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ホームステイ先で水筒がなくなる

日本から送ってもらった荷物を持って家に帰って来た私は大変上機嫌であった。日本の慣れ親しんだラーメン、そうめん、そば、他にも色んな日本製品が詰め込まれた荷物は、届くだけでも嬉しいものだ。(おかげで税関で5000ルピーぐらい取られたけど)

家に帰って、食品類は早速キッチンの自分の棚に片付ける。私はホームステイという形で自分の寝室、トイレとシャワー室以外はホストファミリーと共用なので、キッチンも同じ場所を使っている。その為、自分の棚もキッチンの棚の一部を自分の食品置き場として使わせてもらっている形だ。

私が自分の棚に食品を片付けている最中、ふと隣の棚に置いていた自分の水筒が気になって棚を覗いてみた。スリランカに来てから日本から持参した500mⅼの水筒では足りず、現地のスーパーで購入した1Lの水筒を使用していた。そこで、しばらく使わなくなっていた500mⅼの水筒も同じくキッチンの一画に置かせてもらっていたのだ。
しかし、久しぶりに水筒の所在を確認したら、そこの棚には水筒の姿はなかった。慌てて周囲の棚などを全て確認したが、私の水筒は見つからない。そうやってバタバタとキッチンで水筒を探し回っている私の様子を見て、ホストマザーが「何しているの?」と声を掛けてきた。正直に私は自分の水筒が見当たらないことを伝えると、ホストマザーも私と同じようにキッチンの棚を確認し、「私たちは取ってない。あなたの部屋にあるんじゃない?あなたの部屋には荷物がいっぱいあるから」と言った。

「いやいや、確実に水筒をキッチンの棚に置いた記憶があるから、この場所を探しているんだよ」「私の部屋に荷物が多いのは、別の問題でしょ」「そもそもアネックスの契約で来たはずなのに、ホームステイで部屋が一つだったんだから、そりゃ荷物も多いよ」と色々モヤモヤしながら、とにかく自室に戻る。とりあえず自室でも水筒の捜索をしてみたけど、やはりない。

何というか、ただただ悲しくて、何故無くなったのかも分からなくて、自分でもどうしたらいいのか分からなくなった。しかし部屋を出れば、ホストマザーから「私たちは(あなたの水筒を)取ってない」と言われるばかりで、私はそれに対して弱弱しく「分かった」と言うことしかできなかった。

そもそも、私が自分の決められたエリアではない棚に勝手に置いていたことがダメだったのだ。それをホストファミリーから何も言われないことを良いことに、長期間置きっぱなしだったことが間違っていた。そうやって、自分を反省すると同時に、やはりキッチンを共有するということは難しいのではないか?と感じ始めた。

冷蔵庫に置いていたアルフォートが食べられる事件もそうだし、買ってきて自分の棚に入れたはずの新品の紅茶をホストファミリーの紅茶ゾーンに勝手に移動されてたこともそう。そもそも「私たち」の概念が強い人たちと一緒のキッチンを使うのだから、大事なものはそもそも共有スペースに置いてはいけなかったのだ。それに気づいてから、私はキッチンに置いてある自分の食品を全て回収し、自室に全部置くことにした。

最早ここまで来ると、誰が取ったとか、そういう問題ではなく、何か自分のものが無くなる度に悲しい気持ちになることの方が嫌になってしまったのだ。そりゃあ、人と一緒に暮らしていると、食品類を勝手に食べられるのは、よくある話だけれども、それだけでも1週間は引きずることを考えたら、自分のものは基本的に自室に置いておくことにしたら、精神的にもだいぶ安定すると考えたからだ。

その後、私がガサゴソと自分の食品をキッチンから自室に移動させた後、もう一度最初に見た棚を確認すると、私の水筒が置いてあった。私が「水筒がない」と騒ぎ始めて早1~2時間ほどの時間。ホストマザーも私も何度も確認した場所にその水筒はあって、本当にマジックのようだった。しかし色々もう遅いこのタイミングで水筒が見つかったことには、何とも言えない感情しかない。とりあえず、この水筒も私の部屋に持っていった。

