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投資で一番大切な20の教え ハワード・マークス 日本経済新聞出版社

 戦争プロパガンダに10の法則が有った様に、株式投資にも20の教えがあるという。著者のハワード・マークスは、世界最大級の投資運用会社オークツリー・キャピタル・マネジメントの共同創業者兼会長である。 同社は、「リーマン・ショックで最も稼いだ運用会社」として知られる「逆張りファンド」である。運用資産残高は、約1200億ドルに上り、ハイイールド債と不良債権への投資を得意とする運用会社である。
 著者の指摘する20の教えとは、
  1.二次的思考をめぐらす
  2.市場の効率性(とその限界)を理解する
  3.バリュー投資を行う
  4.価格と価値の関係性に目を向ける
  5.リスクを理解する
  6.リスクを認識する
  7.リスクをコントロールする
  8.サイクルに注意を向ける
  9.振子を認識する
  10. 心理的要因の悪影響をかわす
  11.逆張りをする
  12.掘り出し物を見つける
  13.我慢強くチャンスを待つ
  14.無知を知る
  15.今どこにいるのかを感じ取る
  16.運の影響力を認識する
  17.デフェンシブに投資する
  18.落とし穴を避ける
  19.付加価値を生み出す
  20.すべての極意をまとめて実践する
である。
それでは、早速、私の興味を引いたハワードの教えを学んでいきたい。

1.二次的思考をめぐらす
二次的思考とは、
 ■「これは良い企業だから株を買おう」というのが一次的思考。
  一方、
  「これは良い企業だ。ただ、周りは偉大な企業だと見ているが、実際は
   そうではない。この株は過大評価されていて割高だから売ろう」
というのが二次的思考である。
 ■「経済成長率は低下し、インフレ率は上昇する見通しだから、持ち株を
  売ろう」というのが一次的思考。
  一方、
  「景気見通しが悪いが、他の投資家は皆パニック売りをしている。
   今が買い時だ」
というのが二次的思考である。

 常に平均(パッシブ運用のインデックス・ファンド〔市場の指数を構成する銘柄すべてを、株式時価総額と同じ比率で保有するファンド〕)を上回る成果を上げるのに必要な優れた洞察力や直感、価値観、心理的感覚を
会得するには、二次的思考が欠かせない。

2.市場の効率性(とその限界)を理解する
 シカゴ学派の効率的市場仮設は以下の様に説く。

 ■市場には数多くの参加者がおり、参加者は関連するあらゆる情報を概ね
  同程度に入手する事が出来る。参加者は知的で客観的な目を持ち、
  意欲的で努力を惜しまない。そして広く知られ、普及している分析
  モデルを用いている。
 ■これらの市場参加者の力が結集する事で、情報は完全かつ即座に
  それぞれの資産の市場価格に反映される。そして、参加者が直ちに
  安すぎる資産を買い、高すぎる資産を売る事で、資産の価格は
  絶対的にも、他の資産との相対比較で見ても公正な水準になる。
 ■従って、市場価格は資産の本質的価値の正確な推計値なのであり、
  参加者が常に不公正な価値を認識したり、そこから利益を得たり
  する事はできない。
 ■この為資産は、他の資産との相対比較で「公正な」リスク調整後
  リターンが期待できる価格で売られる。リスクの高い資産は、買い手を
  惹きつける為に他の資産よりも高いリターンをを提供しなければ
  ならない。市場は妥当とみられる価格を形成するのであり、
  タダ飯を振舞う事はない。
  追加的なリスクと関係のない追加的なリターンは生じない。
 
