リサーチャー交流会から一晩明けて

思いつきで書いてます。昨日の交流会を振り返りつつ、個人的に好きなデザインリサーチプロジェクトの偏愛を紹介しています。

リサーチャー交流会振り返り

昨日、メルカリさんのオフィスで「リサーチャー交流会」が開催されました。この「リサーチャー交流会」をざっくりまとめると、マーケティングリサーチャーとデザインリサーチャー(≒UXリサーチャー)の交流会です。

きっかけはデザインリサーチャー3人(草野さん・木浦さん・座敷童子)とマーケティングリサーチャー(牛堂さん・吉田さん・ボブさん)の3名で、まるで合コンみたいなシチュエーションの飲み会をし、折角なので互いの事例を紹介しあうLTイベントやりませんか?と話されたことがあります。

ちなみに、特に牛堂さんとは非常に仲良くしていただき、自分が開催するデザイン哲学対話会にも参加いただいたりもしました。

デザイン哲学対話会のレポート記事については少々お待ちください!今がんばって書いていますが、忙しい時期と被っていてなかなか書けない状態にあります・・書くぞ・・!

そして機会を頂戴し、LTもやってきました。自分のLTの内容は『探究により自己実現を相互支援する組織施策「MIMIGURI QUEST」のリサーチプロセス』というもので、概ねとしては以下の記事のサマリーです。実はLTは初めてです。普段登壇する時は学会発表などが多いので何を喋るか悩みましたが、もっとライトじゃんという学びがありました。

昨日話したLTの表紙

マーケティングリサーチャーの方々が語っていた感想

この交流会でマーケティングリサーチャーの方々が、デザインリサーチに対して抱かれた印象を聞いたのが面白かったので、事例オタクの観点からその部分について考えを補足してみようかなと思います。

(一晩寝かせて、自分の好きなデザインリサーチプロジェクトをただひたすら紹介するLTのほうがよかったかなと反省してる)。

マーケティングリサーチャーの方から語っていただいた印象:デザインリサーチは、学術的バックグラウンドをよく語る印象がある。

この話を聞いて自分も「あれ、マーケティングリサーチは違うの?」と思ったのですが、実際マーケティングリサーチの基本書をAmazonで調べてみると、リサーチ会社の方や実務家の方の本が多かったので、実務家の中でマーケティングリサーチのスキルが人口に膾炙した結果、学術性は徐々に薄まっていった・・・という解釈が良いのでしょうか。

実際のところ、デザインリサーチの一つの源流はデザインリサーチを"Design Research(デザインの研究)"と読む方法であり(たとえば1966年に設立されたデザイン学の国際学会の名称はDesign Research Societyです)、そもそもデザインリサーチとは学術分野であるという解釈をされることがあります。

学術における「デザインリサーチ」の歴史については、水野大二郎研究室がとりまとめた“work in progress: Design Research - Genealogical Studies”というこちらのレポートが詳しいです。

ただ木浦さんの本(2020)では、この学術界における「デザインの研究」と見なす立場を言及しており、本著が論じるのはあくまで「産業界におけるデザインリサーチ」であると示しています

学術界では、プロダクトがどのようにデザインされているか、その手法やプロセスに関する研究を「デザインリサーチ」と呼ぶ。一方で、産業界でデザインに従事している私たちは、プロダクトをデザインするためのリサーチ、つまり人々や社会などプロダクトが置かれる状況を理解するためのリサーチを「デザインリサーチ」と呼ぶことが多い。この場合、デザインリサーチはプロダクトのデザインプロセスの一部であると捉えることができる。本書のテーマは産業界におけるデザインリサーチである。

木浦幹雄(2020)「デザインリサーチの教科書」ビー
・エヌ・エヌ新社

しかし、個人的な視座としては学術界における「デザインリサーチ」と産業界における「デザインリサーチ」は明確にぱきっと分けられるものではなく、溶け始めている印象を受けています。というのも学術におけるデザインリサーチのプロセスも産業と同様に実社会での「実践」を伴うものだからです。特に市場を舞台とした学術的デザインリサーチのプロジェクトは、必然的に産業におけるデザインリサーチの性質を帯びたものになります。

事例①バイオハッキングファッション(Kazuya Kawasaki)

代表的なものでいうと川崎和也さんが立ちあげられた、スペキュラティブファッションラボラトリであるSynfluxも、学術性と産業性が溶け合わさったデザインリサーチのプロジェクトの一例です。Synfluxというファッションブランド自体が、バイオマテリアルファッションのリサーチプロジェクトになっているという特徴があります。