無事に水筒も何故か見つかり、一安心と言いたいところだったが、家庭内の空気感は最悪であった。ホストファミリーは明らかに私のことを避けているし、リビングにいても居心地が悪い。その上、私自身もかなり落ち込んでいた為、自室でひっそり休んでいた。(しかも、こういう時に限って近所の家族が一堂揃っているんだよなぁ)

そうこうしているうちに、ホストマザーが娘ちゃんの部屋のドアを強く叩く音が聞こえる。たぶん晩御飯なんだろう、それにしてもホストマザーの機嫌は良くないようだ。(ほぼ私のせい)娘ちゃんと私の部屋は隣同士だし、私はドアを開けっ放しにして部屋にいたので、様子がよくわかる。その後、ホストマザーではなく娘ちゃんから「晩御飯食べな」と言われたこともあり、これはもうホームステイ終了かもしれない、と感じた。私自身、ホームステイってコミュニケーションが取れなくなった時点で共同生活をするのは難しいと考えていたからだ。

何というか、ホームステイのメリットって(メリットと言ってしまうのもどうかと思うが)ホストファミリーとのコミュニケーションを通じて、外国語が上達するという点だと思っている。だからこそ、コミュニケーションが取れないような状況でのホームステイは、けっこう最悪だと私は思っているし、そんな状態なら一人暮らしで悠々自適に暮らしたい。

次の日の夜ご飯の時、ホストマザーから「水筒は見つかったの?」と聞かれた。そこで、最初に見た棚で見つかったという話をすると、彼女も不思議がっていた。そして「私たち家族は誰も取っていない」と言った。私も正直そんな話がしたい訳でもない。だからこそ「私も、この家族が水筒を取ったりするような人たちじゃないと思っている。だから、そんなこと考えたくない」と伝えた。どうやらホストマザーは昨日の夜、私がキッチンから食品を部屋に移動させたことが悲しかったらしい。しかし、こればっかりは私も譲れなかった。「もう誰が取ったとか、私も考えたくないから、全部部屋に置いて置くことにしたの」と言った。すると、ホストマザーは分かったと言いつつも「これからは一人でご飯を作って、1人で部屋で過ごしなさい」と私に言った。ああ、もうこれは終わりや。

とは言え、今まで良い関係性を保てるようにマメに連絡したり、自分の場所以外の所を掃除したり、洗い物をやったり、自分なりに色々頑張ったんだけどなぁ…
そうやって自分の部屋の中で今までのことを思い返していると、涙が込み上げてきた。些細なことだけども、今日の出来事だけでもスリランカが嫌いになってしまいそうだった。そして気付けばウォウォ言いながら泣いてた。

次の日も家庭内の空気の悪さは続いていた。しかし、これをずっと続けるわけにはいかない。そこで、ホストマザーに対して「私と喋ること嫌いになったの?」と聞いた。するとホストマザーは「なんで?そんなことないわよ」と言った。私はそれにちょっと安心したのか、涙が出てきてしまった。
結局、ホストマザーの言い分としては「私たちは食べ物や物を取ったりしない」「だから怒ったりせずに楽しく暮らしてほしい」という事だった。

正直、全部が綺麗に納得の行く形で終わった訳ではない。そもそもアルフォートが食べられてしまったことや紅茶が移動されてた過程があって、この話は始まっているのだから、私が悪いみたいな口調で言われるのはよく分からない。しかし、一度は見逃した過去の話を掘り返す気分にもならないし、大前提として私も楽しく暮らすことを望んでいるからこそ、この話は一旦これで終わりにしようと思った。

とは言え、この経験があったからこそ、どんな状況になったら家を変えるべきなのか、自分の中で考えを整理する事ができたのは良かった。



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