なぜ桃太郎は「キジ」を鬼退治の仲間に選んだのか?
桃太郎の世界では、「きび団子」が大きな価値を持つ。
「お越しに付けたきび団子」は「鬼退治」という“死“のリスクを抱える戦いと引き換えになるほどの価値である。
桃太郎はその「鬼退治」という大一番のメンバーに猿、犬、キジを選んだ。
彼らは攻撃においてどんな「武器」を持つのだろう。
まずは猿。
「噛み付く」が第1の武器である。接近戦に持ち込み、相手にダメージを負わせることができる。素早さも武器であり、一度目が合ったら獲物を追いかけることができる。
次に犬。
こちらも「噛み付く」が武器である。ん?猿と被るな。接近戦に持ち込み、相手にダメージを…(猿と同じなので以下略)
最後にキジ。
…キジ?ここでまさかの鳥類。ワシとかの獰猛な鳥類ならまだ理解できるが、キジなのか、ここで。攻撃力は少し猿や犬に劣るはずである。
ただし、「鬼退治」という一世一代の大勝負に、桃太郎が使えない戦士を選ぶはずがない。大きな価値をもつ「きび団子」をむやみやたらにばら撒くはずがない。キジを選んだ理由があるはずである。
なぜキジを選抜したのか。
桃太郎視点で考察したい。
①パリ五輪のアメリカ代表が発表された
ちょっと話が逸れるが、2024年夏に行われるパリ五輪のアメリカ代表が決定した。
NBA好きなら共演を心待ちにしてしまうほどの“スター集団“。MVPの受賞者、得点王、スリーポイント王など、名だたるメンバーが揃う。私も「おぉ!!これはやばい!!!」と心躍ったほどである。
ただし、懐疑的な声もあるのはたしかだ。
「こんなにスターが揃ても勝てない」
「汚れ役は誰がやるんだ?」
「ボールは1つしかない。得点王がたくさんいても意味がない」などである。
そう思われる背景に、2004年のアテネ五輪がある。
この年のオリンピックの優勝の大本命はもちろん、NBAの精鋭たちを送り込んだアメリカだった。
当時のスターだった選手たちはこの大会に参加しなかったものの、次期の殿堂入り選手のティム・ダンカンやアレン・アイバーソン、現在のNBAの“顔“であるレブロン・ジェームズが参加していた。
しかし、大会開幕直後にアメリカ代表の歯車は狂い始める。
現役NBA選手が2人しかいないプエルトリコに、初戦から敗北を喫したのだ。この瞬間から当時のアメリカ代表は「ドリームチーム(夢の集団)」から「ナイトメアチーム(悪夢の集団)」と呼ばれ、嘲笑されたそう。
チームの雰囲気も最悪だった。古いスタイルのブラウンHCと、当時のスター選手が大会期間中対立し合っていた。「アメリカ国内でさえ、俺たちが負ければいいというような空気があった」と選手は嘆く。
この年のオリンピックの最終成績は3位。金メダルを取って当然とされていたアメリカ代表にとっては屈辱の銅メダル🥉。正統派シューターが不在だったメンバー選定の失敗などが槍玉に挙げられた。要するに、スターだけで固めすぎた、と。
*
このアテネ大会だけでなく、その他の国際大会でもアメリカ代表が敗戦することが増えてきた。「"とりあえず強いやつ“を集めても勝てない」ということが徐々に分かってきたところである。
そんな背景もあって、今回のアメリカ代表にも懐疑的な声が上がるのだ。
じゃあどんな選抜をすべきなのかってところだが、「スター選手がやらないような泥仕事をできる選手を集めるべき。」「余計なことをせず、自分の"武器"だけを存分に発揮する選手を選考すべき。」という声が多い。
リバウンド、ルーズボール、ディフェンス。そういった“脇役“を入れるべきだと。同じような役割のスーパースターだけじゃなくて、スリーポイント職人といった1つのプレーに集中できる“脇役“を入れるべきだと。
(ここでの“脇役“はDisではなくて、“職人“的な意味。褒め言葉。)
「スターを揃えるだけじゃダメだ」
この意見が多いこと多いこと。
②なぜ桃太郎はキジを入れたのか
桃太郎は完璧なスカウトセンス・マネジメント力がある。
だって「スターだけじゃ勝てない」に気づいているもん。
犬も猿も、接近戦で活躍できるタイプである。それならば、攻撃力に劣るが、彼にしかない「空中」という武器で"チーム桃太郎"に貢献させようとしたのではないかと思う。
空中からの情報収集や、微力ながら空中から攻撃だってできるだろう。接近戦だけでは戦えないと判断したとき、キジの起用は大きなスパイスとなる。強者ばかりの中に、“脇役“を入れることで新たな武器加えたかったのではなかろうか。
ドラマだって同じである。主役がいて、脇役がいて、エキストラがいて。それぞれが忠実に役割をこなすことによって、人の心を動かす作品が完成する。出演者全員が主役だったり、脇役なのに出しゃばって主役ムーブをしてしまうと、一気にカオスと化す。
どちらかというと“脇役“のキジではあるが、自分の役割を見出し、理解し、犬と猿と差別化できると判断したため、自ら鬼退治を志願したのではないかと思う。
③桃太郎から学ぼう
桃太郎から2つの教訓が得られる。
1つ。スターを集めれば勝てるわけじゃないということ。派手で、主役気質の戦士たちの中に、ある意味“脇役“であるキジを加えたことで、ちょうどいいバランスを取れている。
2つ。人生の中で「キジ側」の役割になることがある。特にスポーツでは、自分のレベルとその周りのレベルとの兼ね合いで、悲しいかな、「主役」になるか「脇役」になるかが分かれる。これは自分の身を置く環境によってその都度変わる。自分より上手い人がいれば「脇役」になるし、自分がトップなら「主役」になる。
これはスポーツをやる上では宿命である。地元の高校でエースを張っていた選手が、県選抜では役割を限定させて脇役に徹することだってある。でも、"そういうもん"なのである。受け入れるべき。
大事なのは、「キジ」になったとしても、それは「負け」ではないということを理解すること。あとは求められている役割を理解できるか。役割を受け入れられるか。そして、できる限りのことを精一杯こなせるか。上のレベルでやれるチャンスがあるならば、プライドを捨てでもチャンスを掴むべきである。
能力は劣っても、"スター集団"というパズルの中に、"自分"というピースをはめることはできる。
あぁ、桃太郎。深い。
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ちなみに、2024年のアメリカ代表は、強いよ。俺は当たり前に強いと思ってる。スタープレイヤーだらけ?関係ないよ多分。
スタープレイヤーもきっと、スタープレイヤーだと思ってプレーしないはず。チームに必要なプレーをするはず。だってベテランだらけだもん。「スターだけじゃ勝てない」を彼らが1番理解しているはず。
懐疑的な声ももちろん彼らの耳に届いているはず。
私たち観戦者を、めっちゃ驚かせてほしい。
P.S.
キジのことめっちゃ悪く書いてしまったけど、キジがめっちゃ強かったらごめん!!!
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