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従業員が会社を継いでどうだったかという話

私は4年前にいま代表をしている会社を継いでいる。これについてお話しする機会をいただいたので、振り返ってまとめてみた。

だいたい、社長をしていると=創業者という前提で話が進むことが多い。けれど、結構多くは2代目とか3代目とか、事業を承継した人がいる。なんでいつも、創業者であることが前提で話しかけられるのかわからない。起業ブームみたいな感じだからだろうか。ちょっとだけ社長というには若く見えるからだろうか。

いつも説明するのに時間がかかる。ついでに、富山県出身と思われているし、うちの仕事は分かりにくいし。色々説明していると、それだけで数十分はかかるのがちょっと厄介である。

事業承継については、なかなか面白いケースだと思うのだけど、今まであまりお話しすることがなかった。特に株式をどうしたかということは関心事で、株式をどう承継したかがメインテーマになる。

私は2001年に娘を産んで、パートナーの出身地である富山に移住している。専業主婦をしようと思ってやってきたけど、だーれも知らないこの場所はにっくき場所になりつつあった。そんな時、夫は好きに働いたらいいと言った。だから求人もしていない今の会社に電話して面接してもらった。

子育てしているのね。じゃあ採用。

一語一句このままってわけじゃないけど、でもこんなようなことを言われたと記憶している。今の時代でも衝撃的な発言だろう。だってここを受ける前にいくつかの会社では、「子供が小さい人は採用できない」とはっきり言われていたから。あー、これかー。って、就活をしたことがない私はそれまでだいたい紹介で職場を見つけてきたものだから、世の中で言われている普通のこの現象を体感して、やっぱりモヤモヤしていた。

そんな世間とは真反対の言葉。何事かと思ったよね。でも、経営者になったいまはその言葉の意味や効果もよくわかるなーって思う。そしてまさに自分がこの組織にここまでコミットして勤めてきたのが、何よりの証拠だ。

好き勝手やらせてもらってきた道。

私は世間的には優秀じゃない。学歴もなければ、大した業績もない。どちらかといえば、東京時代はサボリーマンで、夜中に遊んで朝に帰って会社でぼーっとしているヤツ。だからこんなに真面目に働くとは自分でも驚くほどだ。

結局、好きになったものに夢中になるというだけであって、面白いものさえあればのめり込んでちゃんと成果を上げられるということだった。きっと人は誰でもそうだ。

好きなことと言われてもこれってものはない。いつも出会って取り組んでみたら面白くてハマる。だから会社の経営もはまった。経営というか組織をつくるということに強い興味がある。それは会社であったりコミュニティであったりする。

従業員承継の課題と言われるところ

だいたいこんなことが課題として言われている。でも、べつに従業員承継だけの話ではない。既存社員の理解なんて、親族承継の方が難しいんじゃないかって思う。ぼんくら息子が2代目社長になるみたいなバイヤスがかかったドラマのせいだ。私の周りにいる皆さんを拝見する限り、そんな方はいないと断言する。

当たり前のようにあるものって、周りの理解を得るための努力は少なくて済むように見える。なんとなく、みんなの合意があるような気分になる。でも、そうじゃなくて、どんな場合でもみんなの合意を取り付けておくことは大事だと思う。たとえ親子だとしても、人はひとりひとり違う人格を持ち、違う個体だから。

この人に、ついていこうと思うかどうか、そこに血縁は関係ない。あなたがどういう人かってことだけだと思う。だから実のところあんまり違わないんじゃないかって思った。

カルチャーの承継

まさに、私たちの場合はこれだ。そうじゃなければ、たぶん他の人の方がうまく言ったと思う。例えば、利益を多くしようとすれば、私よりももっと適した人がいると思う、世の中に。けれど私たちはこの選択をした。

従業員としてここで体験してきたことをそのままに、もしくはバージョンアップしながらつづけられるのは、たぶん働いてきた人だと思う。

逆に大きくカルチャーを変えたいのならば、全く別のところから、その筋の優秀と言われる人を連れてくる方法のほうがいい。

振り返ってみると、働く中で、経営者となった今につながる体験をしている。

例えば、産休育休を取った時には、私がいなくても全く問題なくて、それは別にいなくていい存在ということではない。いなくてもみんながきちんとフォローしてくれている。

組織は構造がきちんとしていれば、誰かが欠けてもうまくいく。誰かに依存しすぎることのない組織。そういう構造を作っておくことが大事だし、組織だからできることだということを知る良い機会だったと思う。

組織の空気を打破する会議

先代は創業者らしい方で、まさにタレント性が強く、個が立っている人だ。私には到底真似できる人物ではない。だから従業員はものを申すなんてできなかったわけだ。

私が30代に入った頃、同年代の転職組が増えた時期だった。その時から始まったのがボトムアップミーティング。大企業から、東京から、フリーランスから、様々やバックグラウンドをもつ人材が混じり合ったことによって、様々な提案がなされていった。

だいたい、働くことの当たり前は初めて勤めた会社のカルチャーがその人の当たり前となる。だからこの時は、「普通はさー」っていう言葉がたくさん使われていた。私はこの言葉が嫌いだ。普通って何?っていつも思う。普通って言葉じゃなくて、マジョリティって言葉ならしっくりくる。

