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ゲームとことば#62「力尽きました」

モンスターハンターシリーズでプレイヤーの体力が0になると、画面中央にこのことばが表示される。
ハンターは大地に突っ伏し、モンスターはいななく。
壮絶な状況だが、文字に感嘆符や派手な装飾はつかず、テロップは中央に小さく事務的に表示される。
あっさりとしたものである。
どれほど強力な武器を携え、2人、3人で挑みかかろうとも所詮は人間。
時に炎や氷を操り、時に地中を潜り空を飛ぶ巨大なモンスターに、かなうわけがないのだ。
ハンターの意気込み、やる気、覚悟なんて関係ない。
弱肉強食の無常さを感じる。

私ははじめてこのテロップを見たとき「フヒッ」と小さく気持ち悪い笑いがこぼれた。
だってあまりにも無残に倒れているのだから。
大の大人が倒れた様子を真上から眺め、無機質なテロップが出されるシュールさが可笑しかったのだろう。
その様子は確かに誰がどう見ても力尽きている。
誰がどう見てもわかる状態なのだが、ちゃんと言ってくれる。
「力尽きました」って。

大人が日常生活の中、このような姿で力尽きることはまずない。
少なくとも平和な国に生まれ、平凡な日々を送れているのなら力尽きることはないだろう。
大人は疲れたら早めに休むし、どんなにつらくても保険証をもって病院に行く体力は残しておく。
出かけるときは部屋の電気を消して玄関にカギをかけて出ていくし、履きなれた靴を選ぶ。頃合いを見て会社に連絡を入れ、謝りつつ軽い引継ぎをしておく。
突然気を失うようなアクシデントでもない限りは。
そういった意味では、遊び疲れて公園の遊具で眠ってしまう子どものようである。
あれこそ「力尽きた」という表現が正しい気がする。

小さな子どもは体力の限界まで遊ぼうとする。
時間いっぱい、楽しまなければいけないから。
ハンターも常に全力なのかもしれない。
べつに倒れるまで頑張ることを賛美するわけではないが、果たして私は全力を出しているのかしらと自省の念を感じたりはする。
そして、たとえ誰かがその状態になっていたとしても「フヒッ」と笑ってはいけない気がするのだ。

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