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メガネの町・鯖江生まれの「常識外れの」レンズたちーニッポンのヒャッカ第12回ー

 「めがねのまち さばえ」というキャッチコピーを掲げ、地域産業としてメガネ製造に取り組む福井県鯖江市。その町で66年以上続くサングラスレンズ専門メーカー・乾レンズのオリジナルサングラスが、発売10年目にして公益財団法人日本デザイン振興会主催の2019年「グッドデザイン賞」を受賞した。
その名は「オールタイムサングラス®」。
開発のきっかけと乾レンズについて、常務の諸井晴彦さんに話をきいた。

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発売から10年目の節目でのグッドデザイン賞受賞の際の諸井さん

「OEMメーカーとして多くのブランドのレンズを手がけてきましたが、サングラスは、日本人の日常生活にはなかなか受け入れられにくいと感じていました。例えば白内障の手術をなさった方が、紫外線からの目の保護のためにサングラスをかけていたら『どうした?』と質問される場合がほとんどで、それどころか『かっこつけている』とすらなりかねません。いったいどうすれば日本人にサングラスを受け入れてもらえるのかを考えました」

日本人のためのサングラスを創ろう。
諸井さんが思いついたのは、サングラスなのにレンズを限りなく透明にすることだった。


「オールタイム」に込められた発想の転換

「紫外線や日常のまぶしさから目を守り、サングラスをかけている事を意識させず、どんなシーンでもかけやすい常用できるサングラスを創ったら、理想的なのでは?
 まぶしいのにサングラスをかけられない状況を変えたかったのです」と諸井さん。
 実は諸井さん自身も14年前にある脳の病気を患って以来、光がストレスになったという。自分自身がコンタクトレンズをした上に、まぶしさ軽減のためのサングラスをかける生活は、屋外室内を問わず常用できるサングラスを必要とする人に役立つ商品開発への取り組みへとつながった。

こうして生まれた商品は、「目を守る」ためにいつでもかけられる=「オールタイム」という意味が込められたサングラス。まず紫外線は99%以上カット。さらに、太陽光、スマートフォンやパソコン、蛍光灯・LEDなどから発生している、人の目にまぶしいと感じやすく、慢性的に浴び続けることで目のかすみ、疲れ、頭痛や肩こりの原因となるブルーライトも約40%と効果的に削減させた。これは乾レンズが発明し特許を取得した、ハイドコートという特殊な真空蒸着(コーティング)の成せる技。

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ハイドコートレンズ越しに見た景色。まぶしいと感じやすい青色光がカットされる

「発売当初は、サングラスなのにレンズの色が濃くないのでご質問をたくさんいただきましたが、実はサングラスの色の濃さと紫外線カット率は関係ないのです。また、実際に『オールタイムサングラス』をかけていただくと、いかに見やすく、目が楽なのかに驚かれます」
 自覚がないだけで、実は日々、目は酷使されているというわけだ。
 日常使うメガネと同じように使ってもらうからこそ、メンテナンスの対応も大切にしている。
「状態にもよりますが、基本的には3日程度でお直しさせていただいています。買い替えをご希望のお客様にも、お直しが可能でしたら『もったいないのでお直ししましょうよ』とご提案しております(笑)。大切に使っていただけると作り手としては一番嬉しいですから」

 開発者であり、使う側でもある諸井さん。鯖江の地で目を守るモノづくりに従事しているプロの心意気が伝わってくる。


老眼鏡はさりげなく。使う人だけが知っていればいい

 乾レンズには、その他にも数々のレンズ商品がある。なかでも大人気なのはペンダントタイプの「ドロップルーペ」。言われなければアクセサリーだと思うほどのデザインで、従来のいかにも老眼鏡やルーペという品とはベツモノだ。トンボ玉もセンス良くアクセントとして効いている。

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ドロップルーペ。かわいらしくもあり、連戦されたデザインはアクセサリーのよう

「ルーペは人に勧めにくい、特に女性には、微妙な商品です。誰でも年齢を感じたくないため、ルーペをお勧めするのは失礼になりかねませんから。そこで、ご家族がプレゼントしたくなるような、もらった人も自慢したくなるようなルーペを創りたかったのです」

 なるほど、消費者心理を考えれば、老眼鏡を使うこと自体、できれば否定したいもの。そこに使う楽しみやワクワクをプラスするなんて!しかも、このドロップルーペ、白っぽいオフカラーの服では柔らかいブルーや薄いパープルに光り、黒っぽい服ではキラキラとメタリックに輝く。こんなルーペが胸元で煌めいていたらと想像するだけで、誰もがご機嫌になりそうだ。

p4-ドロップルーペ ドルチェブルー白

ドロップルーペ「ドルチェブルー」。やさしいブルーの色合いになっているから不思議

「ペンダント型のルーペは従来からありますが、着合わせを考える女性にとって、日々のファッションにコーディネイトしにくいものが多いことに気づきました。老眼鏡、いかにもルーペと主張せず、‟あくまでもさりげなく”が女性に喜んでいただけるとわかったのは、妻をはじめ、女性スタッフに意見を求めたからです」

 そんな諸井さんのレンズ愛はとどまることを知らない。
 今度はサングラスにさりげなくルーペを付けて、絶対に老眼鏡だとわからないようなものを…とアイディアは次々に生まれる。常に使い手の立場で商品開発を進めてきた鯖江の老舗は、進化しているからこそ今も第一線を突っ走っているのだと、くったくなく、底抜けに明るい諸井さんの仕事ぶりが教えてくれる。

「レンズのプロ、パーツメーカーだからこそできるアイディアを練っていきたいですね。
 日常に溶け込むもの。
 使っていて楽で、喜んで、自慢してもらえるものを。だって鯖江ですから!(笑)」


乾レンズ:公式サイト

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