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会社で一番エロい女だと言われて 【後編】

【前編】はこちら


 特にいいセックスをした週末明けの月曜日は、少なくともわたしにとっては、何もなかった週末明けよりはずっと気分がいい。

 あのセックスの後、わたしのことをまだ『三輪くん』呼ばわりをする隆のことをさんざん蹴ってやったが、隆はヘラヘラ笑っていた。
 まあ、わたし自身も本気で怒っているわけではなかったけど。

 そして、じゃれあっている間に、二回戦に突入してしまった……。
 
 そのとき、隆が求めた筋書きは、『安井係長の欲望に飲み込まれたわたしが、自ら求め、係長を誘惑する』というものだった。

 ……くわしくは書かないけれども……わたしはそのプレイに、けっこうノリノリで張り切ってしまった。

 わたしは給湯室でそのときのことを思い出し、少しニヤニヤしながら、得意先の気のいい部長さんがお土産に持ってきてくれたロールケーキを切っていた。

 『みんなで食べてね』とその部長さんは言ったので、とりあえず課内の女の子の数に併せて均等に切っていた。
 暗黙の了解でみんながおやつを食べる時間だったので、3時少し前だったことは確かだ。


 と、給湯室の入口に、誰かが立ちふさがった。

 立ちふさがった、という表現はどうかと思うけど、給湯室には入口がひとつしかなく、あとは奥に小さな小窓があるだけなので、入口のところに立たれると、まさに「立ちふさがる」という感じになる。

 立っていたのは……安井係長だった。
「あっ……」意味なく、声を出してしまう。

 何故かって? 
 ……そりゃ、週末に散々、彼のことを出しにセックスを楽しんだんだから、気まずい思いをしたことくらいはご想像いただけると思う。

「見えないと、イヤだよねえ……」

「えっ?」

「……だから、相手が見えないと、イヤだよねえ……」

 なに? この人。なに言ってんの?
 わたしの全身に戦慄が駆け巡る。

 わたしが、週末……隆の前で口にした言葉だ。

 目を、Tシャツで覆われて……両手首を、頭の上に重ねられたとき……あのとき、隆に向かって……かなり興奮しながら、鼻にかかった声で、発した言葉だ。

「……えっと……」わたしは唾を飲み込んで、一歩後ずさった。「……何ですか?」

「見えないと、イヤじゃないかい? ……三輪くん」

「ひっ」

 安井係長が一歩前に踏み出したので、わたしはさらに一歩後退した。
 どん、と背中に壁があたる。
 思ったより大股で後退していたようだ。

 手には、ロールケーキの配分に使っていた、セラミックの包丁が握られている。

「……相手のことが見えないと…………なんかヘンな感じじゃないか……」

「だ、だからっ……」声が震えていた。「だから……なんの話ですか?」

 給湯室の明かりをつけていなかったので、安井係長の顔は逆光になっていてよく見えない。
 丸い頭の影法師が、沈黙している。

「……メールだよ……さっき得意先の担当者から、メールで見積もりに関してひどいダメ出しがあってね……それが、手厳しい言葉で、かなりお怒りの様子だったんだよ……少なくとも、字面ではそんなふうに読めたんで……慌てて電話したんだよ」

「……は、はあ……」

 とにかく、わたしは前方につきだしている包丁の先を、足元に下げた。
 話題のポイントは、『メールの文面』のことらしい。

 で、でも……ポイントが後回し過ぎない?

 たしかに安井係長は……時折、内を指示しているのか何をしてほしいのか、わかりにくい喋り方をすることがある。

「………で、電話したら、そのメールを送ってきた担当者の人が出たんだけど……それが、すごく愛想のいい人でねえ……こちらが恐縮しちゃうほど、丁寧でフランクな人だったんだよ……とっても明るくて、感じがよくて……」

「は、はあ……」 “それで?”と言いたくなる気持ちを、必死でこらえる。それくらい、安井係長の話はゆっくりしていた。「……そ、そういうことって、ありますよね……わたしもこの前……」

「でもね、三輪くん……」言葉を遮られた。「……電話の向こうで、その人はどんな顔をしていたんだろうねえ……たしかにしゃべりは丁寧で、声は明るかったけれども……実際には、どんな顔をして僕を喋っていたんだろう? ……ほんとうは、電話の向こうでは、鬼の形相をしていたんじゃないだろうか……そんなふうに思えて、仕方ないんだよなあ……メールでは相手の気持ちが伝わりにくい、って言うけど……結局は電話だってそうじゃないか……ねえ、三輪くん。相手の顔が見えたほうが、ずっとやりやすいよねえ……?」