 投資家は、どんな些細な新情報も手を抜かず吟味する為、資産の価格にはその情報の重要性に関するコンセンサスの見方が即座に反映される。この点については、異存はない。しかし、コンセンサスの見方が常に正しいとは限らない。
 効率的市場の価格が既にコンセンサスを織り込んでいるのだとすれば、
コンセンサスと同じ見方をする者は、平均的なリターンしか得られない公算が大きい。市場に勝つ、則ち、インデックス・ファンドより高いリターンを得るには、コンセンサスと異なる独自の見方をしなければならない。
 非効率的な市場は、以下の少なくとも一つ(そしておそらく結果として
全て)の特徴を持つものだと考える。

 ■市場価格が間違っている事が多い。情報、そしてそれを分析した
  結果へのアクセスに大きなバラツキが有る為市場価格がしばしば
  本質的価値を大幅に上回ったり、下回ったりする。
 ■あるアセットクラスのリターンが、他のアセットクラスの物と釣り
  合わない場合がある。しばしば、資産に公正ではない価格がつく為、
  あるアセットクラスのリスク調整後リターンが他のアセットクラスとの
  相対比較で著しく高くなったり著しく低くなったりする事態が起きる。
 ■一部の投資家が常に他の投資家をアウトパフォームしている。著しい
  評価の誤りや、参加者間のスキル、洞察力、情報アクセスの格差の為、
  評価の誤りが認識され、利益が生み出される状況が恒常的に生じうる。

 非効率的な市場は、必ずしも参加者に大きなリターンをもたらすわけではない。むしろ、非効率的な市場は、スキルの違いに応じて勝ち組と負け組を生み出しうる材料を提供する。

3.バリュー投資を行う
 投資の手法として二つのアプローチがある。
「バリュー投資」と「グロース投資」だ。
簡単に言えば、証券の現在の本質的価値を推計し、価格がこれを下回った時に買うのが、バリュー投資家で、将来、価値が急増する証券を見つけ出そうとするのがグロース投資家である。

8.サイクルに注意を向ける
 景気サイクルと市場サイクルは上下動を繰り返す。どちらの方向に向かって進んでいようとも、多くの人々は永遠にその方向に進み続けると思い込むようになる。こうした思い込みは、市場に蔓延し、バリュエーションを行き過ぎた水準まで動かし、殆んどの投資家にとって抗しがたいバブルや
パニックを引き起こす為、大きなリスク要因となる。

9.振子を認識する
 投資家の心理も、楽観主義と悲観主義、軽信と懐疑主義、機会逸失の恐れと損失の恐れ、買い意欲と売り意欲への切迫感の間を、振子の様に決まったパターンで揺れ動く。振り子の振動は、群衆を、高値で買い、安値で売る様に促す。つまり、群衆の輪に加わる事は、悲惨な結果をもたらす方程式で
ある。一方、極端な状況で逆張りすれば、損失を避け、最終的に投資を成功させる事も可能となる。

10.心理的要因の悪影響をかわす
 心理的要因の影響力を侮ってはいけない。強欲、恐怖、不信の一時停止、
同調、嫉妬、うぬぼれ、降伏は総て人間に生来備わっているものであり、
行動を強いる大きな圧力となる。こうした心理的要因は他の投資家にも
影響を及ぼすのであり、思慮深い投資家もその影響力を感じ取る。
影響を受けずに済む、無関心でいられる、などと考えてはならない。
そして、影響力を感じても屈伏してはいけない。それよりも、そうした
心理的要因がどの様なものなのかを認識し、立ち向かわなければならない。理性を以って感情に打ち勝つ必要がある。

11.逆張りをする
 強気であれ、弱気であれ、市場のトレンドは行き過ぎる傾向がある。早い段階でそれに気づいた者は得をするが、最後の最後で輪に加わった者は痛い目を見る。加熱した相場が下落に転じるタイミング、あるいは、下げ相場が底に達し、反騰し始めるタイミングを知る事は不可能だ。ただ、これから先、何処に向かっていくのかを知る事はできなくても、今どこにいるかなら分かるはずだ。周りの投資家の行動から、今現在、市場のサイクルの何処に位置しているのかを推察することは出来る。他の投資家が懸念知らずの時は慎重に振舞い、他の投資家がパニックに陥った時に積極果敢に行動すべきなのだ。

