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「六月八日」と名乗るアロマ ーニッポンのヒャッカ第1回ー

 梅雨のシャワーを浴びて、乾ききった樹々がほっと一息つく。森の中に暮らす動物たちも活発に動き出す……。森がもっとも生命力にあふれる「六月八日」に思いを込め、ブランド名として命名したエッセンシャルオイルづくりを手がけているのは、久恒まゆさんだ。

p1-まゆさんとお父様

「六月八日の森」として蒸留の材料採集している、大分県中津市耶馬渓の津民という地域にある山での久恒まゆさんとお父様。
アロマの蒸留以外でなにか植物を活用できないかと様々考えている中で、ワークショップで使用する森のスワッグの材料を集めているところ。

 エッセンシャルオイル「六月八日」は、大分県で林業を営む久恒山林㈱のアロマブランド。林業家でまゆさんの父である社長・雄一郎さんが、8年前に丸太以外に次世代につながる森の力を生かした事業ができないかと思案し、始めた。そこに学生時代を東京で過ごし、木工を学んだ娘のまゆさんが帰郷、家族で「森を守り続け、森の天然素材、大分の農林産物にこだわり、森の空気を少しでも身近に感じてもらえたら」と願いを込めた。
「森はビルやコンクリートなどの無機物と違い、すべてが有機物。生きているものだけで形成されている空間です。森にいると人間もそんな生きものの中のひとつだと感じられるのです」とまゆさん。そんな森の温かみから生まれたのが「六月八日」だと言う。

林業家がつくるアロマは、他と何が違うのか

六月八日p4-表皮ごと使うヒノキのチップ

 なぜ、林業家がアロマなのか。その答えは「エッセンシャルオイルの原料は樹々や草花から抽出した精油だから」。丸太を出荷する木に育てるには30年以上もかかる。エッセンシャルオイルの原料の樹々は、そうした森を健康に育てるために行う間伐で取り除かれた木を利用してつくられる。「伐採した樹木は早ければその日中に精油を抽出するための蒸留にかけます。伐採時期や木の部位によって香りが違うんですよ」とまゆさん。ヒノキなら、木部、枝葉、葉のみに分けてそれぞれアロマになるわけだ。伐採から蒸留までの工程がスピーディに行えるのも林業家ならでは、なのだ。
「葉の方がフレッシュな香りがします。木部はいわゆるヒノキ風呂や木そのものの深い香りですね。他社のヒノキのアロマは製材所などで表皮を取り除いた原料を蒸留しているものが多いのですが、私たちは表皮ごとすべて蒸留するので、香りはより複雑だと思います」
なるほど、ヒノキのアロマと言っても、中身はそれほど違うとは!森を知り尽くし、その木を育てた人だからこそ、その木が放つ香りを、一番の愛情で受け止めてあげられるわけだ。


生まれた木から物語が始まるトレーサビリティ管理

六月八日p2-久恒山林の森

 林業家がつくるアロマは原材料の部位の差だけでなかった。森のどこで育ったどの木から生まれた精油なのか、つまり木の誕生から知っているからこその徹底管理がなされている。「購入いただいたアロマのロット番号を弊社のホームページでご覧いただくと、林齢や部位、採取場所、採取日などの履歴をご確認いただけます」。
 アロマは単なるよい香りの品ではなく、ましてや香水とはまったく別モノだと改めて気づかされる。アロマの業界では、「アロマオイル」という言い方は人工香料や他の添加物が混ざったもののことで、天然素材100%純度の場合は「エッセンシャルオイル(和名では精油)」という表現となる。だから「六月八日」はエッセンシャルオイル。そう、「六月八日」は森の命のしずくなのだと。だからこそ、その木が風に揺れ、大地に根づいていた姿を知っている林業家が、大切に、大切に、エッセンシャルオイルという新たな姿として生まれ変わらせているのだ。
 手のひらに乗るほど小さな3ミリリットルのアロマボトルの中には、大分の森の空気と大地のエネルギーが、間違いなく100%完全濃縮されている。ボトルを開けただけで、ふわりと漂う香りこそ、まゆさんが教えてくれた森そのものなのかもしれない。

六月八日:公式サイト

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