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「それから」 nisai 31日間アトリエショップ 12日目〜16日目(2020年3月27日→3月31日)

前回の続き。


3月27日(金)/12日目

週末外出自粛要請が発表された。

nisaiにはアシスタントがいる。不定期で手伝ってくれる友人に近い人を入れたら、今は10人くらい(2020年3月の時点での記録)

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そういったゆるいつながりの人らとは別に、週1,2で、一年近く定期的に来てくれている、アルバイトに近いアシスタントが3人いる。
将来的にnisaiが会社として大きくなれたら、正社員として雇えるようになりたいなと、自分自身の一つの目標の支えになるような人達が、その3人。

週末外出自粛要請が発表され、最初に変わったことは、2人のアシスタントが来れなくなったこと。LINEにて「行くのがこわくて」と書かれた不安な文面に、無理強いして呼び出す理由はなかった。「また落ち着いたら来てね」と返事したら「行きまくりますよ」と返してくれたのが嬉しかったことを覚えてる。


桜が満開だった。家からアトリエに向かうまでの、徒歩10分ほどの道沿いにある、女学校の門前に構える桜が。

午前中、先日応募した着用モデルに応募をくれた男の子の撮影をする。
彼はいい男の子だった。先日、モデル面接で会った時の印象は、顔は良く、礼儀も正しく、スタイルも良くて、普通に見れば好青年。でも、すごく緊張してた。カメラと被写体の瞬間だけでも距離が近づけないことが顕著だった。世間一般のブランドのモデルがどうかは知らないけど(合わせる気もないけれど)、nisaiのモデルで必要な要素は、カメラを向けられた時に、無根拠な自信を持てる(演出できる)人。瞬間的にでも関係性が出せるような演技力とか、思い込み力。だけど演じすぎない人。なんていうか、近くて遠い感じが良い。ものすごく近いようで、手の届かないような距離感。

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誠実な男の子は緊張が抜けなかった。でも逆に、人として近い関係性になれたら良い表情が出せるような気がした。上に書いたこと、今の時点ではルックモデルは頼めないことを伝えたあと。彼に二つの提案をした。

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一つは、今回はモデル候補から外すパターン。もう一つは、撮影とモデルって関係性じゃなく、まず人と人として知り合いになって、練習撮影やコミュニケーションを重ね、緊張が抜けて関係を深めた先で、モデル候補とすること。だけどそれまでの撮影には、謝礼は発生しないパターン。

彼は少し悩んだあと、後者のパターンでお願いしますと言った。

ーーそして、今日がその最初の撮影日。それから数日間、彼とは3回近くの練習撮影と交流、試用期間を経て、顔つきはどんどん良くなっていった。
「次から謝礼出るからね」と伝えたあと、呼び出せないくらいに外出自粛が強くなってしまったのは、もう少しあとの話。

この日は、不定期なアシスタントひなこに、久しぶりに手伝いに来てもらった。今、こういう状況下でも展示会を続けるべきなのかを悩みながら、作る手は止めず、気付いたら夕方。
吉祥寺駅前の串カツ田中にて二人で夕飯、店内テレビで映されていた金曜ロードショー「魔女の宅急便」を眺める。


3月28日(土)/13日目
3月29日(日)/14日目

前もって来店予約を入れてくれた方へ、アトリエショップをオープンする。両日、天気が悪かった記憶がある。そんな日に、こんな状況下でも、来てくれた人に救われたことは事実だった。

以降、予約来店オンリーで、アトリエショップを継続することを決める。

窓は常時全開で通気確保、必要であればマスクはお渡しして、来店される人たちの時間帯が極力かぶらないよう配慮。

「いつでもみんな来てね」とは言えなくても「僕は毎日ここにいます」と、迎えることは出来るんじゃないか、間違いじゃないんじゃないかと、悩んだ末の結論で。


3月30日(月)/15日目

ワークショップ予約の男の子が来てくれる。
歴代ワークショップで最長時間をかけ、3着の服を2つの服にした。
待ってる間退屈じゃないかなと少し気を使ったけれど、楽しそうに過ごしてくれていたことを覚えてる。絡まった手縫い糸をほどいてくれていた。

リメイクワークショップは、最終完成形を決めてから作り始めるというより、半分くらいのアイデアから、解体をはじめて、縫って、また壊して、進行の都度、フィッティングして、軌道修正したり、そのまま続けたり、新しいアイデアを出し合いながら、これはどうだああだと、二人で作る感覚。自分にはないアイデアに刺激を受けることもあって、一点物の服にはどういう要素が求められているのかを知れる機会にもなって、プラスだらけだった。

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途中、ぶっ通しの制作にくたびれて、近所のコンビニに一緒に行って、アトリエで二人ジュースを飲みながら、のんびり話をした。そんな時間も、振り返ると愛おしい。

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繰り返すフィッティング途中では、あんまりかなあここがもっとこうだったらなあと、納得のいかない顔が続いていた男の子が、うわあこれは最高だと、ぱっと表情が変わった瞬間が、本当に嬉しかったことを覚えてる。今もあの最長制作時間の記録は塗り替えられていない。


夜、吉祥寺駅南側の古着屋のオーナーの女性が遊びに来てくれる。彼女と知り合ったのは吉祥寺に引っ越してきた一年前。時々話をする。

お店を一時的に閉めることになったこと、これからどうすればいいんでしょうということを、相談してくれた。

人に何かを教えられるほど、アドバイス出来るほど、実は強くない。お客さんやアシスタントの前では不安にさせないようにしてるだけで、実は僕も不安なんです。こういうときは、ただ一緒に話してるだけで、なんでもない話し相手がいるだけで、楽になれるんじゃないでしょうか。いつでも付き合いますよと伝える。来た時よりも表情が楽になった様子を見送る。それでこっちも少し楽になれる。

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3月31日(火)/16日目

ワークショップの予約は途切れなかった。救われる気持ちがあった。ビル最上階、通気性の良い一室で、素材に囲まれて、ミシンと手縫い針で、ものを捨てずに、ものをつくる時間。言葉のやりとりがいらなくなる時、おだやかな空気が漂う。

ニュースやSNS、ネットを開けばイヤでも入ってくる情報の渦。そこから外れた空間がここにはあった。こういう時期だからこそ、必要な場所だ、と思えた。

それは、自分が作り出してるというより、来てくれる人が一緒に作ってくれている感覚だった。いらないと思ったものが、めくるめく、新しい価値を持つ。そういう表情・反応をするお客さんの存在そのものが、服を作り続ける理由になると思わされた。

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ありがとう。


つづく

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