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【食|麺】鴨南蛮

最近寒いせいか在宅で仕事なんぞをしていると、ムクムクと温かい汁麺への欲望があがってくる。

15時。ちょっと早めに仕事終えて今日は街の蕎麦屋へ。

店内にはご隠居といった風情の酔客が数人、三分混みといったところ。ボクは馴染みの店員にアイサインを送って、テレビの見やすいいつもの席に着席する。

蕎麦屋で酒を飲む際は、種ものの具材となる天ぷらや、焼海苔、玉子焼き、蒲鉾なんかを酒のアテにして、かけ蕎麦かもり蕎麦で締めるというのが大概の流れになるのだが、こんな寒い日はのっけから鴨南蛮を頼んでしまおう。お酒は菊正宗のぬる燗で。

注文を終えて見るでもなくテレビのワイドショーを眺めていると、まずはお酒と共にお通しの蕎麦味噌が供される。

それをアテにぬる燗で喉を湿らして人心地つくと、ほどなくして豊満な薫りを纏いながら真打ちが登場する。

さてさて、などと独りごちながら、まずは鴨出汁と柚子の香の効いたツユをちょっと舐め、鴨ロースを一枚。その濃厚な旨味と脂をぬる燗で追いかける。

香ばしい焼きネギや、鴨つくねといった具の合間合間に、ツユの良く絡んだ蕎麦を数本つまんでは、その美味さに小さくうめきつつ、都度酒で口を洗う。

かように鴨南蛮は具から麺からツユから、全ての構成要素が鴨の旨味を吸った酒のアテとして、盃が進んで仕方がないのだが、せっかくの温かいモノが冷めるようなダラダラした食べ方はよろしくないので、自制してお銚子は2本まで。

最後は器に蕎麦湯を入れてツユを飲み干し同時に酒も乾すと、心も身体もぽかぽか暖まり、会社員が残業の覚悟を決めようかという時間帯に、ボクはほろ酔い気分で気持ちよく帰途につく。

以前、なにかのコラムで読んだのだが、並木藪蕎麦の初代曰く「江戸っ子は蕎麦と鮨で腹を満たしちゃいけない」とのこと。つまり蕎麦はおやつ感覚で手繰るのが吉で、その点この鴨南蛮飲みは高い満足を得ながら、腹具合に余裕を残した非常に優秀な冬の楽しみなのである。

久々に早くから始めただけあってまだまだ夜は長い。さあこのあと何を飲もうか。

という妄想を毎冬に一度はしているが、未だに叶った例がない。仕事を切り上げられない性分なのだ。さあ今日の仕事は何時に終わるのだろうか。

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