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BooksPRO活用における店頭での現状と課題:三省堂書店神保町本店 杉本佳文本店長、杉浦正人副本店長に聞く

出版情報を書店に届けるため開設されたポータルサイト「BooksPRO」について、実際に活用する側の書店では、現状どのような使用感を持ち、どういった点に期待を持っているのか。ここでは、三省堂書店神保町本店の本店長・杉本佳文氏と、同副本店長・杉浦正人氏にお答えいただいた。

BooksPROの利用状況について

――貴社でBooksPROを使っていらっしゃるのはどのような立場の方ですか?
 
社員や、商品を発注する従業員(社員、ベテランアルバイト)です。(杉本本店長、杉浦副本店長)

――閲覧の頻度について教えてください。
 
私は週に1回程度です。(杉本本店長)
 
多い人は毎日見ています。(杉浦副本店長)

――BooksPROの閲覧にあたって、デバイスは何を使われることが多いですか?(PC/タブレット/スマートフォン)
 
PCです。(杉本本店長、杉浦副本店長)

――BooksPROの使用開始前と後では、貴店の情報収集はどのように変わりましたか?
 
現状はあまり変化はありません。(杉本本店長)
 
今までの情報プラスαとしてBooksPROを見ている状況です。(杉浦副本店長)

――よく活用されているコンテンツは何ですか? その用途についても教えてください。
 
近刊カレンダーを、お客様からの発売日の問い合わせ対応に使用しています。ただし、日曜祝日など、本来あり得ない発売日設定なども見受けられます。同一商品でも実際の入荷日は取次や販売店によって異なっているのがこの業界の現状です。おおよそで良ければお答えできますが、正確な日にちを聞かれた場合は結局、取次マターになります。(杉本本店長)
 
近刊カレンダーで、事前に銘柄の確認をしています。入荷時には、新刊の配本があったかどうかの確認にも使用しています。(杉浦副本店長)

――近刊カレンダーを、具体的にはどのように活用されているのですか?
 
担当ジャンルを閲覧しています。刊行点数が多い日などにカレンダーで確認するには有効かもしれませんが、最終的にNOCSの方が情報は正確であり、当店ではそちらの利用の方が多いです。(杉本本店長)
 
大型新刊の発売日に、ほかの新刊がどれくらい発売されるかを確認します。当日の人の手配のためもありますが、大型新刊含めその日発売する書籍の展開場所を考えるためという理由が大きいです。(杉浦副本店長)

――情報の速度や質、量における、現状の満足度について教えてください。また足りていないと思われる点を具体的に教えてください(特に情報が不足していると思われるジャンル、項目など)。
 
雑誌を中心とした定期刊行物はほとんど登録がされておらず、いまの段階ではほとんど使えません。Amazonと比較すると、まだ足りていない部分が多くあります。(杉本本店長)
 
情報の速度や質、量の満足度は10点中6点程度です。各出版社が電話やメールなどで教えてくれる情報に比べると、劣るところが多いです。欲を言えば、SNSでバズった商品などのカテゴリがあるとありがたいです。(杉浦副本店長)

――BooksPROならではと思われる、有益なコンテンツとしてはどのようなものがありますか? また、おすすめの活用方法がありましたら教えてください。
 
何か目的を持って利用するというより、ある程度出版情報がまとまって集まるような部署や担当が、「この情報は聞いたことがない」「このPOPは有効なのではないか」と軽く目を通すイメージです。
 
おもしろいネタや販促のヒントを探すなど、現状では、現場担当者よりも本部担当者にとっての利用価値のほうが高いのではないでしょうか。(杉本本店長)
 
近刊予定の書影が見られるのは良いです。Amazonより見やすいと思います。(杉浦副本店長)

――売れ筋の販促情報、POP、チラシのダウンロードは活用されていますか?
 
現状していません。(杉本本店長、杉浦副本店長)

今回追加された新機能について

――「出版社系の受注サイトとの連携」が3月24日から開始されました。この連携は、発注業務においてどのような効果を発揮しますか? また、今後に期待することについてお聞かせください。
 
発注については自社分析データをもとに行うことが多いので、BooksPROを利用しながら発注サイトへリンクするといった状況はあまり考えられません。(杉本本店長)
 
各社サイトがブラウザにブックマークされているので、現状は使用していません。既存のサイト(BookインタラクティブやS-book.netなど)より少ないクリック数で発注できるのであれば使用します。(杉浦副本店長)

――「雑誌情報の表示」では、2021年夏頃をめどに、目次、内容や特集の紹介、付録の情報の追加など、さらに充実が図られる予定とあります。具体的にはどのような情報の追加が望まれますか?
 