「…………」

 話の概要は掴めた。
 しかしわたしは、『直接相手の顔が見えたほうが、ずっとやりやすい』という係長の言葉に、磔になってしまった。

 いまだに、背骨に冷たいものが走り、危険信号がチカチカしている。
 手に持っている包丁も、また角度を上げていた。

「……ロールケーキかい?」

 影法師の安井係長が言う。

「……は、はい……あの、これあの……」どうしても言葉がキョドってしまう。

「と、得意先の……あの……」

ぶっといロールケーキだね……」

 係長が呟く。

「はい?」

 そして、シルエットに表情を隠したまま、係長は言った。

「そんなの、お口に入りきらないだろ?」

 その日は隆をわざわざ部屋に呼んでしまった。
 そして、もちろん……安井係長の話をした。

 スーツのジャケットをハンガーに掛けていた隆が、振り向く。

「マジか?」ものすごい食いつきっぷりだ。「マジかよ?……そのおっさん……」

「いや、たしかに……前も言ったけど、その安井係長だけど……そんなふうに、突然、妙なこと言い出すようになっちゃったから……得意先周りもできないように、会社のほうも配慮してんだけどね……それにしても……」

 わたしはその時、狭いワンルームのキッチンでビールのおつまみの、ボローニャソーセージを輪切りにしていた。

 なんでキッチンでそんなことを喋ってしまったんだろう……?

 予想通り、それまで部屋の床に座っていた隆が、キッチンと部屋の間に立ちふさがる。
 わたしの部屋のキッチンと、会社の給湯室は……ちょうど同じくらいの広さだ。

 ただ違うのは、隆が立ちふさがっても、わたしの背後には玄関があり、逃げ道があるということと……それに、わたしが隆から逃れるために外に飛び出す必要は、まったくない、ということだった。

 リビングの明かりがついていたので、隆の姿も逆光で影になっている。
 まだ部屋着にも着替えていない……ワイシャツにスラックス、緩めたネクタイ……しかし、表情は伺えない。

 たぶん、いやらしく、ニヤニヤ笑っているのだろう。

「……ぶっといソーセージだよなあ……」

「えっ……」

 わたしの背後に、ぴったりと隆がくっつく。

「……ほら」

「やっ……ちょっと……」

 スウェットのお尻に、隆のズボン前が押し当てられた。

「そんなソーセージ……とてもお口に入りきらないだろ?……三輪くん」

 隆がわたしの肩に顎を載せ、耳元で囁く。
 びくんっ、と身体が震えた。

「い、いま、包丁持ってんだからね……危ないんだからね……だ、だから、後で……」

「……三輪くんのお口だったら、どれくらいの太さがぴったりなのかなあ……?」

「やだっ……」脇の下から前に滑り込んだ隆の手が、シャツの上からわたしの胸を包み込む。「こ、こら、危ないつってるだろ!」

「……そんなブッソウなものは、置きたまえ……三輪くん」

 わたしは隆に言われるより前に、流しの上に包丁をそっと置いていた。
 その間も、じわじわと隆がわたしのおっぱいを揉み込み、スウェットのお尻の上から、固くなったアレをぐいぐいと押し付けてくる。

「…………や、やめてったら……こんなとこじゃ……ね、後で……あとで……」

「…………ここだからコーフンするんじゃないか……三輪くんだってそうだろ?……実はもう、僕が何を考えているか、わかっているんだろう……?」

「や、やめ………あんっ……」

 Tシャツの裾から、手が忍び込んでくる。
 ためらいもなくその手は、すでに固くなっていたわたしの乳首を人差し指と中指の間に挟み、ゆっくりと全体をもみあげ始めた。

「……や、や、やだっ……こんなとこじゃ……だめだってば……」

「そうだよ、三輪くん……あんまり騒ぐと、すぐ玄関だからねえ……廊下を歩いている人に、聞かれちゃうと恥ずかしい思いをするのは君だよ……?」

「……だ、だから、ヤメロっての……その“三輪くん”っての……ひっ」

 ちょうどタイミングよく、隣りの部屋の住人が帰ってきたのか……ドアの向こうからコンビニ袋がカサカサ言う音と、キーホルダーがちゃりちゃり言う音が聞こえてきた。

 確か、隣りは学生風の若い男だったと思うけど……。
 
 誰であろうと、そんなことは今、重要ではない。
 向こうの音がこんなにはっきりここまで聞こえてくる、ということは、こっちの音も向こうまで届いてしまう、ということだ。

