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「人がにっこりする」切り絵のある暮らしーニッポンのヒャッカ第10回 ー

「絵を描くことは独学で学びました。モチーフや図形、形態を組み合わせて絵をつくる切り絵は、僕にとって自由に表現しやすい方法でした。個展を開いたことがきっかけになりましたが、まさか仕事にするとは思ってもいませんでした」

 話してくれたのは、切り絵作家であり、イラストレーターとしても活躍するYUYA(ユウヤ)さん。東京・中野区にアトリエ・フォークを構え、鳥や動物、木や花、太陽など、自然や身近な暮らしのそばにあるモチーフを切り絵で描いた作品で、ライフワークの個展を開いたり、広告イラストを手がけたり、ポストカードやグリーティングカード、一筆箋から手ぬぐい、カレンダー、ハンカチなど、さまざまな商品も手がける活動をしているアーティストだ。

p1-YUYAさん

アトリエ・フォークの代表で切り絵作家・イラストレーターのYUYA(ユウヤ)さん

 もともと美術大学では建築を学び、建築設計事務所に勤務していたというYUYAさんが、切り絵作家として活動を始めたのは2007年から。身近な生活雑貨の小物類から、東急田園都市線たまプラーザ駅直結のショッピングエリア「たまプラーザテラス」の情報誌や、車内ポスターなどに掲載されるメイン・ビジュアルといった大型の依頼作品まで手がけている売れっ子でもある。

 自然のモチーフが大好きというYUYAさんがテーマにしているのは「人がにっこりする絵」。
 明るくて柔らかなブルーやピンク、イエロー、グリーンの彩りに、クリッとした瞳の鳥が羽ばたいていたり、コロリと丸みのあるフルーツが描かれたポストカードをもらったら、たしかに誰もがうれしいだろうな、毎日のお弁当を包む手ぬぐいがこんなカワイイ柄だったらお昼が待ち遠しくなるだろうなと思うような作品ばかりだ。

 そのインスピレーションというか、発想の種はどこからくるのだろうかと思えば、YUYAさんのアトリエの中の身近なところにもあるようだ。YUYAさんの妻であり、パン・お菓子研究家のスパロウ圭子さんと共に営んでいるアトリエ・フォークは、二人の活動の拠点かつ自宅。そこには二人が共通して心惹かれる郷土玩具が、丁寧に棚に飾られている。

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大好きな郷土玩具が棚に飾られた室内。YUYAさんと妻の圭子さんのお気に入りの空間


「民芸品はその土地の人のぬくもりが感じられるような温かみがあり、大好きなのです」

 YUYAさんの作品には鳥をモチーフにした柄が多いが、特に鳥にこだわっているというわけではなく、身近にある民芸品には鳥も多くあり、それと同じように、普遍的な存在である鳥のモチーフに自然と惹かれるではないか、とご自身は分析する。


ハサミが生み出す癒しのモチーフ

「こだわっているのは、色をたくさん使わずに余白を生かして、シンプルにすることです。雪を表すときなどは紙を手でちぎることはありますが、基本はすべてハサミを使って、切り絵らしいハサミのラインを残しています」

 なるほど、確かに明るい色調の中にあるホワイトスペースは、清潔感があり、アクセントとしてもリズムを生んでいるように感じる。

 モチーフもきれいな型どおりに切り抜かれたものではなく、よく見れば見るほど、どこでハサミを入れて、どこまでを一息で切り進めたのかがわかる。だから動物たちの瞳もダルマの瞳も左右対称ではなく、ひとつずつ違う。語りかけてくるような目をしていたり、さえずりそうなクチバシの小鳥もいれば、笑いかけているような口もとのネコもいるわけだ。もちろん、ハサミで切り出された絵はどれも唯一無二の1点モノ。

 モチーフは動物や自然だけでなく、ポットやカップのような食器もあれば、とんがり屋根の家もある。そのどれもが誰の家にもある暮らしに溶け込んだアイテムで、どこかで見覚えがあるような、記憶の中にも溶け込んでいるようなシルエットなのだ。
 しかし、そのモチーフ選びを熟考しているのかと思えば、そうではないそうだ。しかもYUYAさんは作品を手がける時、作り出したら一気に仕上げるという。穏やかな、作品そのもののような雰囲気のYUYAさんだけに、なんだか意外な気もする。

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アトリエ・フォークにて切り絵を制作中のYUYAさん

「思いつきを大切にしています。アイディアが浮かんだらすぐに絵にします。まずはスケッチをして、構図をつくってから切り出します。僕はあれこれ直しながら仕上げていくよりも、一気に勢いよく仕上げる方が楽しい作品ができると感じています」

 心地よい。
 そんな当たり前すぎるような言葉で表現するのはもったいないけれど、誰もがそう感じられるものは、意外に多くはないかもしれないと、YUYAさんの作品を見ていると気づく。
 それを直観的に表現するのだから、プロたるゆえんだろう。

「大げさなものではなく、すんなりと暮らしになじんで、楽しんでもらえるようなものができたらと思っています。それがポストカードでも手ぬぐいでも、なんでもいいのですが、絵があることで、誰かのほっとする空間ができたらと思います」

 暮らしの中の陽だまりのような存在。
 そんな切り絵は自分だけでなく、大切なあの人にも届けたくなる。


アトリエ・フォーク:公式サイト

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