12.掘り出し物を見つける

 ■あまり知られておらず、十分に理解されていない
 ■一見してファンダメンタルズ面で疑問がある
 ■議論の的になっていたり、反規範的とみられていたり、恐れられて
  いたりする
 ■「真っ当な」ポートフォリオに組み入れるには不適切と見做されている
 ■正しく評価されていなかったり、人気が無かったり、蔑ろにされて
  いたりする
 ■リターンが低迷し続けている
 ■このところ、買い増しよりも削減の対象になっている

 これ等総てを一文でまとめるとこうなる。人々が実態よりも著しく悪い
印象を抱いている状況でなければ、掘り出し物は生じえない。
つまり、最良の機会は、たいてい周りのほとんどの人が気づいていない物の中から見つかる。結局のところ、誰もが良いと感じ、喜んで買おうとする
ものに、お買い得価格はつかないのだ。

13.我慢強くチャンスを待つ
 リスクは皆が競って同じように取ろうとしている時ではなく、周りが避けようとしている時に取るのが望ましい。

14.無知を知る
 より狭い範囲の事に特化するなら、知見を強みとして発揮できる可能性は高まる。熱心に研究し、スキルを駆使すれば、個別の企業や証券について、隣の人よりも常に多くを知ることは出来る。だが、市場や経済について
同じ様にできるかというと、その公算ははるかに小さい。だから私は、
「知りうる事を知る様心掛けなさい」と呼び掛けている。
 投資家は今現在、サイクルや振り子のどこの位置にいるのかを見出す
努力をすべきだ。そうすれば、将来の動きが、予測できるわけではないが、
起こりそうな自体に備える手助けになる。
 重大な問題は、確率と結果が別の物である(つまり予測には限界がある)事を投資家が失念している時に生じる傾向がある。例えば、以下のような場合だ。

 ■確率分布曲線の形状を確実に知り得る(そして実際に知っている)と
  信じている時
 ■もっとも確率の高い結果が実際にもたらされると仮定している時
 ■予想される結果と実際の結果が正確に一致すると仮定している時
 ■そしておそらく最も重要な場合として、起こりそうにもない結果が
  起きる確率を無視している時

15.今どこにいるのかを感じ取る
 以下の様な点を考えると、市場サイクルは投資家に厳しい試練を課して
いると言える。

 ■市場サイクルの上下動は避けられない
 ■市場サイクルは投資家のパフォーマンスを著しく左右する
 ■市場サイクルの期間、そしてとくにタイミングが予測不可能である

つまり、我々は、絶大な影響を及ぼすが、予め知る事は難しい力に対処しなければならない。
対応方法は、
 ①相場が振り子の軌道の一端に達する時に備えて警戒を怠らない
 ②変化に応じて自分の行動を調整する
 ③サイクルの頂点と谷底で多くの投資家を完全に間違った行動へと
  駆り立てる群衆の振舞に歩調を合わせない
だ。
 未来を知るのは困難だが、現状を理解する事はそれ程難しくはない。
必要なのは、「市場の温度を測る」事だ。状況に気を配り、洞察力を
働かせれば、周りがどの様に振舞っているのかを読み取り、それをもとに
自分はどうすべきか判断する。
 我々は周りで起きている事がどんな影響をもたらすのかを理解する為に、懸命に努力しなければならない。他の者が無謀なまでの自信から積極果敢に買っている時は、とても用心深くなるべきだ。そして、他の者が恐怖の
あまり身動きが取れなくなるか、パニック売りに走っている時には、積極
果敢になるべきだ。だから周りを見渡して、自問するが好い。