「……ほら、三輪くん……こっちのほうは、どんな感じかなあ……?」

「ばっ……バカっ……ちょ、ちょっと……んんっ!」

 隣の住人が鍵を開ける音をバックに、隆がわたしのスウェットパンツに前から手を忍び込ませてくる。わたしが大騒ぎできないのをいいことに、隆の手はショーツの中にあっさりと滑り込んだ。

「……おやあ? ……なんだかもうすっかり、こっちのほうは準備万端じゃないか三輪くん………やっぱり君は、エッチだったんだねえ……今日の給湯室でも、こうやって濡らしてたんじゃないのかい……?」

「……ボケっ! ……」わたしは必死で隆の手を封じようとした。バタン、と隣りの部屋のドアが締まる音がする。「……やめっ……てってば……ま、ま、マジ聞こえる……」

「だったら三輪くんが大人しくしていればいいだけの話だよ……でもこうすると……」

「あうんっ!」

 やっばっ!……すっげーでっかい声、出しちゃった!

 隣りの住人が、玄関のたたきで、一瞬動きを止めたような気がした。
 いや、“気がする”だけだ……ただ、“気がする”だけ……わたしはそう思い込もうとした。

 わたしはたぶん、“思い込み”がはげしい。
 人よりちょっと、いろんなことに敏感だ。

 会社ではエロそうだとか、そそるタイプだとか、エロ代表だとかなんとかかんとか好きなことを言われている。

 ちょっとキツめで、警戒心が強いと思われている。

 実際、警戒心は強いけれども、それはわたしがいろんなことに繊細に反応するタイプだからだ、と思う。

 だいたい……今回の安井部長に関する件だってそうだ。

 「君を犯したい」とか「見えないとイヤだよね」とか……「ぶっといロールケーキだね」とか……そんなことを安井係長がわたしに対して口にしたところで、なんでそんなに気になるのだろう?

 まあ、「犯したい」は完全アウト、って感じだけども…………

 そのほかの発言は、別に性的な意味合いはまったくないかも知れない。
 わたしが過剰にそれに対して反応しているだけで………本人には、そんな意図はまったくないのかも知れない。

 だいたい、最初に言われた「君を犯したい」だって……それがすべての始まりだとはいえ……本当に安井係長はそんなことを言ったのだろうか? という思いもある。

 ときおり安井係長は、職場でも自分のデスクでひとり、意味のわからないことをつぶやいていることがある。

『谷町には猫が何匹いるのかなあ』とか、
『この暑さだったらオセロを三回しなきゃ』とか、
『そうそう、ピラミッドとキャッチャーミット』とか、

 わたし自身が直接耳にしたわけではなく、課内の女の子たちの噂で聞いただけだが……そういう類のわけのわからないことをひとりでつぶやいては、自分でウンウンと頷いていることがよくあるらしい。

 彼の精神状態が、ふつうではないことは明らからだった。

 だから、もし彼が実際にわたしに「君を犯したい」と言ったとしても……谷町に何匹猫がいるのか、オセロを何回するのか、ピラミッドがどうとかと同じく、まったく意味のないことなのかも知れない。

