見出し画像

【寄稿】BooksPROとは何か? どう誕生したか?:一般社団法人日本出版インフラセンター(JPO)専務理事 渡辺政信

調整ポートレート

日本出版インフラセンター 専務理事 渡辺政信 氏

JPOが運営する書店向け出版情報サイト「BooksPRO」は、この3月でオープン1年を迎えました。皆さまは、ご覧になったことはありますか? 業務に活用されているでしょうか? 実際に商品の注文につなげたことはおありでしょうか? 今回は、「日販通信」の誌面を借りて、JPOのこれまでの活動・思いの集大成ともいえるBooksPROをご紹介し、その機能をご説明します。

1.JPOから JPRO、そしてBooksPROへの道のり

まず、BooksPROをより良く理解していただくために、少々時代を遡りましょう。いま、出版社の編集、営業、宣伝は、手掛けた書籍・雑誌をいかに書店に売っていただくか、読者に認知させるかに汲々としていますが、私が前職の新潮社に入社した1979年ごろといえば、出版社はいかに良い本に仕上げるかが勝負、流通や販売は取次会社・書店にお任せという風潮がまだ根強かったと記憶しています。

それでも、刊行点数増、部数増への対応に迫られ、出版社の一部有志は取次会社や書店の協力を得つつ、流通効率化や販売情報の交換のための規格統一に着手していました。その結実が、次の通りです。

(ア)書籍商品の分類・価格情報をID(ISBN)に絡めた「日本図書コード」(1981年~)
(イ)雑誌商品の刊行形態・誌名情報(雑誌コード)・年月号・価格を絡めたコード。現行は「定期刊行物コード」(2004年~)
(ウ)全国の書店に固有のID(共有書店コード)を割り当て、書店名、番線等の情報を絡めた「共有書店マスタ」(1999年~) 
※下図「JPO進化系統図」参照

JPOの進化

単発で誕生したこれらア~ウの一体管理のため、出版業界の総意で組織されたのが「日本出版インフラセンター」(JPO 2009年~)であり、その基盤の上に、2014年、出版情報を出版社自身が発信することを助け、取次・書店が受信できる基盤作りを目的にJPO内に新組織「出版情報登録センター」(JPRO)を設立したというのが事の経緯です。

出版社は、JPROに、基本的な書誌のみならず、書影その他の画像、目次、内容紹介、著者情報、販促情報、図書館選書に役立つ情報、物流関連情報、出版権情報等々を登録、取次会社・書店・一般読者向けに発信することが可能になりました。

これらの機能を実現するJPROデータベースは、国際的なEDI(電子データ交換)標準「ONIX」で設計されています。ただ、私も出版社委員として参加していたJPROの管理委員会は、当初、システム構築が精一杯で、活用目的の提示が十分ではなかったかもしれません。出版社の参加も伸び悩んでいたので、一通りシステムが出来上がったところで、「使えるJPRO」をスローガンに、まずは取次会社の具体的ニーズの取り込みに着手しました。

折しも、取次協会が取り組んでいた「業量平準化」への対応として、出版社が入力した予定部数や搬入日等の情報をJPRO経由で入手できる仕組みを2019年から稼働させました。取次各社は、業界共通インフラとしてのJPROの使い勝手に早期に注目され、上記のみならず、広報誌や仕入窓口等でうまく活用いただいていると思います。

2.BooksPROのコンセプト誕生まで

JPROの有用性を出版社に説いていただいた日本出版販売はじめ取次各社の後押しもあり、JPROに出版情報を登録する出版社は、2015年の755社から、今年3月段階で2100社と、大幅に増加しました。今や新刊書籍、コミックス、ムックの中でJPRO登録があるタイトルは90%、書籍に限れば95%を超えるまでになっています。

しかし、国際的なEDI規格で運用されるJPROデータベースは、取次会社や大手書店本部では受信可能なものの、大多数の書店にとっては敷居の高いものです。大量の既刊更新情報・新刊情報を一定のフォーマットで毎日2回受信というやり方ですから、結局システム構築を断念されたり、取り込んでも活用までは至らなかったりというケースも見られました。

出版社から取次会社までは情報が届いたが、多くの書店には届かない。書店・取次会社・出版社の「情報三位一体」は未だしで、JPRO管理委員会が標榜していた「使えるJPRO」は完結せず……。どうすればいいのか?

解決策、アイデアは、やはり現場にあるものです。一昨年4月、JPRO管理委員長だった集英社の柳本重民常務(当時)と私で、横浜市の「浜書房」を見学させていただいたときのことです。売場を拝見しつつ、案内していただいた増田めぐみ役員にレジ前であれこれお話を伺う中で、「来店客の問い合わせ対応にはAmazonのサイトを使っている」とのご発言がありました。

よくあること、なのかもしれませんが、出版社にJPROへの情報登録を呼びかけている柳本さんや私にとっては、淋しい現実でした。「やはり、書店さんでもAmazonなのですか」。その時、思い出したのが「Books」の存在です。

Booksは、もともと日本書籍出版協会(書協)が運営していた一般向けの書誌検索サイトで、誰もがPCやスマホで見られます。ちょうどその年の1月、書協の持っていたデータベースをJPROに統合するのに伴い、JPOが運営者となったのでした。増田さんに「Booksをご覧になったことはありますか」とお尋ねすると、ない、と。

小生のスマホで実際にご覧に入れると、「問い合わせ対応には使える!」と言っていただきました。多少、我々2人を憐れんでのお言葉だったかもしれません。

ご覧になられた方はおわかりの通り、Booksは、書名、著者名、書影、内容紹介、目次、本体、刊行日等が表示されるだけのシンプルな画面構成です。原則、既刊の情報が対象です。しかし、JPROデータベースには、近刊の情報もあります。出版社の意志次第ですが、何か月も先の近刊情報も登録できます。