 ■投資家は楽観的か、悲観的か。
 ■メディアに登場するコメンテーターは、果敢的に攻めろと言って
  いるか、買うなと言っているか
 ■新手の投資商品はすんなり受け入れられたか、あっという間に見向きも
  されなくなったか
 ■新株発行やファンドの新設は、金もうけのチャンスと思われているか、
  それとも、落とし穴の恐れありと見られているか
 ■資金の調達は頗る容易か、あるいは、不可能に近いか
 ■PERは歴史的に見て高いか低いか
 ■イールドスプレッドは小幅か大幅か

 これ等総てが重要な疑問点であり、その答えはどれも未来を予測しなくても導き出せる。現状に目を凝らせば、卓越した投資判断を下すことも可能
なのだ。大事なのは、こうして現状に目を凝らし、そこから何をすべきか、
答えが浮き上がって来るのを待つ事だ。市場は、普段から次に執るべき行動を示してくれる訳ではないが、極端な状況に達すると、極めて重要な
メッセージを発するのである。

〔貧乏人の為の市場評価ガイド〕

 景気          堅調       低迷  
 見通し         積極的      消極的
 貸し手         積極的      消極的
 資本の需給       緩和       逼迫
 資本          潤沢       不足
 融資条件        緩やか      厳格
 金利          低い       高い
 イールド・スプレッド   タイト     ワイド
 投資家         楽観的     悲観的
             血気盛ん    意気消沈
            買いに意欲的  買いに無関心
 資産保有者      継続保有で満足 売りに殺到
 売り手        少ない     多い
 市場         活況       閑散
 ファンド       狭き門      誰にでも門戸を開放
            次々に誕生    最良のファンドのみ資金調達可能
            ジェナラルパートナー支配 リミテッドパートナーに交渉力
 最近のパフォーマンス 堅調       軟調
 資産価格       高い      低い
 期待リターン     高い      低い
 リスク        高い      低い
 投資のトレンド    積極果敢    慎重で規律的
               幅広く投資    選別的に投資

 それぞれの項目について現状に近いと思う方に印を付けてみよう。
印のほとんどが左側の選択肢についているならば、財布の紐は締めて
おいた方が良いだろう。

16.運の影響力を認識する
 投資収益に関して、ハワードが薦めている事

 ■知る事が難しいマクロ世界(経済、市場全体のパフォーマンス)に
  ついて、予測し、それに基づいて判断するよりも、知りうる事
 (業界、企業、個別銘柄)の中から割安な投資先を見つけようとするのに
  時間を使うべきである
 ■未来がどうなるのか正確に知ることが出来ない点を考慮すると、資産の
  本質的価値を拠り所にする必要がある。その為には、本質的価値に
  ついて分析に基づいた確固たる見解を持ち、本質的価値よりも安く
  買える機会が生じたら動く事だ
 ■起こりうる結果の多くは逆風となる公算が大きい為、デフェンシブな
  投資を実践する必要がある。好ましい結果が生じた時に最大限の
  リターンを確保する事よりも、悪い結果が生じた場合に確実に生き
  残れるようにすることが重要である
 ■成功する確率を上げるには、市場が極端な状況になった時、群衆とは
  逆の方向に動く事、つまり、相場の低迷時には積極果敢に、高騰時には
  慎重になる事が必要である。
 ■結果がどの様な要因に拠って生じたのかは極めて不明瞭である為、
  検証を重ねて解明される迄、戦略とその結果を(良かった場合も
  悪かった場合も)懐疑的な目で見なければならない

