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私が移住した言葉の惑星の、『私』は「私」

書かれた私は、私なのだろうか。私が書いたのには違いないが、それが私そのものであると言われても少し違う。

書くことは、別の惑星に自分の分身を組み上げる作業に似ている。その惑星では、人間が生きる環境が整っていない。光も音もないので、見ることも聞くこともできない。その代わりに、「言葉」という感覚器官で外界を把握する。

言葉を食べ、言葉を体に取り込み、言葉を発し、言葉を見つけ、言葉で生み出し、言葉で死に、言葉に分解され、言葉でもう一度生まれる。そんな存在を、どこかにある惑星に産み落とす。

だとしても、それが私であるかどうかは不思議なことだなあ、と思ってしまう。

今、自分の体を構成する肉体の中のどこに心があるか、どこに私と呼べるものがあるのかよくわかっていない。言葉で「私」を作り上げたとしても、「私」を構成する言葉の中のどこに「私」があるのか、どこに「私」と呼べるものがあるのか、よくわからない。それは、問いの舞台が現実世界から「言葉の惑星」に移っただけである。

だから、「これが私だ」と書いたとしても、問題は解決しない。

あるいは、「言葉の惑星」に行ったとしても問題は保存されていると言うことができる。現実世界で、私を問いかけることは難しい。その場合は、舞台を移し替えて同じ問題を言葉で問うのである。「言葉の惑星」なら、現実世界でできないことを色々試してみることができる。その中で、何か発見したら現実で悩んでいる私にアドバイスをすることができる。「私とは何か」という問題は共通しているからだ。

それでいて、言葉で問うことと、実際に現実世界で試すことは違う。

現実に、私というものをはっきりと知りたかったら、どうなるのだろう。自分の周りの人に「私って何?」と自分の鼻を指差して聞くことではない。そうしたとしても「あなたは〇〇さんでしょ。」と言われるか、キョトンとされるかぐらいだろう。そもそも、「私って何?」と言葉で聞いてしまっている。本当に知りたいのは、「これが私だ」とはっきり言えるような確かなものである。

うまく言葉にするのは難しいが、現実に私というものを感じるとしたら、私と私以外の存在がはっきりと区別できている必要がある。そして、私がまぎれもなく存在することが、私にわかること。私は私であり、それ以外にはあり得えず、それがげんに存在している、と何らかの啓示のようなものを感じる必要がある。直感するというか、この体で感じ取ることが必要だ。そしてこれは、誰も代わることができない体験である。私が、私の現実の中で私であると実感しないといけない。

それは、特別な飛躍を必要とすることで、誰もが簡単にできることではない、と思う。いきなりしようとしてできることではない。できるまで、待たなくてはいけない。

それに対して、言葉で「私とは何か」と問うことは違う性質を持つ。

「私は〇〇という名前で、趣味はこれで、ここに住んでいて…」と列挙していっても、いまいち迫りきれないところがある。これは、私という存在をそれを構成する肉体や、感情、着ている服などによって説明する作業と同じだ。

元に存在する、私、と言葉によって考えられる「私」は別のものである。

私、はほとんど思考することが難しい。何かの拍子でポンと生まれてしまった存在。どうしてかここにある存在が、私である。

それに対して、「私」は私が作り出した考えによって対象にされている存在である。

イメージで言うと、生きている意味はあるのか、のように実際の世界で問われるのが前者の私、であり、論理的に「私とは何か」と考えられているものが「私」である。

私と「私」と。わざわざ書き分けているのは、曖昧に語られることが多いからである。そして、曖昧に考えていることも多い。「生きている意味はあるのか」と論理的に、哲学的に考えていく時もあるし、「これが私の生きがいなんだ!」と直感的に悟るように感じることもある。

曖昧でややこしいので、私はその二つを区別して考えている。区別すること、そのものもややこしいのだが、最初にややこしい思いをすることで後は少しはっきりするのではないか。

と言うわけで、私はできるだけ文章では「私」という意味で『私』という単語を使っている。(ややこしい…。)だから、文章に出てくる『私』という単語は、言葉で考えている「私」のことであり、現実世界にいる私のことではない。というのが、プロフィールとしての説明である。

「私」であるために、気をつけていることは、なるべく私生活に関わることを書かないこと、個別的なことを書かないことである。主に、書くことそのものや、誰にでも通じる当たり前なこと、言葉の質感などについて書いている。言葉の惑星に移住した感じとはそういうことである。

最後までお読みくださりありがとうございます。書くことについて書くこと、とても楽しいので毎日続けていきたいと思います!