 いや、安井係長がいつものように、まったく意味をなさない独り言を言ったのを、わたしがそう聞き違えたのかも知れない……。
 
 と、わたしが逡巡している間に、隆はますますリョージョクの手を勧めていた。

「い、いやあっ……」

「しっ……三輪くん……騒いだら、会社のみんなに気づかれちゃうよ……こんなに恥ずかしい格好にされているところ、みんなに見られちゃうよ……」

 確かに恥ずかしい格好だった。
 スウェットパンツもショーツも、太ももの途中まで下ろされている。

 上はTシャツを着たまま……隆がずっと耳元で囁き続けている。

 隣からは……やはり物音がしない。
 ふつうだったら、流しの水が流れる音やトイレのドアを開ける音、もしくはテレビの音なんかが聞こえてきてもいいはずだ。

 でも、隣からは何の音も聞こえてこない。

「ふふふ……恥ずかしいかい?三輪くん」

「もう、“三輪くん“ヤメロっての……ほんと……マジ怒るよ……あっ!やだっ!」

 しゅるり、と布がわたしの視界を覆った。
 たぶん、ネクタイだ。

 隆がいつの間にかネクタイを外し、わたしの頭のてっぺんをくぐらせて、目の上に被せた。

「ほら、ほら、大人しくしなさい……三輪くん。こうすると、もっと興奮するんだろう?……前に君を犯したときだって、そうだったじゃないか……」

 こいつ、どんだけ安井課長のファンなんだ? 会ったこともないくせに。

「……もっと気分を出してあげよう……ほらっ」

「やっ……やめ……てっ、てばっ……」頭の後ろで、ネクタイが結ばれる。「ほんと、今日は……マジ、ダメだって……こんなの……ってか、こんなとこでっ……隆?……ターカーシー?」

「タカシじゃない、わたしは安井だ」

 隆がわたしのTシャツをまくり上げる。
 ブラをつけていなかったので、一気にわたしのおっぱいがむき出しになった……はずだ。
 なんせ、この変態彼氏の目隠しのせいで、見えないのだから。

「……いやっ……あっ!」

 ぐいっ、と身体を裏返され、前から肩を下に押される。
 わたしは流し台をを背に、そこに跪くかたちになった。

「……ほら……三輪くん」

「んっ……」

 唇に、何かが触れる。
 でもそれは、『何か』ではない。

 ほんものの『何か』よりもっと冷たくて、大きくて、太い……柔らかさは、その……ほんものの『何か』に似ている。

「……ほら、三輪くん、これにキスしてごらん……そのかわいい、いやらしい唇で……」

「へ、変態っ……」

 唇にあたっているのは、わたしがさっき、おつまみにしようと輪切りにしてい、ソーセージの先端だった。

 わたしは唇を開かなかった。

 だって……あまりにもムカついていたし……隣の住人のことが気になって仕方がなかったからだ。

 隣の部屋からは、まだテレビの音も、冷蔵庫を開ける音も、トイレを流す音も聞こえてこない……いや、いつもはそんな音、聞こえてきただろうか?

 今日は、こんな状況だから、普段聞いていないはずの音が気になるだけなんじゃないだろうか……?……それにしても、静かだ。

 はあ……はあ……という隆の荒い息、そして、認めたくないけど、自分の荒い息の音しか聞こえない。

「ほら、ぶっといソーセージ……大好きだろう? 三輪くん……ちょっと彼氏のより、大きすぎるかなあ……?」

「へんたいっ!」

 と、言い放った次の瞬間、わたしは唇を開いていた。

(えっ…………?)

 口のなかに入ってきたのは、たしかにソーセージぽいけれど、もっと熱くて、どっしりとしていた。

「んんっ……!」

 口のなかで、それが“びくん”と脈打つ。

「んんんんっ……うっ……うぐっ……」

 そのまま、わたしの口の中を満たしているものが動き始めた。
 まるで目の前で口にアレをねじ込まれて、イラマされてるみたいに。

「ほら、ほら、三輪くん……もっと舌を使って……彼氏にしてるように……」

「ふごっ?」
 
 わたしが口に頬張ってるのは……ソーセージじゃない。
 まあそれはいい。

 それはいいけど……今の声……隆じゃない。
 隆はこんなに低い声じゃない。

「ほら、ほら……いいよお……三輪くん……最高だあ……想像していたとおり、気持ちいいよおおお…………」

 わたしの頭に手が添えられる。
 本格的に隆……タカシだよね?……が腰を使い始めた。

「ふ、ふっ……ふぐっ! んぐっ……」

「ほら……もっと舌をいやらしく動かして……唇でしごいて……」

「んんっ……むっ……むふっ……んんんんっ……」

 びくん、びくん、と口のなかで脈打つ物体、というかアレ。

 それにしても……隆のアレってこんなんだっけ?
 こんなに太かったっけ? こんなに短かったっけ? 
 こんなに硬かったっけ? こんな味だっけ?

