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メロンソーダ (ショートショート)

「のの、別れよっか」
「私の名前は『のの、別れよっか』ではなく、『ののか』だけど?」
「…知ってる」

目の前のジンジャーエールをストローで意味もなくかき混ぜながら、無意味な会話に答える彼。
あぁ、この人は私の答えなんて欲してないんだ。
それでも、私には聞く権利がある。

「なんで?」
「んー、ののってさ、みんなのマスコット的な存在じゃん? 愛されイジラレキャラ? で、ののもそれが楽しそうじゃん? なんかさぁ、それを見ているのツラくなった」
「はぁ?」
「別にオレじゃなくてもいいんだな…って」

はぁ? 何を言ってるんだ、コイツは。
そんなわけないよね?
じゃあ、なんで付き合ってるのさ。
いちばん好きで、いちばん一緒にいたいからだよ?

クルンとかき回されるジンジャーエール。

「好きじゃなくなったのを、人のせいにしないで欲しいなぁ…」

クルン。

「ゴメン」

ジンジャーエールの氷はすっかり溶けて、クルン、クルンと回していた手はストローから離れた。

まぁ、よくわかんないけど、どうしようもないのかな。
氷みたいに溶けちゃったのかな、私たちの何かも。

「わかった。わかんないけど、もう無理ってことはわかった。」
「……」
ゴメンと言い出す前に、私から
「さようなら」

開きかけた口を閉じ、彼はそのまま、席を立った。
私はメロンソーダをストローでかきまわし、カランと鳴るかすかな氷の音を静かに聞いた。



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