ちなみに自分は川崎さんが2017年に、Research through Design conference 2017(RtD2017)で発表されたこの論文が好きです。持続可能なファッションを実現するために、ファッション産業の生産プロセスのリサーチをもとにバクテリアセルロースを使った生地での衣服のデザインに挑戦されています。だいぶ前の論文ですが衝撃を受けました。

Kazuya Kawasaki,Daijiro Mizuno(2017)Bio-hacking Fashion: A Study on 2.5 Dimensional Fashion Pattern Cutting and Bacterial Dyes , RtD2017
Kazuya Kawasaki,Daijiro Mizuno(2017)Bio-hacking Fashion: A Study on 2.5 Dimensional Fashion Pattern Cutting and Bacterial Dyes , RtD2017

事例②Street Debater(Tomo Kihara)

また最近日本人で世界で注目を集めている、木原共さんのプロジェクトも学術性を帯びたデザインリサーチプロジェクトです。木原さんのプロジェクトで好きなのが、デルフト工科大学院時代に取り組まれていたStreet Debaterというもので、ヨーロッパの路上生活者がものごい以外で尊厳を奪われずに金銭を稼ぐ手段として「ストリートディベータ―」という新しい職業が考案されました。このプロジェクトの説明を引用します。

ストリートディベートは質問が書かれたボードと、その回答を示す2つのオプションが書かれた天秤型のツールを使って、通りすがりの人々に投票を呼びかけます。ディベートを通じて、天秤の皿にお金が投じられ、その結果として世論が可視化されます。

そこで行われるやりとりは「支援する者」と「支援される者」の関係ではなく、あくまで友好的な対話であり、これらを通して路上生活者と社会との繋がりを再建することが期待されています。実際に、この仕事を通じてロンドンでの路上生活を脱却した方もいます。

Tomo Kihara(online)“Street Debater”https://www.tomokihara.com/en/street-debater.html

木原さんのこの「ストリートディベータ―」のデザインリサーチに至るまでのプロセスについては、以下の記事『「物乞い」の行為をデザインする』をご覧ください。特にリサーチャーの方はこのプロジェクトに至るまでのインタビュー調査から、プロトタイピング、実践に至るまでの課程はかなり参考になることが多いのではないでしょうか。

まとめ

さて、手前味噌ですが、昨日自分の事例を踏まえてこういうスライドを出しました。デザインリサーチとはつくるまでの課程ではなく、つくったあとの想定外も含めてリサーチなのではないかというものです。これは実は元ネタがいくつかあって、それを話す時間がなかったのですが、Stappers, P. J., & Giaccardi, E. (2017)や、須永(2015)の「やって・みて・わかる」などに影響を受けています。

この図を作成する上で影響を受けているのは、Stappers, P. J., & Giaccardi, E. (2017). Research through design. In M. Soegaard & R. Friis-Dam (Eds.), The encyclopedia of human-computer interaction (2nd ed.). Copenhagen, Denmark: Interaction Design Foundation.や須永剛司:芸術のデザインからデザイン学を展望する,計測と制御,54巻,7号,pp.462-469,2015.など。

昨日の牛堂さんの発表にもあったように、「仮説オタク」という点に関してはデザインリサーチも同様なところがあると感じました。ただ、デザインリサーチはリサーチの前に「デザイン」があって構成されているので、プロセスにデザインを含まないリサーチは「何かが足りない」印象があります。

デザインプロセスの中につくってみる(Designする)、つくったらすぐに結論を出すのではなく(結論を出すことを留保し)、そこから広がる予想外な展開を楽しむというのがデザインリサーチの特有の態度なのかなと昨日帰りながら考えてみました。

ただボブさんの発表でも語られていたように、元々マーケティングリサーチもデザインリサーチも「人間」を対象としたリサーチであるという点で共通しています(定量的な調査であっても、一人一人の人間を見ているということは変わりがない)。

手法が定量か定性か、デザインを含むか含まないか、仮説を立てるか立てないか、手法という点では共通する/しない点は諸々ありますが、究極的には人間に対する探究心という点ではやはり精神は被ることが多いとは思います。その意味では昨日のような技術交流が盛んに開かれ、より探究心を深めあえるように「互いの違いを楽しんで学ぶ」という動きが芽生えていくといいな~と思いました。

いや~~5月のResearch Conferenceがたのしみだ~~!
昨日よりティザーサイトがオープンしました。
今年は5月18日土曜日に開催される予定です。



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