特集、付録の情報が追加されるのは、大変ありがたいです。(杉本本店長)
 
加えて、裏表紙の画像があるといいですね。お客様から問い合わせを受ける時の情報が、裏表紙の画像のみのことがあるからです。裏表紙のみから雑誌を特定するのは難しい場合もあるため、もし表紙とセットで掲載いただければすごく助かることがあります。
 
また、表紙違いやミニ版の増刊号が出ているかどうかを知りたいです。(杉浦副本店長)

――雑誌情報の充実は、どのように店頭業務の改善につながりそうでしょうか?
 
情報提供のスピード感にもよりますが、売れそうな号は追加するなど、部数の変更が事前にできるようになるかもしれません。ただし、現状、雑誌の配本は取次会社による部分が大きく、根本の改善が必要だと思います。(杉本本店長)
 
発注数の最適化や、問い合わせ対応の迅速化につながると思います。(杉浦副本店長)

――「販促情報表示の改善」では、具体的にどのような点がよくなったとお考えですか? またさらなる改善を望むのはどのようなところですか?
 
基本的に、すべての刊行物がもれなく掲載されるようになってほしいです。(杉本本店長)

――「ためし読みの本格導入」について、今後、どのようなジャンルのためし読みが充実して欲しいですか?
 
アート・図鑑など、ビジュアル中心の出版物です。FAXやメールでは表紙画像までがほとんどで、こういった写真類が構成上重要な出版物は、今まで出版社の担当の方が臨店の上、パンフレットやゲラを提示いただくことが多かったです。しかし、このためし読みが充実すれば、今後はその代わりになるかもしれません。(杉本本店長)

業界のインフラとしてBooksPROに望むこと

――これから出る本、近刊の書誌データの書店にとっての重要性について、どのようにお考えですか?

「顧客より先に小売店が(出版)情報を取得する」ことは、他業種であれば普通のことだと思いますが、出版社の数や販売形態の多様化などを考えると、なかなか難しいのではないでしょうか。ある程度のところで妥協せざるを得ないと考えるのが、今のところ現実的だと思います。(杉本本店長)
 
近刊データは、発注やお客様対応時において、とても重要です。入荷の種類が少なく、どういった商品が発売されているか気づきにくい小さな店舗ほど、重要さは増すのではないでしょうか。(杉浦副本店長)

――出版界でマーケットインの考え方を実現するために、書店側としてはどのようにBooksPROを活用していきたいとお考えですか?
 
小売店である我々は、顧客に一番近しい存在であることが利点です。

BooksPROを利用することで、顧客の情報を出版社や取次会社へフィードバックできるような方法があれば、少なからず活用できると考えます。(杉本本店長) 

――BooksPROの活用で、貴社では仕入・店頭展開をどのように変えていきたいとお考えですか?
 
残念ながら現状では活用の場面が少なく、仕入れや店頭展開に変化を及ぼすようなツールとはなっていません。今後の発展に期待したいです。(杉本本店長)

――その実現のために取次・出版社に要望することはありますか?

やはり、まずはデータベースの強化ではないでしょうか。書誌の基本的情報のスピード感や情報量は、まだまだAmazonとの差は大きいのが現状です。
 
POPや重版情報など独自性をうかがわせるものも少なくないですが、それらも質・量ともにデータベースの情報量に比例しているので、いまのところ実用性は低いです。(杉本本店長)

――そのほか、ご意見などございましたらお聞かせください。
 
現場の情報収集として使用しているのは、社内の独自ツール、取次会社のツール、大手出版社のツールなど多種多様です。それぞれ必ず閲覧し、使用しないと業務に支障が出るシステムが組み込まれているので、使用する場面は必ずあります。しかし、現状でもそれらを閲覧、活用する時間は限られているので、必然的にBooksPROの優先度は低くなってしまいます。
 
現場以外の本部担当者など、BooksPROを頻繁に活用する担当者が内容を吟味し、有効な情報を吸い上げて現場にフィードバックするような形が、当社では現実的かもしれないと考えています。(杉本本店長)

(取材・構成 本誌編集部 猪越)

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