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記憶を頼りに書いていると、書きたいことが次から次へと溢れてくる。
溢れてくると、わたしはそれを全部書くことができないと、瞬時にわかる。
だから、その中から、何を書くべきか何を書かないかを選ぶことになる。
星を見ていたら、見ていることに集中できなくて、昔のことを思い出していた。わたしははじめ、それを嫌だと思った。でも、だんだんと昔のことを考えたくなって、それを思い出すことにした。
真十さんに、目薬をさしてあげたことを思い出した。わたしだって目が悪くて、手元が狂うのに、なぜか真十さんは自分で目薬をさすことができない。だから、大学にいるときはよく、わたしが膝枕をして彼女に目薬をさしてあげる。わたしは、目に狙いを定めるのではなく、手で頭の形やまぶたの感触を確かめながら目薬をさす。鼻と鼻がくっつきそうなぐらい、顔を近づける。それを、彼女が「目薬さして」と言ったら何度もそうしていた。
明日、彼の職場に行ったら真十さん、いるだろうか。
そのころは、地球の空には何も浮かんでいなかった。星と月と太陽と、雲それ以外は。
星が、地球の近くにきてから、「星」という言葉は夜に光る小さな点をさすものではなくなってしまった。
あ、そういえば、彼と星のない夜空を、見たことがある。
天の川がぼんやりと黒い空に浮かんでいた。雲みたいだった。あのとき、どんなふうに終わったのか、よく覚えていない。多分、研究室の合宿だったと思う。
学生時代の頃を思い出すと、急に自分が老けた大人になったみたいでおかしい。
原っぱに寝っ転がって、彼と空に浮かぶ白い点々を見ていた。
いつの間にか、眠ったんじゃないかな。その後、どうなったかよくわからない。その思い出の結末を知らない。だから、星をみたということだけを覚えている。
あのとき、草がうなじとほおと、背中に当たる感触がしたのを思い出した。草の匂いも。それから、眠くてゆっくりと重くなるまぶたの感覚も。
最後までお読みくださりありがとうございます。書くことについて書くこと、とても楽しいので毎日続けていきたいと思います!