【1000字小説】読書感想文【1012文字】

「読書感想文ってどう書けばいいんだろう。」
春男は昔から思っていた。
小学生の時、毎年と言っていいほど夏休みに読書感想文の宿題が出た。
小学生の頃の僕は、まず本を読むのが苦手だった。
読もうという気はあるのだ。課題推薦図書の中から消去法で自分でも読めそうなタイトルにあたりをつけ、学校の図書館でその本を借りて、いざ1ページ目を開いてみる。
しかし、読めないのだ。全く面白く感じないのだ。
でも、宿題は終わらせなければいけないわけで、じゃあどうするのかというと、最初と最後の10ページくらいを読んで、そこに書いてある言葉を引用して、なんとなくそれっぽく書くのだ。それでいい作文ができたとは微塵も思ってないない。できない宿題をとりあえず出せたことに意義があるのだ。
中学生の頃は、幸運にも読書感想文の課題は一度も出なかった。
高校生に頃も、一度も出なかった。
わお、何という幸運。
そして大学生、大学院生、読書感想文の課題は一度もない。
これは父親から聞いた話なのだが、大企業ではどうやら読書感想文を書かされるという風習があるらしい(昔の話なのか、今でもそうなのかはわからないが)。
少しゾッとした。
今の僕なら、読書感想文をどう書くんだろうか。
僕は、未だに読書感想文で正しいとされてるフォーマットを知らない。
たぶんだけど、なぜこの本を読もうと思ったのとか、起承転結になぞらえて自らのエピソードトークを披露したり、主人公の心情変化を自分と重ねたりしてうまいこと書くんだろう。
でも、僕はたぶんそれをしないだろうな。たぶん、もっとまわりくどく、変な事をしちゃいそう。
たとえば、終盤から序盤という目線で描いてみたり、全くその本と関係のないことを最初の8割で書いてから最後の2割で強引にその本と結びつけてみるとか、起承転結の承だけを分析してみたりだとか、あるいは登場人物に一切触れずに、道具や場所や時代だけについて書くとか、そういう変な事をしちゃいそう。多分、普通に書くのが1番正しくて、変化球を投げるのが1番よくないのだと、頭では理解はしてるのだけど、やってしまいそう。
実験室の窓からは緑がかった桜の木と硬式野球部のおちゃらけたキャッチボール風景が見える。空は晴れやかで、風はやや強い。
今年も来年も、おそらく読書感想文を書くことはない。
また明日から来たる読書感想文へ向けて、世界を逆さまにしてただ1人でウキャウキャする。