その人がその人であることの不思議_

その人がその人であることの不思議。

「澤さんは興味があるんだね」

と言われて、おっ、と思った。

昨日の『listen.』で参加者さんとおしゃべりをしていた時のことである。

そう、僕は人の話を聞くとき、その人に興味がある。

その人は、自分とはまったく違う環境で、まったく違うやり方で、まったく違う好みを持ち、まったく違う出来事に遭遇している。

それって、どういうことなんだろう。
その人がその人であることって、一体なんなんだろう。

言われるまで気づかなかったけれど、そんな関心を寄せて、話を聞いているらしい。

そんな僕だが、かつては「澤さんは人に興味がないね」と言われ続けていた。僕の「きくこと」の師匠、橋本久仁彦さんに。

「興味あるわ!」と内心反発していたけれど、いま思うと、なかったなぁと思う。当時は橋本さんから教わることをわかりたい、習得したいという気持ちでいっぱいだった。「きける人」になりたかった。

いまは「きける人」かどうかには興味がない。「きく力」があるのかどうかも分からない。ただ、話を聞くのが小説やドラマや映画よりも面白いと感じている(この感覚も「興味ないね」と言われていた頃にはなかった)。「事実は小説より奇なり」って本当だなと思う。

昨日もおしゃべりの後に、それこそ映画を観終えたみたいに「面白かった」と言い合えた。マニアックすぎるかな、とちょっとだけ不安だったから、そう言ってもらえてホッとした。

その人の語りから物語の中に入って、僕の知らない空間にある壁の手触りや温度、その人から見えている景色を体験したい。僕から見える景色ではなく、その人の世界の中から「これなあに」とか「どうしてそう思うの」と尋ねてみたい。

「きくこと」に際して、僕にはそんな思いがある。

だって、めっちゃ面白いじゃない。
自分以外の人生を生きている人って。

そんなおしゃべりが終わると、後にはいくつかの謎が残る。

それはすぐには解けない謎だ。その場で理解したいわけでもなく、答えを求めているわけでもない。ただ「どうしてなんだろう」とぽつんと残るような謎。

昨日も終わりぎわにそんな謎について質問をぽつんとして、相手をちょっと驚かせてしまった。

でも、映画や小説と違って、次には忘れているかもしれないその謎があることが、人の話の面白さでもあると思う。

人生にはたぶん、そんなふうに回収されない伏線が無数にあるんだと思う。

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