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バスに傘を忘れる

ここ数日、良くないことが続いている。
職場の同僚の何気ない言葉に苛立ったり、ホストファミリーの娘ちゃんにアルフォートを勝手に食べられたり、本当に色んな事が発生している。

そしたら、今日はタイトルの通りローカルバスに折りたたみ式の日傘を忘れた。

私はいつも使う路線のローカルバスに乗って、知人たちのWiFiルーターの購入を手伝うために職場からコロンボに向かっていた。コロンボから職場まではバスで1時間弱。今日乗ったバスはいつもよりも新しめのバスで、テレビなんかも付いていた。テレビが付いているなんて珍しいと思いつつ、いつもより長めの乗車時間を過ごす。そして、いよいよ降りる予定のバス停が近づいた時、いつものようにベルを鳴らして、足早にバスから降車する。

今日も無事に降りれてよかった(バス停でちゃんと止まってくれないこともあるから)と思いながら、何かが足りない気がして、カバンの中を見る。その時、バスに自分の折り畳み傘を忘れたことに気が付いた。思わず「あ、やばい!」と日本語で声が出た。スリランカにはあんな小さくて軽くて裏地が黒くなっているような折りたたみの日傘は存在しない。あんなものバスに放置してしまったら、すぐに取られてしまう。そう思って、とにかく乗っていたバスを追いかけた。

幸いなことにすぐに約100m先の信号でバスが止まったので、私はそれをめがけてダッシュした。ちなみに、私はこの時サリーを着ていたので、めちゃくちゃ走りにくかったが、それでも結構なスピードが出たと思う。
しかし、あともう少しでバスにたどり着くと思った時、信号が青に変わり、バスが行ってしまう。ああ、どんどんバスが遠くなると思いながらも、とにかく走り続けるしかない、と思って走った。

とは言え、このまま人間の走るスピードで走っても到底追い付かない。そこで、近くにいたトゥクトゥクを捕まえて、「あの黄色いバスを追いかけて!!」とトゥクトゥクの運転手の人に言った。トゥクトゥクの人はすぐに分かってくれたが、中々混雑しているコロンボの道路上をスムーズに追いつけるはずもない。そして私は「あの黄色いバスだから!」「早く早く早く!」と焦るあまり何度も言う。
しばらくは黄色いバスも見えていたのだが、大きい交差点の信号でバスと離れてしまった。ドライバーも「黄色いバス見えないよ」と言いつつ、とりあえずトゥクトゥクを走らせている。あきらめずに、バスが曲がった方向に進んだが、もうバスの姿は見えない。そのままフォートの方まで追いかけても良かったのだろうが、そんな時間もお金の余裕もない。

ここはもう諦めようと思って、運転手のお兄ちゃんに「もう降りるよ」と伝える。運転手のお兄ちゃんは「いいの?」「大丈夫なの?」と言ってくれていたが、終点まで追いかけても戻ってくるのが大変だし、そもそも彼は自分の運賃を稼ぎたくてそう言っている可能性だってある。たぶん1キロも走らないから100ルピーで足りるだろうと思って、事前に財布から出していた100ルピーを渡す。幸い彼はちゃんとスマホのメーターを動かしてくれていたようで、料金も100ルピーだったし、変なぼったくり系のトラブルもなかった。

しかしトゥクトゥクを降りた後、どうしようもない気持ちと後悔の気持ちでいっぱいになる。バスに乗った時にすぐに日傘をカバンにしまっておけば良かった、なんで隣の席に置いたまま忘れてしまったんだろう、ずっと手に持っておけば良かった。そんな気持ちがグルグルする中、バス代を支払った時にレシートを貰ったことを思い出した。レシートを確認すると、電話番号が書いてある。これがバスのコンダクターの電話番号だと良いんだけど…と思いつつ、電話する。

つながった先はバスを統括する人のような所で、バスのナンバーを聞かれて、傘の忘れ物を確認してほしいと伝えると、「バラム」(見てみよう)と言われ、電話を切られた。ちなみにスリランカの「バラム」は色んな意味があるのだが、この場合の「バラム」は本当に見てみようってだけなので、実際に何か物事が動くことは少ない。日本でいう「検討してみます」みたいなものである。しかし、この時の私は焦っていたのか切られた電話を再度掛けなおし、「それで、私は何をする必要があるの?」と聞いた。すると彼は面倒くさそうに「今日の夜連絡するから、ちょっと待って」と言ってきた。まぁ、この電話はきっと来ない。(実際来なかった)

実際問題として、バスが1日の仕事を終えて、本当に係の人が私の忘れ物を確認しにバスの中を見たとしても、そこに私の日傘がある確率は少ないだろう。どこかで誰かが自分のものにしてしまっている可能性だってある。(明らかにスリランカ産ではないクオリティ高めの傘だから)
そう思うと、これは一旦追うのを諦めて、新しい日傘を日本から送ってもらうしかない。とは言え、自分の日傘をバスに置き忘れるなんて…日本でもやったことがないことだっただけに、ショックが大きい。

そのままフラフラとアルピコを通り抜ける。建物の出口から出ようとしたとき、近くにいた警備の人からNO ENTRANCEの文字を指される。しかし、その時の私は警備の人の言葉も全く耳に入らなくて、そのまま建物に入った人と同じタイミングで強引に出てしまう。すると、警備の人は大きい声で「ここはスリランカなんだ!」と怒鳴った。
これは完全に私が悪いのだが、その時の私は倫理観が崩壊していた。だから警備の人が言う事実以上になんで怒鳴られなきゃいけないのか?という気持ちが先に来た。

そのまま目的地まで歩いていると、もう涙がこらえきれなくなって泣きながら歩いた。なんならちょっと声も出てた。そんな私を周囲の人はただ見つめているだけだったが、目が合って話をしてしまうと、もっと涙が出そうだったので、誰とも目を合わせず、黙々と泣いて、黙々と歩いた。
しかし、この状況を振り返るに、その時の私が外国人+サリー着用+泣きながら歩く、という少々情報量が多い状態になっていたので、そりゃ普通に話しかけずらいなと思った。

帰宅後、ホストマザーにバスに傘を忘れたことを話すと「アイヨー」と言いつつ、ニュージーランド産の傘を貸そうか?と提案してきてくれた。しかし、私は折りたたみの日傘をもう一つ予備で持ってきていたので、そのことを伝える。ホストマザーは「それなら大丈夫ね」安心し、私は「そう、ただ悲しいだけ」と言った。
すると、ホストマザーは「ドゥカ ウェンナ エパー」(悲しまないで)と言った。おおなるほど、と思いながら彼女の話を聞いていると「スリランカでは皆、物がよくなくなる。だから、悲しまないで、悲しんでも意味がないから」とのことだ。分かったようで分からなかったホストマザーの持論だが、とにかく無くなってしまったものをいつまでも落ち込んで悲しむことは意味がない。しかし、スパッとそんな言葉が出てくるのは凄いなぁ、と思う。

幸い壊れたりした時用に予備で日傘を持ってきたのだから、当分はその日傘を使おう。そして日本から日傘を送ってもらうついでに化粧水とか日本食もいくつか送ってもらおう。そう思うと、少し気持ちも明るくなってきた。

あ、アルフォートも忘れずに送らないと。

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