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好きな人の、好きなものを知るということ

  それまで興味がなかったものに対して、なんだか惹かれてしまう。調べたり、もっと知りたいと思ってしまう。その人の「好き」を知りたいと思ってしまうとき、もう恋に落ちていると思う。

 私は25歳の社会人で、今江大地くんという1つ年下のジャニーズJr.を応援している。アニメが好きな彼は、ブログの更新順がまわって来るたびに、近況と称して最近彼が見たおすすめアニメを教えてくれるのだ。

 そのアニメを私は見る。そして、「これを見て、どう感じるんだろう」「何を想って、これを見るんだろう」と考える。好きな人の、好きなものを掘り下げていって、ほくそ笑んだり、泣いてしまったり、そんなことをするのがとっても好きだ。こちらは好きに感情を震わせて、ほんの少し、彼の気持ちに寄り添ったような気分になる。

 私は彼の好きなものを知っているけれど、彼は私の好きなものなんて知らない。そんな身勝手で一方的な「好き」に溺れながら見るアニメは、もどかしくて切なくて、でもそれでも心地よい。

 彼が教えてくれたアニメの中でも、いくつか興味深いものがあったので紹介する。

 まずは『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』。戦場で殺人兵器として活躍した少女ヴァイオレットが、戦後に手紙の代筆屋として働く物語。仕事を始めてすぐは笑うことも、泣くこともできなかったヴァイオレットが、手紙にまつわる人々の想いを理解していくうちに、「愛」にたどり着く、というあらすじ。

 手紙を書きたいと思う人、書く人(代筆屋)、届ける人…それぞれのもつ想いや葛藤をクローズアップしているこのアニメ。物語の終盤、数々の代筆をしてきたヴァイオレットがついに自分の想いを手紙にしたためる。机を前に一晩中悩む彼女の姿が胸をうつ。

 このアニメについて、今江くんはヴァイオレットにお手紙を書きたい、とコメントしている。その着眼点がすごく好きで、こうして2年ほど経った今でも覚えている。


 続いて、『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』。このアニメの1~3話は桜島舞衣という女の子が中心となる。彼女は子役あがりで名の知れた役者だが、芸能活動を休止中。この物語の要となる思春期症候群なるものがきっかけで、周りの人間は彼女が徐々に見えなくなり、また、彼女に関する記憶が消えていく。女優としての桜島舞衣が皆の記憶から消えるとき、桜島舞衣本人が消えてしまう。

 舞台に立つ人間は観察されて初めてそこに存在する。観察されない場合には徐々に認識されなくなり、結果存在として消えてしまう。メディアの世界の観察者効果をテーマにした興味深いストーリー。主人公である咲太はある行動(ネタバレは避ける)で、この思春期症候群による現象を止める。

 今江くんは、咲太がとったある行動を自分もとりたい、とコメントしている。これも、とても好きな発想だ。

 アイドルは、ステージに立つ。ファンは、ステージを見つめ、応援する。アイドルとファンは、この点で決定的に違う。ただし、ここに一つ何か(この場合はアニメ)を挟むと、状況は一変する。今江くんというアイドルも、私というファンも、アニメを前にしては平等に、いち鑑賞者となる。

 …ヴァイオレットにお手紙を書きたい。咲太のとった行動をとりたい。彼のアニメに対するこうした感想は、できることならば彼自身が物語に介入して、彼・彼女らを助けたい、という想いに近いものであると認識している。

 私も、日々いちファンとしてアイドルを応援するなかで、できることならばアイドルの成長物語に少しでも介入して、彼・彼女らを助けたい、という感情がある。今江くんのアニメに対する想いは、ともすれば不審であったり、おかしいと捉えられかねない私のアイドルに対する愛情を正しく受け取って、肯定してくれている気がして、なんだか嬉しくなる。

 また、好きなひとの好きなもの(この場合はアニメ)が私の好きなもの(この場合はアイドル)に近ければ近いだけ、この歪な心理トリックは大きく作用する。先述のヴァイオレット・エヴァ―ガーデンの手紙というテーマ、そして、青ブタの舞台に立つ人にまつわるストーリー。ただの物語ではなく、こういう物語だからこそ、より勝手に共感できてしまう。

 好きな人の好きなものを掘り下げていくと、彼の気持ちに寄り添ったような気分になる、と先ほど書いた。この寄り添う、というのは、同じものが好きである、という共感にとどまらない。好きなものの前では、同じ「そのものを好きな人」として、心理的な距離が近くなる。また、好きな人の好きなものの捉え方が、ひいてはこちらの好きなものの捉え方を肯定してくれていると感じるのだ。

 今週更新したブログで、今江くんはまたひとつ新たなアニメを教えてくれた。『キャロル&チューズデイ』。出自も見た目も違う二人の少女が、音楽を通して世界を変える、そんな話。

 まだ4話までしか見られていない。彼が好きな台詞・歌詞・曲はどれだろう、と考えながら見進めるのが楽しい。今回は教えてくれなかったから、私のほうで勝手に予想するのだ。彼が夢を追いかけるキャロルとチューズデイを見て心動かされるように、私は夢を追いかける彼を見て、心動かされる。

 好きな人の、好きなものを知ること。きっとこれからも、続けてしまう。


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