それぞれの当たり前は、きちんと口にして交換しないと全く伝わらないし、間違いを犯す元になる。だからとにかく口に出して話をすること。

物が言えない空気を変えたボトムアップミーティングは、この会社に取って大きな変化だった。だんだんと会社の空気も変わっていった。

ちゃんと伝えれば、自分の意見が通ること。そして組織を変えることができること。何を言っても変わらないと思えば、そんなところにいるより自分がフィットするカルチャーの場所に移動すればいいだけだ。

けれど、カルチャーを更新できる場所ならば、その場所は自分がいるに適した場所に変えることもできる。おかしいと思った習慣でも、なぜそれがあるのかを理解すれば、なるほどなって思うこともたくさんある。そういうすり合わせができるこの時間は組織を良い方向に持っていくいい機会だったと思う。

そして役員になる。

2014年から私はこの会社の役員になった。この時すでに代表になることを思い描きながら取締役になるように言われたと記憶している。この段階でそれにYESと答えるには、まったく覚悟というものができていなかったわけだが、好奇心が優っていて、即答でYESと答えた気がする。

ここからは、ひとえに先代の懐の深さというヤツだ。あらゆることにおいて、私の判断を尊重してもらっていた。人が育つために必要なのは、上に立つ人の受容と許容だと、つくづく思う。

従業員には、社歴も年齢も上の数人がいた。その人たちとは特に、しっかりと一年かけて話をした。わたしも、先代も。

私はこれからどう経営していくのか、何を未来に思い描いているのかを丁寧に伝えて、一緒の船に乗り続けるか降りるかの判断を委ねた。

先代も、舵取りが私に変わること、託すことを丁寧に話してくれたのだとも思う。結局は代表の交代に反対して離脱する人は現れなかった。そして晴れて代表に就任した。

ちなみに、事例発表を終えた後、経営者の大先輩からこんなことを言われた。「大企業も中小企業も経営者が悩むことは変わりない。従業員の声を聞くこと。腹が立つことはもちろんある。それをグッと堪えるのは大変だが、そうやって耳を傾けることが大事だ」なんだかこのお話を聞いて、ほっとした。

「組織が大きくなったら、そうはいかないよ。」って言われることがよくある。けどそれって本当なのだろうか?といつも思う。1人が認知できる人数といわれるダンパー数の話や、30人の壁とか。

研究者が言っているのだから、ある観点では間違っていないのだろう。けど、その調査の前提条件が変われば、そうはならない可能性も否定できない。

代表になるまでの数年間で多大に尊重してもらい、経営のトレーニングを積せてもらえた。それで晴れて代表に就任した直後にパンデミック。

本当にお先が真っ暗になった。一瞬だけ。

転んでもただでは起きない。それがたぶん、株式会社PCO。このままじゃいけない。そう考えて、長年モヤモヤしていたことに挑戦することにした。私たちの仕事は事務作業が膨大で、それは私たちが、ミッションに取り組むうえでは解決すべき課題だった。そして新規事業として、学会事務局のオンラインプラットフォームの開発に着手。2021年12月にローンチしたSMART Conferenceも1年を過ぎ、様々な改良を重ね、全国のお客様からご相談を受けるようになってきた。


結局何でうまくいったのか?

たぶん、それぞれのお金のことを終始しなくなっていたから。率直に言えばそう。もちろんお金の話は大事だ。けれどそれよりも優先したい物があった。そしてそれが一致した。それだけのことだ。

働いていて心地よい場所。そういう場所でありたいと思う。もちろん株式会社だ。利益の追求は命題で、それはきっちりみんなでやり遂げる。

けど、もう一歩踏み込んで、ここに集った人それぞれの生活が少しだけ染み込んでいるような場。そういう職場があってもいいと思う。それはとても心地の良い場所になると思う。だって私がそう感じてきたのだから。

頼れる人がいるこの場所。互いに関係しあって生きているわけで、会社に私情を少しだけ持ち込むみ曝け出す。そしたらきっと楽になる。生きる上でたくさんの時間を過ごす場所だから。そうあった方がいいように思う。

お金も大事だけど、その前にもっと大事だと思える物を探してみるのはどうだろうか。プライスレスというクレジットカード会社のCMが流行ってからはや何年だろう。みんなわかっているんじゃないだろうか。

結局は人で、頼れるかどうかだ。

いま、会社の経営は先代のバックアップのもと、3人でやっている。私に取ってこのチームは最高のチームだと思う。きっと、事業を承継した時に大事にしたいと思ったことを同じように大事に思っている2人。私とは全く違う性格と得意技を持っていて、役割分担ができている。

この人たちがいるから、やっていられる。3人で話すことはだいたい中のこと。働くみんながどんな状態でどうあるといいのか。誰がどんな強みを持っていて、どんな組み合わせでやっていくのがいいのか。うまい具合に誰かが気づいてくれる。

そして何よりパワーがある。自分ができないことは誰ができる。それを交換しながらやっている。その絶妙なバランスがいまこの会社の地盤を作っている。

そして次の継承者が現れることを待ち望んでいる。こうやって、私たちの組織の実験は続いていくのだ。


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