見出し画像

06 生存者

 処理棟へ急行すると、クリーンルームのテーブルには箱形のケースが置かれており、その中には動くおまんじゅうが居た。

 その部屋には、研究仲間のジムも居た。
「ブンタ。熱処理しようとしたのですが、加熱器からほぼ原型のまま現れまして」
「どういうことですか?」
「熱で死なないので、急遽、追加テストを種々行ったのですが、検体OMJ1244はどうやら、高温、超低音、無酸素、低重力、0気圧のどの環境にも生き延びる、適応力を備えているようです。どんな悪条件に晒してみても、ほぼ原型のまま現れまして」

「まるで、エイリアンだな……」
 思わずそう呟いた私の脇は、ビッショリと濡れていた。本来、分析担当である私が気付かなければならなかったのだ。検体の擬態能力を発見した程度で喜び、調子に乗っている場合ではなかったのだ。


 あわてて訪れた「駆け込み寺」。相談役の科学者、サンドウィッチ博士は、お前はバカか? とでも言いたげな口調で言った。
「高温で死ぬなら、この星までたどり着いたのは不自然ではないか。降下の摩擦熱でほぼ死滅するはずであるというのに」

 私には、博士が何を言っているのかわからなかった。
「件(くだん)の流星群を、生き延びてきた検体だぞ? コレは」

「なんだって?」
 私の声は思わず上ずっていた。
「あの流星群の生き残り? そんな大事な情報が、なぜ調査担当の私に降りてこなかったんですか!」

「先入観ありでの調査をさせないため、だろうよ」
「そんな! ならば、この形はどうです! 俵型のボディに、焦げ茶色の照り返す上面! どこからどう見ても、我が祖国の栗まんじゅうじゃないですか! 先入観以外の何物でもない。宇宙から来た訳がない!」
 突きつけられた現実を受け止め切れない私が、先入観をたっぷり塗りたくった言葉をぶつけると、博士は不思議がった。
「クリマンジュ?」
 博士は優秀であった。しかし、東洋の食文化には門外漢であったのだ。


――――
次回:エゴ的な「いないいない」

ここから先は

0字
明るく楽しく激しい、セルフパブリッシング・エンターテインメント・SFマガジン。気鋭の作家が集まって、一筆入魂の作品をお届けします。 月一回以上更新。筆が進めば週刊もあるかも!? ぜひ定期購読お願いします。

2016年から活動しているセルパブSF雑誌『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』のnote版です。

もしよろしければサポートをお願いいたします。頂いたサポートは、他の方の著作をサポートする為に使わせて頂きます。