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学校うんこ

神木小学校6年3組、2時間目の算数の時間。
黒板に板書する先生、ノートを取る生徒たち。
何の変哲も無い、小学校の授業風景だ。

しかしその中で、ケンジの戦いは静かに始まっていた。

クーラーの効いた涼しい教室の中にも関わらず、ケンジのおでこには大量の汗がにじんでいる。先生の話し声も耳に届いていない。下を向き、目を閉じながら、ゆっくりとした呼吸を繰り返す。

ケンジは、うんこを我慢していた。

元々お腹が弱く、ちょっとしたことですぐ下痢になる体質だった。家ならいいが、学校で、それも授業中にお腹を壊すと地獄だ。

(きたっ……!)

強烈な波がケンジを襲った。気を抜けばあふれ出してくるうんこを止めようと、ケンジは必死の思いで耐える。
唇をかんだり、自分の腕をつねって、痛みで何とか便意を紛らわせる。

そうする内に波が収まった。ケンジは時計を見る。
授業が終わるまであと16分。

(まだそんなにあるのか……)

あと何度の波に耐えなければいけないのか。
もういっそ手をあげて「先生、トイレ」と言おうか。
そうすれば楽になれる。

だが、うんこキャラになることはケンジのプライドが許さなかった。

ケンジは覚悟を決め、幾度もの便意の波をやりすごした。そしてついに、終わりまで後3分のところまでやってきた。

しかし。

ここにきて、最大のビッグウェーブがやってきた。
今までのものとは比較にならない。ラスボス級だ。

必死に我慢するが、腕つねりも効果がない。
うんこは今にもとびだしてきそうだ。

クソっ!仕方ない……

最終奥義だっ!

ケンジは、コウモンカツヤクキンに全神経を集中させた。

スゥーと、お尻の穴からおならが出てくる。コウモンカツヤクキンの巧みなコントロールによって音を出さずにおならをする技を、ケンジは身につけていた。

お腹にたまったガスを抜くことで、一気に便意をおさえることができる。しかし、力の制御をちょっとでも間違えれば、教室中におならの音がひびき渡るという悲惨な結果を生んでしまう。まさに最終奥義だ。

キーンコーンカーンコーン。

チャイムが鳴ったが、まだ油断はできない。
ケンジはお腹を刺激しないよう気をつけながら、急いでトイレに向かう。人の少ない3階の音楽室の横のトイレが、ケンジの指定席だった。
パンツを下ろして便器に座ると同時に、今まで我慢していたものがあふれ出してきた。

「ふぅ」

今日の戦いが終わった。


その日の夜。

いつでも自由にトイレに行ける学校があったらいいな。

ケンジはベッドの上で考えていた。

行けないことはないけど、でもやっぱり授業中はトイレに行けるような感じじゃない。友達には笑われるし、先生には休み中に行っとけと注意されるし。
テレビで見たアメリカの学校みたいなとこなら、みんな気にせずにトイレに行けるのかな。

オンライン授業だったら家でやるから、いつでもトイレに行けるな。すごいいいかも。
でも友達と遊べないのは嫌だなあ。

いっそ机を全部トイレにしたらいいんじゃないか。
みんな便器に座りながら授業を受けるんだ。

いろんな考えが浮かんだが、だからといって何か変わるわけじゃない。

明日もまたお腹を壊すかもしれない。

ケンジの戦いは続く。

「明日も頼むぜ」

ケンジはコウモンカツヤクキンに語りかける。

キュッと、お尻の穴がしまった。

「任せとけ」

そう言っているような気がした。

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