17.デフェンシブに投資する
 デフェンシブな投資をすれば、盛り上がっている、或いはこれから盛り上がるであろう分野でのチャンスを見逃す可能性が有る。投資家は、バッターボックスでバットを担いだまま、ずっと球を見送り続ける事になりかねない。他の投資家に比べてホームランの数は少ないかも知れない。一方で、
三振や併殺に拠る攻撃終了を記録する回数も少なくて済むだろう。
デフェンシブな投資というと高尚な響きがするが、要は「恐怖心を以って
投資せよ」という事だ。損失の可能性を知らない事を、質の高い決断を
下しても不運や予期せぬ事態で台無しになる可能性を恐れるのだ。
そうすれば、思い上がりを防ぎ、慎重さを保ち心のアドレナリンを分泌させ続けることが出来る。また適切な「誤りの許容範囲」に拘って、状況が悪化した場合にもポートフォリオがその影響を受けずに済む確率を高めることが出来る。もちろん、状況が悪化せずに済めば、儲かる資産が自ずと全体の
パフォーマンスを引揚げる。

18.落とし穴を避ける
 我々危機から学んだ点

 ■資金調達が容易過ぎるとカネは間違った所へと流入する
  ⇒資金の需給が逼迫している時、投資家は何処にカネを投じるのが
   最良かという配分の選択を迫られ、忍耐と規律を以って決断を下す
   様になる。だが、資金が有り余っているのに投資先が少な過ぎる
   状況では、する価値の無い投資が行われる。
 ■相応しくない所に資金が投じられると、悪い事が起きる
  ⇒資金の需給が逼迫している時には、しかるべき借り手でも門前払い
   される。だが、資金がだぶついていると、信用力の低い借り手でも
   容易に借りられる。その結果、返済の遅延や倒産、損失などが
   発生するのは必至である。
 ■資金が過剰に供給されると、投資家は低いリターンと狭い「誤りの許容
  範囲」を受け入れて、投資先を奪い合う
  ⇒人々が何かを買おうと競い合うと、価格はオークションの様に
   どんどんつり上がっていく。よく考えれば、買値を吊り上げる事は、
   同じカネで買えるものが減るのと同じ事。従って、投資で競り合う
   事は、投資家が如何に低いリターンを要求し、如何に大きなリスクを
   進んで受け入れるかを示していると言える。
 ■リスク軽視の傾向が広がると、より大きなリスクが生じる
  ⇒「何も悪い事は起きない」、「高すぎる価値はない」、「誰かが必ず
   もっと高い価格で買ってくれる」、「早くしないと他の人に買われて
   しまう」といった考えは、人々がリスクを軽視している事を表す。
   2007年サブプライム問題に至るサイクルでは、「買収対象企業の質が
   向上しているから、あるいは、好条件で資金が調達できるから、より
   高いレバレッジを利かせた企業買収も可能」という考えが広がった。
   その結果、好ましくない事態が生じた場合のリスクと、レバレッジに
   大きく依存することの危機性が蔑ろにされた。
 ■不十分な精査(デューデリジェンス)が投資損失をもたらす
  ⇒損失を避ける最良の防御策は、洞察力を働かせて調査を行い、
   ウォーレン・バフェットが言う処の「誤りの許容範囲」にこだわる事
   である。だが加熱した市場では、人々は損失を出す事ではなく、
   機会を逸失する事を懸念し、懐疑的な姿勢で時間をかけて行う分析は
   時代遅れとされてしまう。
 ■市場が熱狂に包まれると資金は革新的な投資商品へと集中するが、
  その多くは時の試練に耐えることが出来ない
  ⇒強気の投資家は何が上手く行くかばかり考え、上手く行かないかも
   知れない事は考えない。熱狂が慎重さにとって代わり、人々は理解
   できていない目新しい投資商品に飛びつく。そして、後になって、
   何故そのような事を考えたのかと疑問に思うのだ。
 ■ポートフォリオの中にある見えない断層線によって、無関係に見える
  資産の価格が連動する可能性が有る
  ⇒ある資産についてリターンとリスクを評価する事は、その価格が他の
   資産との相対比較でどう動くか理解する事よりも簡単だ。資産間の
   相対性は、特に危機時は、その度合いが高まる事もあって過小評価
   されがちである。アセットクラス、業界、地理的分布といった面で、
   分散化されているように見えるポートフォリオでも、厳しい時期には
   マージンコール、売買が成立しない市場、全般的なリスク回避志向の
   高まりといった非ファンダメンタルズ要因が支配的になる事で、
   総ての構成資産が似た様な影響を受ける。
 ■心理的な要因やテクニカル要因がファンダメンタルズよりも強い
  影響力を発揮する事がある
  ⇒長期的にみると、価値の創造と破壊は景気動向、企業業績、製品に
   対する需要、経営陣の能力などのファンダメンタルズに拠って
   起きる。だが短期的には、市場は資産の需給に影響を及ぼす投資家
   心理やテクニカル要因に極めて左右されやすい。
   何よりも短期的な影響力が強いのは、投資家の信頼感だろう。
   従って、どんな事が起きても不思議ではなく、予期せぬ理不尽な
   結果がもたらされる可能性も有る。
 ■市場が変化し、従来のモデルが適用しなくなる
  ⇒「クオンツ」ファンドが上手く行かないのは、主として
   コンピュータ・モデルとその根底にある前提に不備があるからだ。
   コンピュータは、主に過去の市場で見られたパターンに基づいた
   ポートフォリオ運用で利益を上げようと試みる。そうしたパターンに
   変化が起きる事、つまり、パターンから外れた状況が生じる事は予測
   できず、概して過去の規範の信頼性を過大評価してしてしまうので
   ある。
 ■レバレッジは結果の度合いを増幅させるが、価値の増大にはつながら
  ない
  ⇒高いリターンが見込まれる(十分なリスク・プレミアムがついた)
   お買い得価格の資産への投資を拡大する為、レバレッジを利かせる
   事には大きな意味がある。しかし、低いリターンしか見込めない
  (リスク・プレミアムが小さい)資産、別の言い方をすれば、適正
   あるいは割高な価格の資産への投資を増やす為にレバレッジを
   利かせる事は危険といえる。不適切なリターンを適切なリターンに
   変えようとする為にレバレッジを用いる事は、殆んど無意味である。
 ■行き過ぎた状態は修正される
  ⇒投資家心理が過度に楽観的で、物事は良い方向にしか行かないという
   前提を完全に織り込んだ価格が形成されている市場では、資本破壊が
   起きかねない。それは、投資家の前提が楽観的過ぎる事が判明した
   時、悪い出来事が生じた時、あるいは、ただ単に、高すぎる価格が
   自らの重みに耐えられなくなった時に起こる可能性が有る。

