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横尾渉を選択した私の末路(上)

 舞台『〇〇な人の末路』で、横尾渉さんにはじめてのファンレターを宛てる私と、観劇後の話。

 好きになって5年強。横尾渉さんに対して私が持つ感情を、「共依存」と表現することが多い。そんな「共依存」先の彼には伝えたいことが多すぎて、うまくまとまらない。

 私は、今まで一度も横尾渉に手紙を書いたことがなかった。

 今回、舞台が決まり、彼への気持ちを、うまくまとまらないからこそ、俳句にしたためてみようと思った。

 私は横尾渉さんが出演する回だけプレバト!を見るという程度の俳句知識しかない。ただ、たった17文字だ。「ひどい俳句だな」「意味がわからないな」。そう思われたとしても、少なくとも彼が傷つくことはないのではないか、と思った。

 レターセットは用意した。大好きな榛原の色ふちレターセット。封筒3枚、便箋6枚で1320円也。書くだけで背筋が伸びるようなレターセット。その名の通り、縁を彩るオレンジ色がとても優しい色で、横尾渉にぴったりだと思った。

 あとは肝心の本文。夏井いつき先生も、まずは定型を、と言っていたし、横尾渉さんもほとんどのケースで5・7・5の俳句を書いていた。5・7・5、17文字にしよう。

 おしゃべりだし、ブログ記事もついつい長くなることが多い。そんな私にとって、17文字というとんでもない字数制限はとにかくキツかった。何を書いても、17文字なんて簡単に超えてしまう。


 季語はちょうど春先の季語でもある「ネーブル」にしようと思った。これで4文字、残るのは13文字。上か下の句に「ネーブル」を入れると、残った1文字は「が」「の」「に」「は」などなどになっていくわけだが、どれをあてはめてみても脳内の夏井先生がビシバシと赤ペンを入れてくる。

 上の句で考えてみる。…「ネーブルの」、ではじめたとして、まずネーブルオレンジがボン、と映像として出てくる。このネーブルが、じゃあどうなるか。

 …中の句で考えてみる。中7で考えると、「ネーブル〇〇〇」か、「〇〇〇ネーブル」。しかし、上の句と下の句で他の単語を入れると、ネーブルの印象が薄れてしまいそうでもある。やはり、映像の強さでいうと下の句か。

 下の句だと、とにかく下5が作りづらい。「ネーブルと」「ネーブルに」とかであれば下の句として成立しなくもない、が、どうもしっくりこない。


 いや、季語よりもまずはテーマだ。頭に思い浮かんだのは夜のスーパーマーケット、食品コーナー横の見切り品売り場に置かれたオレンジ。そんなオレンジに気づいて、手に取って、あまりにもいい香りに思わずかごに入れる。

 …たとえ私がプレバト!才能アリで、これを17文字で表現する能力があったとしても、この情景は私が表現したいものと全く違う気がする。

 横尾渉さんの担当になったきっかけについて考えるときにどうしても、「意識していなかったけれど」とか、「ひょんなことから」、とかいう枕詞をつけたくなる。ジャニーズに全く興味がなかった私が、ここまで敬愛し、傾倒する横尾渉さんに会えたのが運命だと心の底から思っているからである。

 でもだからといって、彼は間違っても「スーパーの見切り品」ではない。

 例えるなら、クラスで目立たない子を好きになったけれど、別に彼が目立たないから好きになったわけでもないし、ましてや「目立たない子を好きになれる私がすごい」から、彼が好きと声高々に叫びたいわけでもない、といったところか。

 だいたい、見切り品なんて例えを使ったが折に、横尾渉の自己肯定心がどうなるかなんて、想像するだけでも恐ろしい。

 そんなこんなで舞台前夜。

 結局思いつかないテーマ。もちろん進まない筆。

 迫る期限、空っぽの便箋。


 横尾渉に伝えたいこと、「横尾さんがいい」「他の人よりも絶対に横尾さん」「君が『クズ』と評される部分、私も心当たりあるよ」「これからも表舞台にいてほしい」「私は将来、娘と横尾さんの出演する料理番組を見て『お母さんこの人が昔すごく好きだったんだよ~』『え~!おじさんじゃん~!なんで?!』という会話がしたい」「横尾さんの、何十年か後に必ずやってくる死をニュースで見たい(死ぬときに報道されるような有名人でいてほしい)」。

 上記の段落の気持ちが伝わるような情景、テーマがあればいいものの、そんなもの到底あるような気がしない。そもそも、こんな未来予想図VXVIみたいなメッセージ、本当に本人に伝える覚悟があるのかといわれれば、「ない」と答えるほかない。いきなりいもしない娘の話をされるだけでも恐怖だろうに、自身の死の話なんて持ってこられたらどう考えても不快だろう。

 俳句という型を諦めて、究極奥義「大好きです」を使おうとも思った。ただ、この言葉もまた厄介だ。横尾渉にとって、「ファンから向けられた『好き』」という感情さえ負担…下手すれば嫌悪感すら抱かれる可能性すらある。

 それは、怖い。

 はじめての
 ネーブル握り
 震える手

 空っぽの便箋を前に座る私。文字でも書ければ、その震えた筆跡から緊張があなたに伝わるかもしれません。ただし、文字を書くこともままならないほどあなたへの気持ちがいっぱいです。この空っぽの便箋に、オレンジの果汁を一滴垂らし、あなたに送ります。


 寝る前はいい俳句に感じたものの、いざ舞台当日に起きてみるとあまりにも平凡。あの長時間に及んだ脳内一人会議が一切生かされていない。小学生が10秒で思いつくやつじゃないか。

 だめだ、だめ。横尾渉に対する私の積年の想いを17文字に込める覚悟をしたはいいが、こんなものを5年強の集大成として出したら、自分としても納得がいかない。

 そして私は結局、「横尾渉に言葉をかけずに、末路の世界に足を踏み入れる」という選択をしたのだ。「観劇を経れば、俳句というかたちでなくても、きっと何か手紙が書けるだろう」と考えながら。



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