日曜日①

序章
 私は本を読まない。無論書くこともない。だがこの出来事だけはどこかに記しておきたい。別に誰かに読んで欲しいわけじゃないが、どんな形であれ外に出せるものは出していかないとすぐにでも溢れて沈んでしまう。沈みたくないわけじゃない、願うなら深く深く沈みたい。だか沈むならからっぽの状態で沈んでいきたい。夜の真っ暗な海のど真ん中で、小さな小船に流れ込んできた海水を、命にすがりつくような必死さはないが、ゆったりと水を掻き出す。掻き出せば沈めなくなるはずなのに、沈むためにこの深淵の海に出たのに、ゆったりと水を掻き出す。この文章を書く行為はそんなジレンマの中にある。 
 はじまりは私が高校生だったときだ。私が通ってた高校は地元では有名な進学校で、実際、毎年東大生を輩出してるような実績のある学校だった。そんな学校に進学した私だが、気づけば赤点だらけの落ちこぼれだった。お調子者キャラで友達は多くいたが、今思えば自分よりも遥かに頭の悪い私は、彼らの精神安定剤として受け入れられていただけなのかもしれない。入学時にはみなぎっていた自信も、すぐに周りとの劣等感に変わり、しばらくはお調子者キャラで誤魔化していたが、2年の春には学校に行くことすらサボるようになっていた。だがそれでも学校は続けていた。別に居心地が悪いわけではなかったからだ。開き直って勉強は全くしていなかったし、ただ友達と喋る場所。学校はそんな位置付けだった。先生にはとやかく言われたが特に気にすることはなかった。親も高校生になってからは基本不干渉だった。それでも小言を言われることはあったがこれもあまり気にすることはなかった。私には不良としての素質はあったのかもしれない。実際、生粋の不良の仲間もいた。学校をサボった日はその仲間と遊ぶことが多かった。高校の友達とは違って酒にタバコにナンパ、触れてきたことのない遊びを教えてくれる不良仲間は魅力的で充分に心を開ける間柄であった。高校の友達の中にも特に親しい人間はいた。土日は高校の友達と遊ぶことが多かった。不良仲間とは打って変わって将来の話とか希望を語り合うことが多かった。お互いがお互いを刺激し合う、そんな中にいる自分もまた将来が夢と希望に満ちた明るいもののように感じられ、ここも居心地が良かった。だが実際、私自身には夢も希望も心に通った一本の芯すらなく、ふらふらと居場所を求めていただけだった。私は液体だったのだろう。器によって形を変えていただけ。器なんて何でも良かった。ただ漏れ出ることが無ければそれで良かった。どんな器でも良い。ときに鋭くとがった器に収まったこともある。その器こそが私が生来有していた唯一の器だったのだ。高校3年の夏、私は人を殺した。殺意の器が満ちて溢れ出したのだ…

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日曜日担当は小説に挑戦してみたいと思います。もちろん書くのは初めてです。次回は第1章に入ります。


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