19.付加価値を生み出す
 「付加価値を生む」とは、市場と同等のパフォーマンスをアウト
パフォームする事を指す。
 市場と同等のパフォーマンスを出すという事は、則ち、パッシブ運用の
インデックス・ファンド(市場の指数を構成する銘柄すべてを、株式時価
総額と同じ比率で保有するファンド)に投資すれば市場と同じ
パフォーマンスがもたらされる。これは、付加価値の無い投資の典型例だ。

〔投資理論で使われる二つの用語〕
  「ベータ」:市場動向に対するポートフォリオの相対的な感応度 
     ⇒相対的なボラティリティ、あるいは、市場リターンに対する
      ポートフォリオの リターンの相対的な感応度を意味する。
      ベータが1を上回るポートフォリオは比較する市場よりも
      ボラティリティが高く、1を下回るポートフォリオは市場
      よりもボラティリティが低いと見做される。
  「アルファ」:市場動向とは無関係にリターンを挙げる能力
     ⇒市場リターンにベータを乗じて出てくる数字が、そのポート
      フォリオが達成する見込みのリターン(非システマティックな
      リスクとリターンを考慮しない場合の)である。市場
      リターンが15%だとすると、ベータが1.2のポートフォリオは
      18%のリターンを達成する事になる。これに個人スキルに
      関連するリターンであるアルファを加減したものが
      トータル・リターンとなる。

