うみの、あたりを歩く。書く。風を感じる。座る。椅子に座る。メールをチェックする。お風呂から出る。ビーナス。生まれたよう。星。星を見る。オリオン座。ギリシャの神話。神の世界。私たちは、思い描く。星を見るたびに思い描く。静かな夜に海を走る。かぜ。波。風が吹けば、海が波たつ。私は見る。遠くの景色を見る。あの光の中に、誰かがいる。そんな童話を昼に読んだ。補聴器。青い色の補聴器。波の音と、海の音と、風の音を、電気信号に変える。私の耳の穴に差し込まれた、医療指定器具はちゃんと、世界の音と私の欠けた聴覚の媒をしてくれる。線。線。線。上から見たら、私たちはどうなっているだろう。時間が関係がないから、片手でも音はなる。昨日、トイレでそう思ったっけ。そうなのだ。私が読んでいる本。町。街。街。ビーナス。生まれたよう。星。星を見る。貝殻が開く。海から。海から。街。海。海から。広がっていく。広く広く、広がっていく。お風呂から出た。熱。柔らかさ。温かさ。熱さ。柔らかさ。私はじっと画面を見る。白い画面を見る。遠くの空を見る。黒かった。夕焼けは赤青。緑。オレンジ。たくさんの色が並んでいるけれども、どうしても私はそれを上に積み上がる色と捉えてしまう。本当は空は平面なのだけれども、私たちは包まれているように思う。私の目がそう思う。私の目はそう考える。情報。誰かの声。誰かの思い出。誰かの懐かしい。思い出。夏。暑い夏。景色が青い夏。私はその海で、波の模様をずっとみていた。私はその海で、波の匂いをずっと聞いていた。妖精のように踊って、口ずさんでいた。赤いケースに入った万年筆。青いインクが出る万年筆。ずっと私はそれを使っていた。教室の茶色い机。おんなじ形の机。かぜ。人がいない町。どうしてか、昼だから。私は書く。私は書く。私は書く。書き重ねる。どうしても、どうしても書く。認められたいの? 書きたいの? そこにいたいの? 痛いのか。居たいのか。いたいのか。風、コンクリート。灰色の砂浜のない海。コンクリートで途切れる海。鳥。コンクリートのひびに溜まった水。空が映る。境目のない海。響く音。低い音。船がずっと通り過ぎていく。あそこに行きたい。海の真ん中に行きたい。そうしたら気持ちいいだろう。帰りたくなくなるだろう。いつまでも。絵本の世界に行ったみたいに。言葉だけが本当だろう。私の心臓の鼓動と、あなたの心臓の鼓動が重なる時。ありきたりな表現で事足りる。愛という言葉で事足りる。私は愛。私と愛。私がいつも通り過ぎるもの。目に見えないもの、実在しないもの。実在しないから、イデアの世界にあるものをきっと「愛」という概念で形作ったんだね。そのことに絶望しないように私はする。ビーナス。お風呂上がりに詩を書く。境目のない詩を書く。海はいつだって繋がっているから。過去も未来も。ビーナス。お風呂から出る。生まれたよう。貝殻が開く。ビーナス。私はいつも、信じている。信じるものがないと信じている。ビーナス。私はいつも懐かしい。私はいつも幼いのに懐かしい。懐かしさとはきっと、曖昧な記憶のことで、過去のことではない。私は今、懐かしい。赤ちゃんだって懐かしい。海に来たら懐かしい。記憶を持たない赤子もきっと懐かしい。知らない誰かの色褪せた景色も懐かしい。学校。病院は懐かしい。おばあちゃんは懐かしい。小さい頃に覚えた歌は懐かしい。いつも同じものは懐かしい。変わらないものは懐かしい。ずっと、目に見えないものは懐かしい。考えたけれども解くことができなかった算数の問題。命の問題。私はお風呂でお母さんに「生まれ変わりってあるの」って聞いた。その後、どこかに帰りたくなった。ビーナス。私はいつも、生まれたよう。生まれたばかりのフリをして生きることは、きっと傷つくことだ。赤子のようにじっとうずくまって、それでも傷つくことだ。私は何かに耐えている。風。風。風。早く、通り過ぎるもの。黒いテレビの画面。たくさん積み上げたカセットテープ。図書館の本の匂い。私の頭の中にある記憶。怒られたこと。泣かせたこと。

リテラルに、忘れないで。ずっと乾いていたよ。ずっと乾いていたよ。ずっと考えていたよ。冬の季節の。桜の木がしなっていたよ。雪を受け止めてしなっていたよ。遠くから見て、忘れないで、それでいていつも祈っていて。私は私に命令した。雨の雫が落ちる水溜りをずっとみていた。その景色。水滴の輪。広がる輪。透明な輪。遠くから見て、忘れないで、それでいてずっと祈っていて。いつかは卒業できるから。いつかは自由になれるから。そう思って私は今。そう思って私は今、書きかけた漫画を開く。絵をずっと、黒い線で塗りつぶしていたことがある。学校にいた頃、消しゴムをエンビツで突き刺したことがある。ノートのページが破れるまで、ボールペンで線を引いたことがある。蟻を殺したことがある。砂を噛んだことがある。私は白い思い出を探す。私はしゃがんで世界を見ていた。字の詰まった詩を書く。のっぺりとした記憶を探し出す。私は書いている。私は書いている。私は書いている。ゆっくりと音がする。私の遠くから音がする。私は書いている。私にしかできない書き方で。私の指で。「手が綺麗ね」と言われた夜。その日から私はその手で、自分の体を撫でる。ゆっくりとゆっくりと撫でる。私はその手を見つめる。「手が綺麗ね」と言われた夜。その日から私はちゃんと爪を切る。昼寝から目覚めて、私は水を飲む。いつの間にか明日になっていないかな。明日は土曜日だから。誰もいないのに、母が私を起こしに来るのを待ってた。このままずっと眠っていようか。誰もいないのに、私は私がまだ眠っているべき理由を探していた。誰もいないのに、私は一人で涙かあくびか、どちらでもない雫をノートにこぼした。寂しさ。私が、私の感覚で感じていることの寂しさ。早く。早く。早く、短く。言葉をつないで。もう忘れて。風をかんじて。繰り返して。ずっとずっと、ずっと乾いていたよ。ずっと考えていたよ。目を閉じて、私は指でなぞっていたよ。頭の中で詩を書いていたよ。眠れない夜に、深呼吸したんだ。こうしていると、あなたが使っていた言葉が私の言葉と重なっていることがわかる。何も知らない私はあなたの世界を見る方法を、私がちゃんと歩く方法と勘違いしたんだ。追いかけていたんだ。さまざまなことを思い出す。桜がしなっていたよ。雪を受け止めて。しなっていたよ。雫を落として。人が立っていたよ。朝日に照らされて、白く光っていたよ。私は夜更かししたんだ。初めて家に帰らなかった夜。誰かと一緒に夜更かしした夜。懐かしくなかったんだ。朝に乗った電車で人が倒れた。誰もが疲れて、目を閉じていた。私、もう大人になったから、といって言い訳をする。だから帰らなくても良いのかもしれない。ずっと。こうやってしていれば良いから。言葉を、書いていれば良いから。

最後までお読みくださりありがとうございます。書くことについて書くこと、とても楽しいので毎日続けていきたいと思います!