「ほら……もういいよ、三輪くん……」

「ぷっ……ぷはっ…………」

 口からアレが抜かれた。
 ようやくちゃんと息ができて、思わず深呼吸する。
 そして、肩をつかまれてまた立たされた。

「ち、ちょっと……あっ……」

 そのまま、部屋のほうに歩かされる。
 目隠しのネクタイをされたまま。
 その気になれば、わたしも自分で目隠しを外せたんだけど……外さなかった。

 理由はふたつ。

 ひとつめは、なんだかんだ言ってわたしも、このエッチすぎる状況にドキドキしてたから……いやほんと、スケベだねわたし。

 ふたつめは……目隠しを外したら、一緒にこの部屋にいて、いままさにわたしを犯さんとしている男が、ほんとうに隆かどうか確信が持てなかったから。

 もし目隠しを外して、隆が別の誰かに変わっていたら怖かったから。

「ほら、三輪くん」

「きゃっ!」

 わたしは仰向けにベッドに投げ出された。

 そしてまくり上げられていたTシャツをはぎ取られる。
 太ももで絡まっていたスウェットと下着も。
 ベッドの上で、全裸にされてしまった。

 身に付けいるのは、目隠しのネクタイだけ…………めちゃくちゃエッチだ。

「……さあて……四つん這いになったもらおうかなあ……三輪くん」

「んっ……だからっ……ヤメろって“三輪くん”はっ……きゃっ!」

 身体を裏返されて、お尻を持ち上げられた。
 はい、そうです。女豹のポーズ。のポーズ。
 自分がどんな格好してんだろう、と思うと、わたしはますます濡れた。

「はあああ……いいお尻だねえ……想像していたとおりだ……丸くて、大きくて、でも引き締まってて、すごく格好いい……ほんとうにスケベなお尻だねえ……三輪くん」

「だからっ……ひっ……」

 お尻を撫でられた。
 思わず、全身に鳥肌がたつ。

 隆の手とは、ぜんぜん違う感覚だった。
 すごく冷たくて、かさかさした手だ。

「さあて……いくよ、三輪くん……ついに一つになれるね……」

「ま、待ってっ……待ってってば……んあっ!!」

 挿入ってきた。
 すっごく熱くて、太くて、硬かった。
 一瞬で、いきなりわたしは軽くイった。

「あああ……いいよお……いよおおお……三輪くうううん……最高だああ……」

「だ、だめ、も、もう、もうイったっ! ……イったからっ! ……んあああっ!」

 めっちゃくちゃに責められ続けた。
 永遠のようにお尻に腰がぶつかる。
 イきまくった。もうだめ、と言ってもやめてくれなかった。

「も、もうだめっ……もう許してっ……お、おねがいっ……や、安井係長っ……ゆるしてっ!」

 次の瞬間、お尻にものすごく熱いものがかかる。
 わたしはそれを感じて、ベッドに沈み込んだ。

 翌朝目を覚ますと、ベッドのとなりで隆がいびきをかいて寝ていた。

 わたしはすっぱだか、隆は下半身だけ裸。
 お尻に熱いアレが固まって張り付いている。

 隆は……朝勃ちしていた。
 あんだけ出しといて……すんごい朝勃ちだった。

 隆と一緒にシャワーを浴びて、隆を部屋から蹴りだし、わたしはそのまま会社に出かけた。



 すると、会社内が妙に騒がしい……同僚の小嶋が駆け寄ってくる。

『み、三輪さん聞きました? ……安井係長、自殺したんらしいんです!』

『えっ……そ、それいつ?』

『昨日の真夜中0時くらい……会社の屋上から飛び降りて……』

『深夜0時? 深夜0時って言ったら……』

 わたしと、隆……らしい男と、セックスしていた時間だ。

『そ、そんな……それじゃあ、ゆうべ、わたしの部屋にいたのは……』


 なんてことは起きなかった。
 いつもどおりの会社。


 安井係長は、自分の机に座って……見積書に目を通していた。

 いつもどおり、平和な会社。
 安井係長は機嫌がよさそうで、なにか鼻歌を歌っている。
 わたしがじっと見ていることに気づくと、顔を上げた。

「ん? ……どうしたの? 三輪くん?」

「い、いえ……いえべつに…………なんでも……」

 すると、安井係長が目を細めて言う。

「なんだか、いつもより肌つやがいいねえ…………」

「えっ…………」

 そういう安井係長も、いつもより肌つやがよかった。

 わたしの気のせいだと思うけど。

<了>
 

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