 上げ相場の時に市場に後れを取らずについていくには、ベータの値が
高く、市場との相関性が有るポートフォリオを組まなければならない。
だが、上げ相場でベータとの相関性の助けを借りるという事は、下げ相場に
変わった時に打撃を受ける事を意味する。下げ相場で市場よりも小さい幅を
維持できるようにし、上げ相場で市場と同等のリターンを上げるには、
アルファ、別の言葉で言うとスキルに頼るしかない。

20.すべての極意をまとめて実践する
 優れた投資家は、優良な資産でなく、お買い得品を見つける事が投資の
目標であることを決して忘れない。本質的価格を下回る価格で買う事は、
収益性を高めるだけでなく、リスクを限定する上でも重要だ。高成長が
見込まれる企業の株を高い価格で買ったり、加熱した市場に参加したり
すれば、リスクは限定できない。
 価格と本質的価値の関係は心理的要因とテクニカル要因にも左右される。短期的には、これ等の要因がファンダメンタルズより強い影響力を及ぼす
場合もある。その影響による価格の急激な振れは、大きな利益、あるいは、
大きな過ちを生み出す機会をもたらす。過ちではなく、利益を実現させる
には、本質的価値の概念をしっかり掴み、心理的要因とテクニカル要因に
対処しなければならない。

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 ジョン・ケネス・ガルブレイスが「バブルの物語」で語った様に、金融に関する記憶が持続する時間は極端に短い。
ガルブレイスは次の様に述べている。

「熱病を発生させ、それを支える第一の要因は、金融に関する記憶は極度に短いという事である。その結果、金融上の大失態があっても、それは素早く忘れられてしまう。さらにその結果として、同一またはほとんど同様の状況が再現すると──それはほんの数年のうちに来ることもあるのだが──、それは、新しい世代の人からは、金融および経済界における輝かしい革新的な発見であるとして大喝采を受ける。」

また、

「人間の仕事の諸分野のうちでも金融の世界くらい、歴史というものがひどく無視されるものはほとんどない。過去の経験は、それが記憶に残っているとしても、現在のすばらしい驚異を正しく評価するだけの洞察力に欠けた人の無知な逃げ口上にすぎないとして斥けられてしまう。」

とも述べている。最近では、2008年に我々は「リーマン・ショック」を
経験しているが、この時からまだ13年しか経っていない。
 昨今、日米欧の中央銀行がイールドカーブコントロールとやらで、市場
金利を低く抑え、債権を買い、世界中にお金をばらまいている。その結果、COVID19の流行にも関わらず世界経済の落ち込みは抑制され、株式市場の
落ち込みも酷くはない。ただ、市場の過剰流動性の為か、販売台数が
約50万台のテスラの時価総額が1兆1400億ドルを超え、時価総額で堂々世界
7位(2021年2月現在)に入っている。又、昨今、仮想通貨の値上がりが激しく、ビットコインに至っては600万円(2021年2月現在)を付けるに至った。  
 ハワードが18番目に挙げた、『資金調達が容易過ぎるとカネは間違った
所へと流入する』に該当するように思えてならない。ハワードは、『リスク軽視の傾向が広がると、より大きなリスクが生じる』とも『市場が熱狂に包まれると資金は革新的な投資商品へと集中するが、その多くは時の試練に耐えることが出来ない』とも述べている。
 15番目に述べた、貧乏人の為の市場評価ガイドに従い、各項目を私なりに
チェックしてみたが、堅調側に〇の付く項目が多いと思う。株式投資に疎い私にも、今は、バブルが再来中の様に思える。デフェンシブであれというのであれば、今は素人は財布の紐は締めておいた方が良いのではないか。
靴磨きの私が待ちきれずに株式を買おうと思った時が、バブルの頂点の様なのであろう。

 あのバフェットも言っている。
 『他の人があまり慎重でない時ほど、慎重になるべきだ』

最期に、これは、私の個人的感想であり、景況判断はご自分の責任でお願いします!

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