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誰もが集える西本願寺に。ブランドマークに込められた想い

2023(令和5)年12月にお披露目された西本願寺のブランドマーク。西本願寺の阿弥陀堂と御影堂、境内の大イチョウの葉をイメージしてつくられたブランドマークは、シンプルながらも印象に残る形をしています。最近ではHPや広報誌、煤払いで使用するタオルやうちわなど、さまざまな場所で用いられています。

このブランドマークを手がけたのは、グラフィックデザイナーのサノワタルさん。企業ブランディングや商品パッケージ、店舗の内装まで、さまざまなモノ・コトをデザインされています。サノさんと西本願寺の関わり、そしてロゴマークがどのようにつくられたのかをお聞きしました。

グラフィックデザイナーのサノワタルさん

京都でデザイン会社を立ち上げる

ーーサノさんは大阪のご出身だとお聞きしました。なぜ京都でデザイン会社を始められたんですか。

実は、龍谷大学の法学部出身なんです。大学から京都に来て、その時は国税専門官になろうと勉強していたんですが、アルバイトでデザインの世界に触れて面白くなって。卒業してから専門学校に通って、デザイナーになりました。

ーー法学部からデザイン!まったく違う道に進まれたんですね。
でも、僕の中ではあまり違和感はなかったかもしれません。デザインって、クライアントがどういうことを望んでいるかを聞き、その意図を噛み砕いてどんな形でアウトプットするのかを言語化する必要があります。言葉の世界という共通点はあるんですよ。

ーーその後は関西で仕事を?

東京のデザイン会社に少しの間、勤めていました。東京が中心の時代でもあったので、一度は経験してみようと思って。でも忙しすぎて心身ともに疲れてしまって、大阪に帰ってきたんです。そのときに京都のデザイン会社と縁があって、勤めることになりました。会社の社長からは、大学のときには知れなかった歴史や文化、京都におけるビジネスなどをたくさん教わりましたね。9年間勤めてから独立して、自分のデザイン会社を持ちました。

ーーなぜ地元ではなく、京都で独立されたのでしょうか。

京都で長く仕事をしていたということもあって、特に違和感なく京都で起業することになりました。でも、西本願寺のブランドマークをつくらせてもらうときに、ふと「大学時代に京都で過ごした影響が大きいかもしれない」と思ったんですよね。大学時代って、社会人になる前の最終段階としていろんなことを吸収する時期ですよね。その時間を京都で過ごしたのが僕にとって大きかったのかなって。

それと何より他の土地にはない特有の空気感というか、京都にある”ほどよいゆるさ”が、僕にとっては暮らすこと、仕事をすることにおいて大切な要素なんだと思います。

場所性に焦点を当てたデザイン

ーーここからはブランドマークの制作に関してお聞きしていきます。どのような経緯で、サノさんが担当することになったのでしょうか?

クリエイティブディレクターに就任した原田さんが、西本願寺のデザインを誰に任せようかと探す中で、たまたま僕を見つけてくれたみたいです。京都の企業や飲食店のデザインについてお話した取材記事がいくつもあるので、それを見て連絡くださったとお聞きしました。

実は3年ほど前から、宗派(浄土真宗本願寺派)の仕事を受けていたんですが、それは選考理由とは関係なかったようです。純粋に僕の仕事を見て依頼をいただいたと聞いて、嬉しかったですね。

ーー制作は、どのように進んでいったのですか。

まずは執行長である安永さんやクリエイティブディレクターの原田さんなど、西本願寺のブランディングに関するチーム内で話し合いながら、方向性を絞っていきました。一つが場所性としての西本願寺。二つ目が、場所性ではないものからシンボライズしましょうという話になりました。

2024年12月に行った記者発表会(左から原田さん、安永執行長、サノさん)

その中で「光」も候補にあったんですよ。浄土真宗において南無阿弥陀仏を表す無限の光、この光を表すことができないかという話もありました。でも実際の形がないものを定義するのは難しいですよね。誰かにとって納得ができるものであったとしても、誰かにとっては違和感のあるものになってしまう。ですから今回は場所性を表すマークをつくろうということになりました。

それと今回は「開かれたお寺」になるという命題もあったんです。原田さんの制作したタグライン “誰もが、ただ、いていい場所。” にあるように、ご門徒(信者)さんだけでなく、ご近所の方も観光客もどんな人も足を踏み入れられる場所にしていきたいと。だから今回のブランドマークは、宗派のマークとしてではなく、あくまで西本願寺という場所を表すマークをつくろうという考えでデザインしたんです。

ーーそれで出来上がったのが、今回のブランドマークだったんですね。

境内に何度も足を運んで「この場所を象徴するものは何だろう」と考えたときに、2つのお堂があるということ、そして御影堂の前の大銀杏だと思ったんです。その要素から、約200パターンほどつくりました。もっとイチョウに似せた案もあったし、お堂が1つだけというパターンもあったんですよ。

ーーたしかに、イチョウのようでもありますね!

メインカラーは「本願寺イエロー」というイチョウをイメージした色にしているんですが、他のカラーも西本願寺に足を運ぶ中で印象的に残った色をキーカラーにしています。ゴールドは金箔、グリーンは新緑のイチョウと青銅色の梵鐘をイメージしています。あとは白と墨色の5色をブランドカラーとして設定しました。

ブランドマークがもたらすもの

ーー今後、どのような場面で使用されるのでしょうか?

まずは皆さんに周知いただくことが大切なので、メインカラーである本願寺イエローを使ったマークをHPや広報誌から展開しています。墨色は職員の名刺や、煤払いで使用するうちわなどにも使用しています。ゴールドやグリーンも季節や場面に合わせて使用していく予定です。

ーー周囲の反応は、いかがですか?

周りからは概ね良い評価で、「一度見たら忘れない形だね」と言っていただいています。トイレのマークってシンプルだけど、一目で男性か女性かすぐにわかりますよね。アイコンやピクトグラムのように、お子さんでも真似して書けるぐらいのシンプルな形でありながら、人の印象に残るデザインを目指しました。

SNSを見たら「切ったバームクーヘンみたい」と書いてる方がたくさんいたんですよ。つまり「バームクーヘンのようなマーク」だと皆さんの記憶に残ったということなので、嬉しいです(笑)。

ーーロゴの形のバームクーヘンがあったら面白そうですね!
たしかに面白そうですね。親しみを感じて、お寺に足を運びやすくなることがブランドマークの役割でもあるので、お子さんができる塗り絵とか、Tシャツなどさまざまな形で展開していきたいですね。

西本願寺の日本酒(非売品)ラベル(写真提供:株式会社サノワタルデザイン事務所)

僕は個人的に御影堂が好きなんですよ。会社が西本願寺から近いというのもあって、せわしなくて考えがまとまらないときに、御影堂に来てただぼーっと座っている時もあるんです。心が落ち着くし、よし頑張ろうという気持ちになって帰れる。西本願寺のお堂って、本当に ”誰もが、ただ、いていい場所” なんです。

ですから今まで「敷居が高いな」と思って西本願寺に来たことない人が、ブランドマークをきっかけに足を運んでくれて、この西本願寺ならではの空気感を肌で感じてもらえたらうれしいですね。