既刊の検索だけでなく、これから出る本についても「いついつ発売で、いくらです」と答えられるなら、書店業務の助けになるのではないか?と、その場で3人は盛り上がりました。「本のプロ」である書店員さんのためのBooks=「BooksPRO」の発想の誕生でした。

3.BooksPROに込められた思いと機能

それから、柳本さんを中心に、JPRO管理委員会の委員の間でどのようなサイト、サービスにするかの検討が始まりました。基本コンセプトは「JPROの見える化」です。

出版社がJPROデータベースにせっかく貴重な情報を登録しているのに、受信システムが組める取次・書店にしか届かないのでは、出版社にも申し訳がたちません。日本中どこの書店でも普通にPCやスマホで閲覧でき、ビジュアルはBooksに準ずるが、本のプロ向けにこれから出る本も探せ、さらに出版社が発信する映像化や書評、受賞などの販促情報も入手できる。そしてもちろん、いくら見ても無料。

実際に増田さん始め書店の皆さまからご意見をいただきながら、サイトの構造や機能を決めていき、着想から1年足らずの20年3月10日、「BooksPRO」は日の目を見ました。

このサイトをどう活用するかは、この特集の別のパートで、書店の皆さま、日販さまから具体的なご提案があると聞いております。私としては、BooksPROの各種機能が、どのような思い、狙いで実装されたかをご説明し、ユーザーである書店・取次会社の皆さまから、今後の運用改善、システム改修のご意見をいただくきっかけにしたいと思います。

①サイトへのアクセスID:冒頭でご説明したJPOが管理する全国の書店に割り当てられた固有のID(共有書店コード)を使用します。自店のコードがおわかりにならなくても、初回アクセスの画面で検索ができます。

ユーザー登録は「共有書店コード」をIDに


②近刊カレンダー:アクセス後、最初の画面はカレンダー形式で、「何月何日には何点の商品が発売になるか」がわかるようになっています。そこから各々の詳細情報に飛ぶ形です。

近刊カレンダー(日販)


画面上部には、「文芸・人文」「コミックス・ゲーム」などジャンルを絞り込むボタンがあります。
⇒ ②、③により、「〇日の着荷はどのくらいか? 人をどのくらい割り振るか」や、コミックス、人文など担当分野別に日々の業務をイメージするのに役立てていただきたいと思います。

文芸・人文などのジャンルボタンと検索窓

④検索はフリーワード対応で、断片的な情報でのお問い合わせにもお役立ていただけます。

⑤販促情報ヘッドライン:カレンダーの下は販促情報の見出しが並んでいます。販促情報もメディア化情報、メディアで紹介、書評情報等の種別で絞り込めます。直近の改修で、「どの版元の、何の本について、いつ、どんな情報なのか」というキモがすぐわかる見出しになりました。

販促情報ヘッドライン


⑥雑誌情報も表示:当初BooksPROは書籍、コミックス、ムックの情報サイトでしたが、今年1月から定期誌の基本情報も表示することになりました。ただ、まだまだプアな内容ですので、この夏には、版元が雑誌の詳細情報(付録、特集、売りの画像等)を登録できるようJPROを改修し、BooksPROの表示をリッチにしたいと思っています。

雑誌の情報も探せます


⑦JPROためし読み:JPROは独自のためし読みシステムを運用しており、BooksPROでも一部書籍、雑誌について書店員さんがためし読みできます。ご自身の業務の参考だけでなく、お客様に近刊や欠本のためし読みを提示し注文へ、というような流れが実現できたらと思いますが、まだまだためし読みコンテンツを出す版元が少ないので、書店の皆さまから版元の尻を叩いていただければと思います。

2ためし読みが出来る商品には「ためし読み」ボタンを表示


⑧発注:BooksPROを通じて注文できたら、というのが当初から一番多かったご要望です。BooksPROと出版社系注文サイト「S-Book」、「Webまるこ」、「WebHotLine」、「一冊!取引所」との「直連携」が3月24日から始まっています。これはBooksPROで注文したい商品を見つけたら、その書誌ページからこれら注文サイトの商品ページに直接飛べる仕組みです。6月末には「Bookインタラクティブ」も加わり、150社以上の版元の商品が対象になります。

2BooksPRO商品詳細ページ。注文サイトにも飛べます。

以上の機能の説明は、わかりやすい動画でもご覧になれます。とはいえ、BooksPROの充実は、柳本さんの口癖である「出版社の3つのQ」(Quickly 早く、Quality 質の高い情報を、Quantity 大量に出す)にかかっており、出版社をその気にさせるのは多くの書店の皆さまの声です。BooksPROを本当に使えるものに育てるため、多くのご意見をお待ちしております。

【関連記事】
【寄稿】BooksPROによる情報の充実で、書店の業務改善と伝える力の強化を:浜書房 取締役 増田めぐみ

BooksPRO活用における店頭での現状と課題:三省堂書店神保町本店 杉本佳文本店長、杉浦正人副本店長に聞く

事前情報の共有を効果的なプロモーションにつなげるために:日販 流通改革推進部 パートナーズ推進課 課長 古幡瑞穂
特集記事すべてと読みもの連載が一冊にまとまった広報誌「日販通信」も販売中です。どなたでも購入いただけますので、ページ最下部のメールアドレスよりお申し込みください。
・頒価:702円(税込・送料別/1部92円)※年間定期購読は送料込み4,760円
・仕様:A5判(5月号は43ページ)
※お問い合わせはこちら E-mail: senden@nippan.co.jp

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?