなくなる。しかも噴火という大イベントが発生したのだ。噴火がらみでたぶんいろいろと思うことが多いだろうし、いろいろと体験するだろう。俺の少ない記憶容量ではたぶんパンクしてしまう。

でもいいではないか。せっかく噴火直前の火山のそばまで来たのだ。とりあえずは山のそばまで行き現場の雰囲気を感じてからどうするかまた考えればいいじゃないか。
そう考えを決め、俺はさっきの警官に切り出した。

「実は僕カメラマンなんですが取材って役場かなんかに申し出ればいいんでしょうかね」
「いやーわかんないなー。札幌から今回のために派遣されたんでね」
「じゃとりあえず虻田町の役場に掛け合って見ますんで、ここ通っていいですか」
「ちょっと待ってね」
まじめそうだがやるときはやるぞって感じの警官は俺の後ろに数台たまった虻田方向を向いている車を処理し、パトカーの中に一度入ってから俺の前に現れ、
「じゃ気をつけて行ってください」
と通してくれた。

避難する町

俺は検問を突破した開放感と迫り来る現場の重々しさを感じながら虻田へと坂を下りていった。ここから通行止め地点の国道37号と230号の交差点へは6.5km。虻田の市街のど真ん中にある。


平静ではないあわただしい雰囲気の町へ。だが交差点にしか頭がいってなかったので街の様子は詳しくは覚えていない。

とにかく交差点だが、やはり検問。ここから先は住民も避難してしまっていてゴーストタウンになっているとのことだが、37号線をさらに東へ向かう車もまだいる。置き去りにしたペットにえさをやりに行きたいとか、着替えをとりに行きたいとかそういうことなのだろうか。出てくる車もいる。


もちろんここから先の入江地区は行けない。しかし山をはっきり見たいし、誰もいなくなった感じを撮影したいので、一言断ってから歩いて37号線の奥へ。靴の量販店とセブンイレブンが目に付く。もちろんセブンイレブンも閉店している。爆風で割れるのを防止するためなのか、商品の略奪防止なのか、わからないがガラスすべてに内側からダンボールが貼られていた。


ドアには「避難のため閉店いたします・・・・店主」

セブンイレブンのそばには川が流れていてそこから有珠山がはっきりと見えた。俺の目の前にお目見えした。
パッと見、何の変哲のない、大して高くもない、どこにでもありそうなちっぽけな低い山だ。しかし普通ではなかったのは山のてっぺんではないが中腹より上の部分から白い煙がうっすらとたなびいていたことだ。


じっと火口を見ていると火口が神々しく感じてきた。
地球の神秘を垣間見た気分になった。
と同時にさらにこの後どうなるかを見てみたくなった。

数十年に一回の自然現象。今回の噴火を見逃すとこれから一生見る機会がないかもしれないからだ。

山と町を数カット撮影し、交差点に戻った。
交差点には警官以外に警備員の兄ちゃんたちがいた。


「おにいさん旅行してるの?」
「ま、それもあるけど、写真撮りに来た」
「えっカメラマン?じゃ撮ってよ撮ってよ」
といたって明るい。避難指定地域の伊達の人間なのだが悲壮感は全くない。

噴火についても、
「実は噴火するの楽しみにしてるんだ」


俺は交差点そばの縁石に座り数分ごとと頻発する震度4ぐらいの地震を体に感じながら待った。とりあえずは日没まで様子を見る。


サイレンを鳴らせた消防車やらの緊急車両が数台続いて通ったり、ランクルらしき赤い車両が避難勧告の為スピーカーでメッセージを告げながら町内を巡っている。


「この地域はただいま避難勧告が出ています。自家用車で避難できない方はお呼びください」

交差点の西側も避難開始が始まっているらしく、家族で自家用車に乗り込む場面もちらほら見えた。


それにしても寅さんが危ない。路肩に停めててたのだが衣装ケース、その上に20Lぐらいのリュック、テント、ブルーシートを載せているのだ。いつ倒れてもおかしくない。安全なところに寅さんを停め置き、少し歩いてみると置き去りにされた犬や猫(猫は交差点の東側。その後家族と一緒に車で避難)、避難するためバスに乗り込む老女たちの周りにはNHKやら新聞社のカメラマンが金魚の糞のようにくっついていた。

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230号沿いに数十m歩き、検問からは見えないところで230号を東に横断。川沿いの草むらに座り込む。数分ごとの地震の中、かすかに山から吹き出ている煙をじっと見つめる。やっぱり神々しい。火口を眺めていると、地震がひっきりなしなのにいつ噴火するのかわからないのに気持ちが安らぐ。ついつい眠くなる。


暗くなる頃には交差点の西側も閑散としてきた。
避難勧告のランクルはまだまだ回っている。

暗くなるにつれ山の神々しさは影を潜め、ブラックホールのような不気味さを醸し出していて、俺は急に不安になってきた。かといってここからどこか別の町へ移ろうにも今まで考える余裕がなかった。テント張ってもいいがいざ噴火したとき、撤収に時間がかかって逃げ遅れるかもしれない。とりあえずは少し離れよう。

市街を抜け虻田の町外れの丘の上へ。車が10台ぐらい停まっている広い駐車場と平屋建ての施設。町民はここに避難しているのだろう。
ここならたぶん大丈夫だろう。スピーカーでラジオが外に向かってがなっていてやかましいが、いいや。俺は平静を取り戻し、駐車場にテントを張り、すっかり暗くなった中、カレーを自炊して食った。

加藤健二郎さんに電話すると、
「ここ数日以内に噴火するんでしょ。だったらせっかくだから噴火するまで待ってみたら」
とりあえず数日待ってみるか。気分の落ち着いた俺は加藤さんと話し、そう腹を括った。3月中に北海道一周し切るつもりだったが、最後の最後こんなことで通せんぼなんてな。たるんでいた気持ちがシャキッとなっていいことだ。でも3月中に苫小牧へ行くのはたぶん無理だな。
さあ明日はどうなるのだろう。
テント張るのは北海道入って初めてだな。寒さがかなり緩んだからもう問題ないけどな。

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